第三話 仮面⑨
あたしが目を覚ますと、薄暗い灰色の空間にいた。
壁も床も天井も灰色で、あたしの心情を映す鏡のように感じた。
そこは学校の体育館くらいあるスペースで、明かりは数個の電灯だけだった。
車の中にいたはずなのに、何故こんなところにいるのか分からなかった。
何故椅子ごと鎖に縛られているか理解できなかった。
なのに、さとし君が自由の身であたしを見つめているのか……。
「おはようございます……」
「さとし君……これは一体……?」
あたしは問いかける。彼にこの状況説明してもらわなければいけない。
「これは先輩のためです。我慢してください……」
「あたしのためってどういう?」
「今、頼光のやつがあなたの家に向かっています。
本物のあなたを助けるために……」
息が止まる。瞳孔が開く。
「それってどういう……?」
「頼光が怪しいと思って調べたんですよ、あなたのことを。
俺も聞いたとき、驚きました……」
彼は淡々と車の中で、ちーちゃんから聞いたことを教えてくれた。
▷▷▷▷
俺は耳を疑った。
「人造人間?」
「そう。ホムンクルスとは違って人型ロボットに近いからそう呼称するね。
今、君の隣に座っている彼女は人造人間だ」
俺はれいかさんを凝視する。
この近距離から見ても、本物の人間にしか見えない。
「じゃあ、俺と同じく……」
「いや、君はホムンクルスの体に魂を埋め込んでいるが、彼女は違う。
彼女は体も中身も偽物だよ……。本物は自宅のベッドで横たわっている。
今朝、警察にれいかさんのお母さんから電話があったらしい。
出かけたはずの娘がベッドに横たわっていて、ヘッドマウントディスプレイをつけながら、目が覚めないってね。
しかも、体はやせ細っていたそうだ」
警察に怪異に関する事件の通報があったら、上木原さんの家に連絡が来るようになっている。
その連絡を受けて、俺とこの子の待ち合わせ場所に駆け付けたってことか。
たしかに偽物を確保しておかなければ何をしでかすか分からないからな……。
それより頼光の言ったことに気になるところがあった。
「やせ細っていた? ということは、本物と入れ替わったのは結構前ってこと?」
「一年半前、彼女の家に大きな段ボールが送られて、れいかさんはその中身を言わなかったが、お母さんは思春期だからと気にしてなかったらしい。
入れ替わったのはそのときだろう」
「それにヘッドマウントディスプレイをつけてたって……?」
「そのヘッドマウントディスプレイを彼女が装着することで、このロボットが動く仕組みになっているんだ。
脳のデータをコピーして、ロボットの知能にペーストする。
ロボットは思考が本物を変わらないから、自分のことを『ロボットを動かしている家杉れいか』と錯覚する。
本物にはロボットを動かしている夢を見させれば、矛盾を気づかせないことを可能にしたんだ」
「だから、本物と偽物は違和感なく生活することができた……。
なんて頭いい機械なんだよ……。」
「でも、その機械に問題が生じた。
開発者の意図があったのかなかったのか知らないが、本物が目覚めなくなってしまった。
偽物は自分が元の身体に帰れないと思い込みパニックに陥った。
れいかさんのお母さんに聞くと。最近は娘が食事を残すようになって、部屋に持ち込むことが増えたらしい。
無理矢理、食べ物を口に入れて、食事を摂取させてたんだろう」
そのおかげで、本物の先輩が生き長らえたということか……。
でも、早く本物を目覚めさせないと、命が危ない。
「どうやったら、れいか先輩を目覚めさせることができるんだ?」
ちーちゃんは後部座席に顔を出して口を開いた。
「それは……」
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長々と話した後、さとし君はあたしにこう放った。
「本物の先輩を助けるために、あなたを殺します……」




