第二話 醜悪②
俺はいつも通り朝のホームルームが終わった頃に教室に着く。
そうもしないと、同じ学校の生徒の波に登校すること吞まれながら登校することになる。
そのとき、俺は四方八方から俺への嫌悪の視線を感じざるを得ない。
異常にストレスがかかるのだ。
それに、ホームルームに出席すると、出席確認で俺の名前が呼ばれてしまう。
そうすると、高校デビューをし、勝ち組を気取っている女たちが「あれ~? あんたいたの~? 気づかななかった! ギャハハハ」と下品な笑いを聞かせてくるのだ。
わざわざ耳は腐るためにホームルームに出席するのは億劫以外の何ものでもない。
だから、俺は誰にも気づかれることなく、このタイミングで登校するのだ。
もちろん、担任の先生には、登校したことを伝えなけらばならない。
教室に長居したくない気持ちもあり、俺は職員室に向かおうとした……そのとき。
「ねぇねぇ、この前さ~、カフェに行ったんだけど~、そこの店員さんがめっちゃ可愛くて~」
朝から耳が穢れてしまった。
名前は忘れてしまった(というかクラスメイトの名前は誰一人覚えていない)が、俺は裏で彼女のことをノッペラボウと呼んでいる。
高校生の化粧の腕などたかが知れていて、パッチリしている目の周りには、細い目を無理矢理大きくした形跡が遠目からでも分かる。
きっと、その化粧という壁の向こうには、俺と同じ平安時代の貴族みたいな顔が存在するのだろう。
というわけで、俺は彼女にノッペラボウと命名した。
そんな彼女の声を聞いたことで、気分は落ちたが、それよりも気分が落ちる要因があった。
彼女が猫なで声で話しかける男を見てしまったことだ。
あいつは、成績優秀で、今月の初めに行われた中間テストでは、五科目のテストのうち、一問だけしか間違えなかったという秀才だ。
しかも、その間違えというのは、答えにマイナスをつけ忘れたという皆が犯す凡ミスである。
そんなお茶目なところと、抜群の運動神経、甘い顔立ちがうけ、女子からはモテまくりだ。
今も、クラスの男子が皆嫌っているノッペラボウの話をさわやかな笑顔で聞いている。
分かっている。これは嫉妬だ。俺にないものすべてを持っている完璧人間に対しての劣等感だ。
この劣等感というのが厄介で、ただ嫌悪よりもガラスの心の表面に多くのひっかき傷をつける。
いっそのこと、粉々に割ってほしい……。
「でさ~……、ん?」
ベラベラと話していたノッペラボウが、こちらを向いた。
まずいッ!
俺は目線を反らし、逃げるように職員室にむけて早歩きをしだす。
下を向いていると「何あれ~? キモ~イ!」と汚い声が鼓膜と心を揺らす。
聞こえてない、聞こえてない、聞こえてない、聞こえてない。
そう言い聞かせながら僕は歩き続けた。
「ねぇ、頼光君もそう思わない~?」
「…………」
「ねぇ~、頼光君ってば~」
「あー、何? ごめんごめん。よそ見してた」