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第三話 仮面⑧

 なんとか早めに待ち合わせ場所の駅前の噴水に着いた。


 先輩を、しかも女性を待たせるわけにはいかないと思い、今日は早起きしたのだ。


 学校ではよく遅刻する俺が朝六時に起床している姿を見て、頼光が「やればできるんだね」と小馬鹿にしてきた。


 まあ、日頃の行いからそう思われるのは仕方ないことなのだけれど……。


 待ち合わせの十時まであと一時間もある。


 流石に張り切りすぎたかな?


 昨日の夜、俺ははしゃぎにはしゃいだ。


 初めての女性とのデートというビッグイベントに心と体を踊らさずにはいかなかった。


 夏から居候させてもらっていることへのお礼として俺は毎日居間の掃除係を請け負っていて、いつも通り掃除をしていると、上木原さんが話しかけてきた。


「どうしたの? いつもよりテンション上がってんじゃ~ん?」


 そういうあなたの方がテンション高いじゃないですか……。


 もちろん言葉には出さなかった。


「こいつ、明日家杉さんのところの娘さんとデートするんですよ」


 簡単に個人情報を漏らすなよ……。頼光の言葉に上木原さんが笑う。


「それは本当に月とスッポンだね~」


「その通りですけど、言葉にされると腹立つ……!」


 この家に来てから、この人たちにいじられっぱなしだ……。


 たまに腹が立つが、恩のある身として中々文句が言えないのである。


 上木原さんは饒舌に会話を続けた。


「それにしてもちーちゃん。彼女、前より綺麗になったよね?


 前も可愛かったけど、あそこまでオーラのある女の子だっけ?」


「たしかに綺麗になりましたね……。


 不自然なくらいに……」


 頼光の顔が強張る。


 何故そんな顔をするのか俺は分からなかった。


 分からないことは気にしない人間だから、俺はそのまま掃除を続けた。


▷▷▷


「さとしく〜ん」


 遠くの方から声が聞こえる。


 顔を上げると、れいか先輩が手を大きく振っていた。


 俺もぎこちない笑顔で、手を振る。


 れいか先輩は小走りで俺に近寄ると、「待った?」と質問してきた。


 俺は「待っていませんよ」と、マニュアル通りの回答をした。


 まさか、自分がこんな定番のやり取りをするなど、思いもしなかった。


 この後、どうするべきか悩んでいる間に、彼女は俺の手を取り、「じゃあ、早速行きますか!」と駅へ駆け出した。


 遊園地に来た子どものようにはしゃいでいる姿に、女の子らしい可愛さを感じた。


「おーい! そこの熱いおふたりさ〜ん!」


聞き覚えのある声が聞こえた。


声のする方を見ると、青いハイブリッドカーが止まっていた。


 その窓から上木原さんが、子どものように大きく手を振った。


 同じ子どもじみた行動なのに、先輩と上木原さんとではここまで大きな差があるのだと俺は痛感する。


 とりあえず俺は先輩に断ってから、車の方へ向かった。


「どうしているんですか?」


「だって、デート場所はショッピングモールだろ? 車で行ったほうが早いと思ったからさ」


 そうか。たしかに車の方がいいかもしれない。


 電車で女の子を立たせるわけにもいかないしな。


 なんて親切な人なんだと俺は感動した。(後々、この認識がデート経験ゼロの俺の誤りだと気づくことになる)


「たしかにそうかもしれませんね。わざわざありがとうございます!」


「お礼ならちーちゃんに言ってくれよ。


提案者はちーちゃんなんだから」


助手席を見ると、そこにはちーちゃんがいた。


「ありがとな」


「別に気にするな。好きでやってることだからさ」


 俺は先輩のもとへ駆け寄り、事情を説明した。


 気のせいか、苦い表情をしていたが、車に同乗することにしてくれた。


「レディファーストだぞ、さとし」


 頼光のアドバイスに従い、先輩を先に車に入れさせた。


 頼光は自分の後ろに先輩が座っているのを確認するとシートベルトを装着するように指示した。


 先輩は何の疑いもなくシートベルトをする。


 それをルームミラーで確認すると、頼光は手元に持っていたボールペンの頭を押した。


「君のためだ……。すまない」


 一瞬だった。強力な電流が先輩の身体を流れ、ショックで先輩が気を失った。


 俺はその状況に混乱し、頼光に問い詰める。


「頼光!? これはどういうことなんだ!?」


「事情は移動しながら、説明する。だから、早く車に乗れ。


 僕だって、女の子を痛めつけたくないんだ……」


 俺は悟った。


 こいつが強硬手段を取ったということは、そうせざるを得ない状況に彼女が陥っているということだろうと。


 様々な怪異現象解決に手伝ったからか、俺はすぐに理解することができた。


「ちゃんと教えてくれよ……!」


 俺は車に乗り、ドアを強く閉めた。

 


 

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