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第三話 仮面⑩

 その言葉を吐き捨てると彼はあたしに飛びかかってきた。


 力を込められた拳が、椅子に縛られた女の子を目指して、振り落とされる。


 拳を喰らった鉄の鎖やパイプいすは木端微塵になった。


 あたしは鎖を引きちぎってから上に飛び、彼から距離のあるところに着地する。


「何なの……? その怪力?」


 彼に視線を送ると、自然と目が合う。


「俺もある意味偽物なんですよね。中身は本物ですけど」


 意味深な言葉を放ってから、彼はもう一度あたしに殴りかかる。


 その拳はあたしの長髪にかすり、何本か切れた毛髪が宙を舞う。  


 反撃するしかない。あたしはそう感じた。


 あたしはすかさずカウンターで、彼の腹に右手で一発入れる。


 彼の身体は舞い上がり、天井にめり込む。


 そこからヒビが広がり、蜘蛛の巣のような模様を作る。


「ガッ……!」


 口から血を吐き、それがポタリと地面に落ち、彼自身も重力に負け自由落下してくる。


 そして、あたしはサッカーのボレーのように、頭から落ちる彼の腹に蹴りを入れる。


 メキメキメキッと、聞こえてはいけない音が聞こえた。


「ぐぁッ!!!」


 今度は横に飛ばされ、彼は壁に背をぶつけて、地面にうつ伏せに倒れる。


「骨を何本かやったと思うわ……。特に脊髄が……。


 あなたはもう立ち上がれない……。


 これ以上続けても……」


「続けますよ……もちろん」


 さとし君は、歯を食いしばりながら、立ち上がる(・・・・・)


 どうして立ち上がれるの……?


 よく見ると出血も止まっている。


「なんで……? なんで立てるの……?」


「この体、治りが早いんですよね……。


 というか、先輩もそんな足で大丈夫ですか……?」


 そう言われて自分の下半身を見る。


 すると、あたしの右足が折れていて、そこから導線やら金属やらが飛び出していて、火花を上げていた。


 全く気付かなかった……。痛みが全く感じなかったから……。


 その破損した部分にナノロボットが内側から、砂糖を見つけた蟻の大群のように、群がる。


 そのロボットたちはすぐに姿を消し、そして、あたしの足は完全に修復していた。


「おい、おい、おい。


 回復力も俺以上ってところですか……。これは参ったな……」


 さとし君はそう本音を漏らすと、また拳を構えた。


 あたしも迎え撃とうと、拳を構える。


「先輩って、もしかして武道やってました? 構えが様になってるんですけど……」


「空手とテコンドーを少しね」


「マジかよ……。勝ち目ねーじゃん……」


 そう言いながらも構えたまま接近してくる。


 脅えながらも恐怖に立ち向かう姿勢につい惚れ直してしまった。


 今度はあたしから仕掛ける。


 あたしの走り出しと同時に、さとし君が身構える。


 右からも左からも繰り出される拳に彼は避けるしか術がなかった。


「あなたはこれからどうしたいんですか!?」


 さとし君があたしに語りかける。


「ここから逃げても、本物のれいか先輩が死んでしまい、その罪悪感を背負いながら生きていくしかないんですよ!?」


 あたしの手首がさとし君に掴まれる。


 強い力で握られた腕を、全く動かすことができなくなった。


「頼光のやつが、これ以外の方法で彼女を解放しても、あなたは死んでしまう。


 彼女がこのまま死んでも、操作者を失ったあなたは死んでしまう。


 結局、あなたには消えるしか手段がないんですよ!?」


「分かってる……! 分かってるわよッ!!!」


 足を払い、彼を地面に叩きつける。


 手首が解放されないので、そのまま馬乗りして、彼の動きも封じる。


「あたしは家杉家の娘として、文武両道でいなければいけなかった!

 

 カリスマでいなければいけなかった!


 でも、努力のために人との交流を断たれたせいで、友達もいなかった。


 だから、高校生になったら、人気者になって友達をたくさん作ろうとして、あのサイトに手を出したの!


 ヘッドマウントディスプレイをつけて、人を魅了する新しい体を操れば、理想の自分になれるって……。


 綺麗な自分になって、運動ができる自分になって、頭がいい自分になって、皆から認められると思った。


 でも、結局、人気者になったけど、近寄りがたく感じられて友達ができなかった……。


 折角、理想の自分になれたのに……」


「でも、そう願ったのはあなたじゃない……。


 結局、彼女は理想の自分になってる夢を見ているだけだ」


「……分かってる、いや、分からない!」


 頭の中が矛盾だらけで、混沌としていて、思考を難しくしている。


「仕事人間の父と優しい母の間に生まれて、苦節ありながら生きてきたつもりだったのに、いきなり『お前は偽物だ』、『お前はロボットだ』と言われて頭の中、混乱しているのよ!


 理想を追い求めて苦労して、理想を叶えたと思ったら予想と違って苦悩して、最後は偽物だから、本物を助けなきゃいけないから死んでくださいと頼まれる……。


 そんな報われていない状況で死ぬことなんてできないじゃない!


 そんなの納得できない!」


 あたしの瞳からは涙がこぼれた。


 彼の胸元だけ雨が降ったかのように濡れる。


 入った力も抜けていき、気力もなくなっていった。


 もうどうでもいい……。


 そんな投げやりな気持ちになっていると……。


「先輩、そんなのはわがままです。


 この世界で納得のいくまま死んでいる人が何人いると思ってるんですか?


 人はもっと生きたいのに、死にたいのにある日突然死んでしまうんですよ。


 満足いってから、死にたい……。


 そんなのただの高望みです……。


 だから……」


 彼の言葉が詰まる。


 目を反らして、苦い顔をする。


「『だから、死んでください』って? そんなの出来ないよ……。


 死ぬ気のない人に頼むお願い事じゃないよ……。


 君が殺しにかかってもあたしは抵抗する。


 好きな人にも殺されたくない……」


「俺だって、殺したくないですよ!」


「俺を学校中から嫌わせたのは、俺に優しくしてくれたのは、俺に笑顔で関わってくれたのは、あなたじゃないですか?


 俺にとってはあなたがれいか先輩なんです!


 俺にとってはあなたが本物なんです!


 でも……あなたが死ななければ彼女も死んでしまう。


 彼女のお母さん、お父さんも悲しんでしまう。


 だから、俺は決めたんです……。


 あなたを壊すしかないって……。


 悲しむのは俺だけでいいって……」


 強い眼差しで見つめるさとし君。


 目を赤くし、頬には涙が伝う。


「なんでそんなこと思うの?


 あたしは君に何もしていない……」


「あなたに愛された……。


 それだけで俺は満足です。


 そうやって存在意義を与えてくれた。


 それだけで十分です。


 俺はあなたから色々と貰ったんです」


 あたしの手首から彼の手が離れる。


 彼の瞳は天井を虚ろに見ていた。


「行ってください……。

 

 やっぱり俺はあなたを殺すことはできません……」


 目を瞑り、手を大きく広げるその姿は、お手上げのようにも見えた。


 このあと彼はどうなってしまうのだろう?


 この子は、あたしという機械を逃がす代わりに、家杉れいかという少女を見殺しにしたことになる……。


 それに対する彼への罰はどれだけ重いものなのだろうか?


 彼のことを思うと、逃げたいという思いが薄れてきた。


 そのとき……。


「そう? じゃあ、オレが殺らせてもらうわ」


 後ろから声が聞こえた。


 聞いたことのある声だ。


 聞きたくない声。


 いつもにやにやと何かを見透かしたように話す気味の悪い男の声。


「ホイっと」


 顔の左部分に衝撃が走る。


 視界が回転する。


 そして、頭だけ(・・・)が地面に強く叩きつけられる。


 視界には頭部を失ったあたしの身体と片足一本で立つ男、上木原の姿があった。


 ということは、上木原が蹴りであたしの頭を飛ばしたということか。


「オレはこの町が好きで、この町の人が好きなんだ。だから、この町の人を死なせたくないんだよね~」


 ポケットに手を突っ込みながら、あたし(の頭)に歩み寄る上木原。


 明るい声に反して、その顔にはいつもの微笑みはなく、それどころか感情すらなかった。


「やめろォ!」


 立ち上がり、叫ぶさとし君に、上木原は振り向く。


 彼も見たことのないのか、上木原の無表情に脅え、体を震わせる。


「君も分かってんだろ? こうするしかないって?」


 その言葉に反論しようとしたが、彼の行動が間違っているわけでもないということを知っているので、何も言うことができず、顔を俯かせた。


「理解力のある子は大好きだよ」


 上木原は片足を上げる。


「最後に言いたいことある?」


 悪役の決まり文句を言う上木原に、あたしは嫌悪感を抱かずにはいられなかった。


 あたしは色々と考えを巡らせる。あたしが最後に言いたいこと。


 それはすぐに見つかった。


 あたしは口を開く。


「またね、大好きだよ……」


 上木原は上げた片足であたしを踏み潰す。


 さとし君の断末魔が聞きながら、あたしの意識は遠のいていった……。


 

 

 

 


 


 

 





 


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