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第二話 醜悪③

 うちの学校の校舎は、教室がある教室棟と体育館の二つに分けられる。


 その二つの校舎は、二階部分が通路で繋がっており、その通路に職員室が存在する。


 その職員室前で、一人の生徒がもじもじとそこに入るのを躊躇っていた。


 まあ、俺なんだけど……。


 その壁には、この学校の歴史やら、運動部の成績、さらには勉強するよう促す進路についての記事が貼られていた。


 そうやって、俺らにこの学校の生徒だというプライドを植えつけたいのだろう。


 残念ながら、俺は精神的に強いので、そんな宗教じみたことにはハマらない。


 さて、心の準備はできた。俺は深呼吸してから、ドアに手を添えた。


「失礼します。一年四組の佐々木さとしです。井伊先生いらっしゃいますか?」


 職員室の中は、冷房がかかっており、若干自分の教室よりも冷たく感じた。


 それにも関わらず、額に汗を浮かべながら、先生たちは授業の準備をしていた


 あたふたと自分の机でパソコンと睨めっこしている姿は、彼らが公務員であるということを思い出させる。


 しかし。一人だけほのぼのと、熊のぬいぐるみが描かれたマグカップを両手に、笑みをうかべる女性がいた。


「あー、さとし君。こっち、こっち!」


 枯れた表情が並ぶ中、彼女は場違いなほど明るかった。


 彼女が俺らの担任の井伊先生だ。


 俺は他の先生たちの「腐ったみかんが来た」というを無視して、彼女のもとへ歩みを進める。


 彼女は、行方不明になった飼い猫を見つけたかのように、歓喜の表情になる。


 俺が目の前に来ると、椅子を回転させ、体も俺の方に向ける。


「今日はどうして遅れたの? おばあちゃんを助けたの? それとも子犬?」


「いや違います」


「そうか! 悪い人から世界を救ったのか!」


「違いますって! なんでさっきから俺を良い者にしたがるんですか!」


 これを本気で言っているのだから、怖い……。


 こんな嘘つきだらけの世界で生きることに関して、彼女はバカなのだと俺は思う。


 しかし、俺のことをここまで肯定してくれるのは、彼女だけだ。


 だから、自分としては、嬉しいのだけれど……。


「それで? どうして遅れたの?」


「寝坊です。いつもと同じく」


「朝起きるのは、つらいもんね~。しかも、一人暮らしでしょ? 起こしてくれる人がいないのだから、仕方ない気がするよ~。


 オーケー! 分かったわ! じゃあ、遅刻したことはなしで!」


 それでいいのか……?


 疑問に思いつつも、「ありがとうございます」と頭を下げた。


 用は済んだので、俺はろくに聞かない授業を理由に、彼女とさよならした。


 そして、彼女は俺が職員室に出るまでずっと手を振り続けたのだった。


▷▷▷▷


「ファイトー! ファイ! オー! ファイ! オー!」


 学校の敷地の外側を女子バレーボール部がランニングしている。


 彼女たちが校門の前を通り過ぎたのを確認して、ビルとビルの間から見える、熟したリンゴのような太陽を目印にしながら、俺は自宅を目指す。


 歩道を歩いていると、車道で車が何台も走り去り、涼しい風を提供してくれる。


 ここが都会のいいところだが、人気ひとけのない路地裏に入ると、生温い風が換気扇から浴びせられた。


 周りに人がいないことを確認してから、俺はすぐさま腕時計型端末のボタンを押し、空中にスクリーンを表示させる。


 正確に言うと、コンタクト型デバイスに信号が送られ、そこにスクリーンがあるような画像を見せているだけだ。


 そのため、スクリーンに映している内容は誰にも覗かれないので、プライバシーが確保されている。人がいないことを確認したのは、夢中になっているうちに、不良たちが絡みに来るのを防ぐためだ。


 だからといって、俺が見ているのは、年頃の男の子が見るようないやらしい動画を見てはいない。


 俺が見ているのはネットショッピングのサイトだ。


 家から出ることが嫌いな俺は、いつもこのサイトにお世話になっている。


 マンガやゲームといった娯楽はもちろん、食料や衣服、生活必需品も購入する


 今日の晩飯は何にしよう?


 おかずが載っているページに飛んだら、ある広告が映された。


 いつもなら、広告など眼中にないのだが、その広告にはつい目を引かれてしまった。


 そこにはこう書いてあったのだ。


「あなたのコンプレックスをすべて治します」


 






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