第三話 仮面⑪
目が覚めると、そこは自分の部屋ではなかった。
白い壁、黄色いカーテン、温かいベッドと布団。
服も私服ではなく、白い縦縞が入ったピンクのパジャマのようなものだった。
それで気づいた。ここは病室だ。
「目が覚めましたか?」
ベッドの隣にある椅子に腰かける青年。
えーっと、前に上木原さんの家に行ったときにいた……。
「ちーちゃん?」
「そうです……。本当は頼光と呼んでもらいたいんですけどね。今回は特別とします」
「あたしは一体……?」
「あなたは長く眠っていたんですよ。
具体的なことはそれはお母さんが来た時に説明します。
まずは目覚めたことをお母さんに伝えないと……」
彼は腕時計型端末でお母さんにメールを送る。
「ねぇ? ちーちゃん?」
メールを送り終えたタイミングであたしは話しかける。
「何ですか?」
「人間って理想を追い求めてはいけないのかな?」
その言葉を聞いて、ちーちゃんは眉を動かした。
「いきなりどうしたんですか?」
「変な夢を見たんですよ。
理想通りの姿になったのに、欲しかった友達を手に入れることができない夢を……」
ちーちゃんは頭を掻いた。
意味の分からないことを言って、困らせてしまったのかもしれない。
でも、数秒考えたあと、彼はあたしの目を見て考えを述べた。
「そんなことはないと思います。
生物というのは成長するものです。
向上すること、それを願うことはいいことだと思います。
でも……」
「でも」とちーちゃんは強調した。
「人は力のある者を妬みます。
妬むのを諦めたら崇められるんです。
対等に見られることなんてないんです。
結局、理想を叶えるということは他者との交流を断つことなんです……」
ちーちゃんは窓の外を見た。
外は都会の光に照らされた夜空から大粒の雨が降っていた。
あたしにはまるで誰かの代わりに泣いてあげているように思えた。
そう思ったのは……なんでだろう……?
▷▷▷▷
涙が出なかった。
脱水症状になるくらい流したいのに出なかった。
叫びたいのに言葉がでなかった。
ただ無残に散らばった鉄くずたちを、彼女の一部だったものを、眺めながら、俺は動けずにいた。
そんな俺のもとに上木原さんは歩み寄り、俺の肩を叩いた。
彼から言葉が発せられるまで時間がかかった。
沈黙ののち、彼は言った。
「百年くらい前、日本の首相がこんなことを言ったらしい……。
『人の命は地球より重い』ってね。
じゃあ、神様や怪異や人造人間の命は、どれくらい重いんだろうな……?」
俺の肩から上木原さんの手が離れる。
彼は静かにこの部屋から出た。
俺の頭の中でその言葉がこだました。
「神様や怪異や人造人間の命は、どれくらい重いんだろうな……?」




