第三話 仮面⑤
彼は流れるようにあたしに文句を言った。
驚くものだ。人はこんなにも噛まずに言葉を言えるのか。
彼にはアナウンサーになることをお勧めしたい。
彼の十分にも及ぶ文句を要約すると、彼はあの後「れいか親衛隊」を名乗る男たちに学校中を追いかけられたらしい。
授業中には消しゴムをぶつけられ、昼休みになったら、また鬼ごっこが再開され、下校時には下駄箱を開けると脅迫状が雪崩のように襲いかかって来たらしい。
「……こんなに様々なバリエーションの嫌がらせを受けたのは、万年いじめられっ子の俺でも今までなかったぞ!」
彼は、文句を言い終わると肩で息をしていた。
呼吸する暇もなくしゃべり続けたらそうなるのは当然だ。
溜まっていたクレームを吐き出したのはいいが、そんな暴露も含まれたことをあたしに言われても、あたしはどうすることもできない。
あたしは間接的に責任があるかもしれないが、直接的な責任はない。
親衛隊は知らない男子たちが勝手に結成したもので、あたしとは関係ないし、あたしが彼を追いかけるように言ったわけではないのだ。
しかし、罪のない彼が嫌がらせを受けることはいけないことだし、彼の気が済むのならばとあたしは頭を下げた。
「ごめんなさい」
すると、彼はキョトンとあたしを見つめていた。
まるでツチノコを見つけたようにあたしを見る。
恥ずかしそうに頬を指でかきながら彼は言う。
「いや、俺こそ言いすぎちゃってすみません……。
親衛隊もいるお嬢様だから、つい天狗になってるわがままな人だと思い込んじゃって、そんなやつにはガツンと言った方がいいと考えたんですけど……。
そうでもないみたいですね」
「さらっと、失礼なこと言うわね」
「いや、だって、あんな目に合ったら誰でも疑心暗鬼になりますよ!」
たしかに、そうかもしれない……。
あたしも嫌がらせの内容を聞いていて、人として疑う行動がいくつもあった。
今は彼に強く同情をしている。
「彼らは学校の誰もがあたしのことを知ってると勘違いしているのよ。
しかも、あたしを神のように崇拝している。
だから、そんなあたしを知らない上に、あたしに名乗らせようとしたあなたに起こったのだと思うわ」
「じゃあ、何ですか? 俺はこれからあなたを神のように崇め奉ればいいんですか?」
冗談っぽく彼は言った。
「やめてよー! あたしだって、好きで称えられているわけじゃないんだから。
普通に接してくれると嬉しいな……」
最後は自分で言いながら、照れてしまった。
思い起こせばこんなに気楽に男子と話したことがあっただろうか。
何も考えずに、思ったことをつい話してしまう。
この男子には不思議な魅力がある。
あたしを引き込む魅力が彼を持っている。
「おーい、新入り! 早く戻ってこーい!」
「はーい! 今行きまーす!
それでは失礼します」
彼があたしから離れてしまう。
その背中を眺めているあたし。
もう眺めるだけは嫌だった。
「ねえ、あなた、名前教えてくれない?」
そういえば彼の名前を知らなかった。
彼は振り向いてから、名乗った。
「さとしです。佐々木さとしです」
「あたしは、家杉れいか。これからもよろしくね」
あたしも名乗ると、彼は笑顔で言った。
「れいかさん……。いい名前ですね。
こちらこそよろしくお願いします」
その笑顔が眩しくて、目に焼き付いてしまい、しばらくの間、あたしの瞼の裏に残り続けた。
▷▷▷▷
あーあ、結局飲み会に参加してしまった……。
もちろん、未成年だから、お酒は飲んでいないが。
嫌だ嫌だと思いながらも、大人の誘いに断る力もなく、大人との会話に付き合った。
大人の方は、学生と話す機会がないからか、年齢やら学校の生活やらを聞かれた。
なんで、知らない人にプライベートのことを話さなければいけないんだと思ったが、こんなに注目されたこともなかったので、あたしは質問になるべく答えた。(「なるべく」というのは、セクハラまがいの質問は答えなかったという意味だ)
そんなこんなで日付も変わった頃に解放されて、自分の部屋のベッドで寝転がることができたのだ。
疲れていたが、寝つけられず、あたしは腕時計型端末で色々なネットサイトを見ていた。
それらには、女性向けのファッションが紹介されていた。
あたしは制服以外の格好で外出しないので、いわゆる私服に憧れている。
だから、それを見ながら女の子らしくいつかこんな服を着て外出したいとあたしは願うのだった。
「女の子らしくなりたいな~」
そう本音を吐露しているとある広告が目に入った。
その広告にはこう書いてあったのだ。
「あなたのコンプレックス治しませんか?」




