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第一話 怪物⑨

神社の水場で手を洗う。


しかし、生き物の血が簡単にとれるわけなく、手は未だに赤く汚れたままだった。


死体は、神社の近くに埋めといた。


 血を処理することはできていないから、きっとこのことは公になるだろう。


 だから、これは隠蔽工作というより死んだものをお墓に入れるという日本の慣習による行為である。


 一応、手を合わせたが、自分が殺した相手にするのはどうなのかと思ってしまった。


合わせた手を解いてから、振り向くと鳥居の向こうがオレンジに染まっていた。


私たちはそれに釣られるように、鳥居をくぐり、石段に腰を下ろす。


「ねぇ、彼女に言ってたことは本当?」


隣にいるちーちゃんに聞いてみる。


ちーちゃんは目を合わせることなく、そのまま下にうつむいた。


「ごめんね。黙ってて。お姉ちゃんに嫌われたくなかったんだ」


その姿は、大人に叱られた小学生そのもので、能力が高くても、やはり子どもなんだなと実感させられる。


「こっちこそ、ごめんね。人の気持ち考えないで」


私が謝ると、沈黙が続いた。


その沈黙を打ち破るために、話題を頭の引き出しから探し出す。


「そんなにお父さんのこと嫌い?」


自分ながら、空気が読めない質問だと思った。今、終わったはずの話を続けたのだから。


しかし、これを聞けるのは今しかなかったのだから、しょうがないと心に言い聞かせる。


ちーちゃんは、躊躇いながらも、朝焼けを見つめて、答え始めた。


「昔、孤児院の皆が、僕を仲間外れにしたんだ。僕の能力を見て、気持ち悪いってね。


 だから、僕は父さんを、僕を人間にした父さんを憎んだんだ。


 だって、そうでしょ? 

 

 人以上の存在にしてくれたら、彼らは僕の能力に嫉妬することも、嫌われることもなかった」


まったく彼女のこと言えないよね。高望みしてたのは、僕なんだから。


ちーちゃんは、彼自身の太ももと太ももの間に顔を埋めた。


後悔と懺悔が遅れて襲いかかったのかもしれない。


「私、行かなきゃ」


唐突に、私は別れを告げた。


その言葉に、反応して、ちーちゃんは私を見上げる。


やっと目を合わせてくれた。


「私はもう命を狙われている。私は平気だけど、ちーちゃんが危ない」


「僕は大丈夫だよ! 不完全だけど、人間と戦うくらいは……」


「安心して。ちーちゃんと私の関係を裏付ける証拠はすべて消しといた。


私といなければ、ちーちゃんに危険が及ぶことはない」


「やだよ! 僕はお姉ちゃんと一緒にいたいんだ! これからも僕と一緒に」


「ダメ。お姉ちゃんの言うこと聞かなきゃダメでしょ?」


私がいつものように叱ると、ちーちゃんは言いたいことを喉に詰まらせた。


私は立ち上がる。


前だけ向いて。


そんな私にちーちゃんは手を差し出した。


私の手を握ろうと。


でも、私は汚い手を触れさせたくなかった。



手と手が交わりそうになったとき、すでに私はその場から消えていた。



背後から聞こえたのは、空振りした手で顔を押さえるちーちゃんの(わめ)き声だった。

 


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