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第三話 仮面⑦

 昨日から他人からの視線が痛い。


 今まで俺のことを空気のように無視していたくせに。


 新しい体を手に入れてからも、俺の存在感は皆無だった。


 これじゃあ、透明だったときと同じじゃないかと思ったが、そんな考えは早くに消えた。


 皆に認識されなくても、この世界に存在することに意味があるとあのとき思ったからだ。


 もちろん、皆に認識されることに越したことはない。


 だが、こんな認識のされ方は嫌だ……。


 嫌われ慣れてはいるが、命を狙われていることに慣れてはいない。


 新しい体には、色々と工夫を凝らしてもらって人間離れした身体能力を手に入れたが、一般人にそれを使用することは禁止されている。だから、反撃ができない……。(あと、この力のせいで、青春に必要な体育祭も欠席した)


 だから、今のところ、この力は宝の持ち腐れだ。


「どうしたの~? そんな暗い顔して~?」


 耳障りな高音で話しかけてくるのは、厚化粧でお馴染みのエリである。


「お前に自分の命が風前の灯火であるやつの気持ちが分かってたまるか……」


 俺はタコさんウィンナーを頬張る。


 蓄積したストレスを、食べ物を噛むことで発散する。


「どう? おいしい?」


「うまいよ。お前が作ったのにも関わらず」


「ひどッ! あんた、土に埋まれば!?」


「たしかに穴があったら入りたい気分だよ……」


 一緒に昼食を食べるようになって、俺も一日の会話の量が増えた。


 頼光のやつは、社会復帰のためのいい治療だと言っていたが、俺にとっては苦行でしかない。


 そのおかげで、苦手な女子との会話に慣れてしまったが……。


 昨日も、女性と会話した。綺麗な顔をした女子の先輩。


 女子と会話したことのない俺は、そのとき頭が真っ白になっていた。


 でも、理性を保ちつつ、なんとか会話することができた。


 そのときほど、この苦行をこなした甲斐があったと思った日はない。


「あれ? 教室うるさくない?」


 この教室で一番大きな声で会話しているやつが、言うことなのか……?


 たしかに教室は騒がしかった。


 女子の黄色い声と男子の雄叫びがこの空間を交差した。


 何かと思って。廊下の方を見る。


 皆の視線の先には、天女がいた。


 クラスの皆の心は、アリジゴクにハマった蟻のように、彼女の魅惑に吸い込まれていた。


 その彼女が俺のもとへ歩いてくる。


 また痛い目に会うんじゃないか?


 自然と背筋が伸び、電気が体中を走った。


 彼女が俺の前に立ち止まったとき、俺は覚悟した。


 もしかしたら、この学校にいられなくなると、本能が察したからだ。


 長い沈黙……。


 先ほどまでの騒音が嘘のように消え去っていた。


 俺は息を呑んで、彼女が話し始めるのを待つ。


 彼女は息を吸ってから、言葉を吐いた。


「佐々木さとし君」


「はい!」


「明日の土曜日、買い物に手伝ってくれない?」


「はい! ……って、はい!?」


 つい反射でオーケーしてしまった。


 え!? 待てよ!?


 俺の中で、ある仮説が立てられた。


 それを彼女に尋ねる……。


「それって、何人と行くんですか?」


「あたしと君の二人だけど?」


 ブチッ! ブチブチブチッ!


 幻聴かもしれない。


 何十人もの堪忍袋の緒が切れる音がした。


 彼女は俺の右手を取って、俺の腕時計型端末の電源を入れる。


 人と触れ合うことが少ないから、俺はそれにロックをしていなかったから、簡単に操作されてしまった。


 そして、操作を終えると、すぐに廊下へ向かい、教室を去ろうとする。


 扉に着いたときにひり向きざまに彼女は言った。


「あたしの連絡先入れといたから、あとで時間と場所を教えるね」


 満面の笑みを浮かべて走り去る後ろ姿。


 その彼女とすれ違うように、頼光が教室に入ってくる。


「あれ? どうしたの? 皆?」


 クラスの奇々怪々な雰囲気に頼光が疑問を抱く。


 その頼光のもとへ、クラスの副委員長である筋骨隆々な男が、歩み寄る。



「頼光委員長、あそこのクズに制裁を下す許可をください……」


 

 来週から学校に来れないかもしれない。


 俺はそう悟るのであった。


▷▷▷▷


 言ってしまった。


 さとし君を、デートに誘ってしまった。


 決めたことはすぐに行動に移すのが、あたしの強みである。


 しかし、今回はデメリットになったかもしれない。


 心臓が昼からドクンドクンと爆音を流す。


 うまく動揺を隠せたのかな……?


 いつものように気品のある少女を演じたつもりだったが、さとし君を前にしたら、言おうとしていたセリフが吹っ飛んでしまった。


 正直、あとで連絡することを伝えたこと以外、何を話したか覚えていない。


 記憶の曖昧さが、言葉選びのミスをしたように、あたしを惑わせる。


 でも、しっかり伝えられた。それだけで十分だ。


「どうしたの、れいか?」


 母親が心配そうにあたしに言う。


 ふと我に返ると目の前にあるのは一般家庭と変わらない食事の風景が広がっていた。


 他と違うのは父親がいないということだ。


 仕事人間のあの人は、帰るのが遅い。


 起きている間にあの人に会うのは、昨日のような接待のときだけだ。


「今日もあまり食べてないけど……」


 机の上の、おかずのハンバーグは、一口分しか減っていないし、ご飯は半分も減ってない。


「あまり食欲ないみたい……。


 部屋に持って行って、お腹すいたら食べるね……」


 あたしは台所に行き、食用ラップフィルムを取ってくる。


 それを、お盆に乗せた夕食に被せ、あたしは二階の自室に上がる。


 お風呂も入ったし、そのまま寝ようと思ったが、結局、寝つけることはなかった。


 




 


 


 


 


 


 



















 


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