第三話 仮面④
ふと空を見上げると、空がオレンジと紺と色が二分割されていて、その二色が混ざり合っている境目があたしの憂鬱さを表しているようであった。
あたしは、父親と乗った黒塗りの高級車から、その景色を眺めている。
運転手は、スキンヘッドで巨大な体をタキシードで覆っていて、見ているだけで彼に怒られるんじゃないかと思ってしまうし、同じ後部座席に座った父親は仕事以外で話したくない人間だから、話しかけても適当な返事が返ってくるだけだ。
だから、窓の外を眺めることしかあたしはできないのだ。でも、こうやって景色が流れていくのが、スライドショーのようで、もうあたしの楽しみになっている。
そのスライドショーが、和風の館で止まる。
太陽光パネルが置きやすいように四角い家が多い中で、その家は瓦で屋根を構成している。
百年前の昭和時代には、こんな家もこの町に多々あったようだが、それは昔の話だ。
あたしにはこの家が時代に取り残されているようにしか思えなかった。
門の前で、父と降りる。
すると、監視カメラであたしたちが降りたことを確認したら、門が自動で開いた。
お寺にもある3mもある門が自動で開く光景は衝撃的で飽きることなく見ていられる。
開いた門の向こうには、頼光と名乗る爽やかな青年がいて、この家のある主のところまで案内してもらった。
長い渡り廊下を歩き、いくつもある襖の内の一つを青年が開ける。
「やー、町長さんとその娘さん、ごきげんようー!」
この家の主、上木原さんが手を上げて、挨拶する。
相変わらず、ニタニタした顔をしていて、あたしは好きになれない。
「じゃあ、町長さん、早速話でもしましょうか?
ちーちゃん、娘さんを控室まで」
「人前でちーちゃんはやめてもらえませんか?」
「そう? 可愛い呼称だと思うけどな~?
とりあえずお願い!
それでは、娘さん、この後の飲み会で会いましょう!」
あたしはペコリと頭を下げて、部屋を去った。
町長が町のヤクザのボスに謝るなんておかしな話だが、この町では実質的に彼らがこの町を支配しているらしい。
ヤクザだが、犯罪は犯していないらしく、逆に犯罪者を取り押さえるのを生業としていて、この町に多大なる税金を支払っていると父親からは聞いた。
つまり、彼らの協力なしでは、町の行政も上手く回らないのだ。
その密談に、綺麗な見た目の娘を連れて、気に入ってもらったら、ご機嫌の良くなるだろうというのが父親の思惑だ。
父親から見て、あたしは単なる道具でしかないということである。
彼の扶養家族であるため、逆らうことができないのが悔しい。
でも、将来は自立して、優秀な女性を演じることのない、ありのままでいられる人生を歩むつもりだ。
それまでの我慢と自分に言い聞かせ、精神を安定させる。
「ここが休憩室になります」
「ありがとうございます、ちーちゃん」
「ぐッ……」
「失礼」
彼に八つ当たりしてみたら、反応が面白かったので、つい笑ってしまった。
また会ったとき、いじってみようかな。
その部屋はどちらかというと洋風で、ソファと机が置いてあった。
そのソファに座り、当たりを見渡す。
目の前の本棚には、古今東西の小説があり、ついでに漫画もあった。
美容室のようなお客さんへのサービスだなと思っていると、一人の青年が「失礼します」と部屋に入ってきた。
それはちーちゃんではなく、彼より背の低く、線の細い体をした男性だった。
来ているタキシードがぶかぶかで似合わなく、着慣れていないようだ。
彼は、お盆に載せたマグカップをあたしの前に置いた。
「こちら紅茶になりま……」
「ありがとうござ……」
あたしと青年の目が合う。
どこかで見覚えのある顔。
見覚えるも何も、今朝、校庭で見た顔。
彼は開いたままの口を動かし、顔を強張らせ、お腹から声を出して、あたしに告げた。
「あんたのせいで、酷い目にあったんだぞ!」




