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気づいてよ

お待たせです。

(自分の色彩センスに自信がありません)

 定期試験が終われば、冬期休暇が始まる。しかし、その前にもう一つ、大切なイベントがある。

 それが、試験結果発表日の翌週末の冬期懇親会、ざっくり言えば、王侯貴族のみなさんが大好きなダンスパーティーなのである。

 さて、試験以降の講義はしばらくは自由参加の講義や、試験結果、出席日数によって生じる補講しか行われなくなる。つまり大多数の生徒はとても暇になる。

 試験結果発表日の次の日、俺も、フロレンツィアも補講は必要ないし、特に興味を引かれる講義もなかったため、朝からフロレンツィアのサロンで過ごしていた。珍しいことに、今は俺たち二人以外の人はいない。

「……来週の週末は、懇親会でしたわね」

 隣に座るフロレンツィアが、テーブルの一点を見つめながら、特に表情も浮かべず、呟いた。

「え、ええ、そういう予定でしたね」

「……」

 答えたはいいけど、フロレンツィアが完全に無言になってしまった。い、いや、何を言えばいいか、一応検討はついているんだが、その、本当に言っていいかとか、勘違いとかだったらどうしようとか、思い上がりなんじゃないだろうかとか……。

 そうやってしばらく沈黙が続いたあと、またフロレンツィアが。

「……わたくし、婚約者がおりませんの」

「あー、えー、そ、そうですね」

 ううぅ……。徐々に追い詰められていく感じ。あと、フロレンツィアの視線の先が俺になっている。無表情で見てくる。

「……ですから、エスコートしてくださる方がおりませんの」

「……俺、でも、いいんでしょうか?」

 耐えきれず、フロレンツィアから視線を反らしてしまう。

 ハルトムートを叩き潰す覚悟はできた。それに付随して、王位が手元に来るというなら、なんとか受け止めるつもりだ。

 だけど、フロレンツィアのことは別だ。

 婚約者のいない女性を、親族でもない男がエスコートするとなると、その男は婚約者候補と思われるだろう。

 フロレンツィアは俺のことを、まあ、あれだ、少なくとも嫌いじゃない、とは、思う。でも、婚約が解消されて、一番最初のパートナーが、恋人でもない、一方的にフロレンツィアを愛しているだけの俺でいいんだろうか?

 そのとき、突然フロレンツィアがその両手で俺の顔を挟みこんできた。え? う?

「違うの、コルネリウス。わたくしは」

 真っ直ぐと、夜色の目で俺を見つめる。その、潤んだ目、その中に籠められた熱量に突き刺されて動けない。

「わたくしは、貴方がいいの」

 すべて、頭の中が真っ白になる。心臓の音がうるさい。

 フロレンツィアは、ふいと赤くなった顔を背ける。でも、視線だけは時おり俺を向く。

「だって、好きなんだもの。気づいてよ、ばか」

 俺、が? フロレンツィアが、俺、を?

「コルネリウス!」

「え、あ、はい!」

 完全に思考が止まってたみたいだ。だめだ、記憶が混乱してて、ちょっと前のことがすぐには思い出せそうにない。

 そんな俺に、フロレンツィアは真っ直ぐ指を差して。

「とにかく! 来週の懇親会は、貴方がわたくしをエスコートするの! よろしくって!?」

「か、かしこまりました!」

 それだけ言うと、フロレンツィアは素早く身を翻し、かなりの速度でサロンを出て行ってしまった。

 というわけで、現在この場には俺が一人残された状態。お、落ち着いて、何があったか、思い出すんだ!


 ……フロレンツィアが、俺のことを、好きだ、と。

 フロレンツィアが幸せなら、その隣に立つ男は、俺じゃなくてもいいと、思っていた。それを背景としてでいい、見ていられればいいと、思っていた。

 でも、フロレンツィアは、俺がいい、と。

 彼女を幸せにする権利は、今、俺の手の中にある。あるんだ。



△ ▲



 夕方、寮の自室に戻る。

「あ、コルネリウスさま。来週の懇親会用の衣装が届いてますよ」

「そっか、見せてもらえる?」

 迎えに出てくれたヴィリと、クローゼットまで行く。

「これです、これ」

 ヴィリだと、背が足らなくて取り出すのが大変そうだったので、自分で取り出す。

 まあ、いつも通り我がエルホルン大公家のカラー、黒にスノーブルーの差し色な一式。流行りを少し取り入れた形の無難な感じ。サイズも問題ない。

「うん、よさそう……いや、どうかな? 大丈夫そう?」

 そうなのだ。今回はフロレンツィアをエスコートせねばならない。ということは、生半可な装いで行くわけにはいかないのだ。

「大丈夫です! カッコいいです!」

 ヴィリはそう誉めてくれるが、まあいつものことだからな。あれだ、ヨハン君とかにも確認しておこう。

「あ、そう言えば、注文してない物も届いてました」

 と、言いながらヴィリがテーブルの上から、小さめの宝石箱と、俺宛の手紙を持ってくる。手紙の差出人は、大公家御用達の商会、その会頭の息子で俺の友達兼手下であった。内容は大まかに、

『ヨハン様から事情は聞きました。お節介かと思いますが、念のため装飾品も用意しておきました。遂に貴公にも、良い人が現れたようで、憎々しい思いで一杯です』

 とのことだった。おい、最後、おい。

 手紙の内容はさておき、とりあえず、装飾品を確認した方がいいだろう。

 宝石箱を開ける。髪飾りだ。大きめにカットされたアクアマリン、それが細かな装飾の金の台座に填められている。それをさらに金糸のレースが飾り立てる。

 う、うぐ……。これを、フロレンツィアに?

 アクアマリンの色って、俺の、瞳の色、なんですけど。

 なんというか、社交界では、こう、親密な相手の瞳の色と同じ色の宝石を身に付けるのが流行ってたりするんだけど。

 いいのかな? もし、身につけてくれたら、嬉しい、んだけど、贈ってもいいのかな?

「わあ、きれいですね、コルネリウスさま! フロレンツィアさまに贈るんですよね! 素敵です」

 一緒に、宝石箱を覗きこんでいたらしいヴィリのきらきらした視線が突き刺さってくる……! これで、今回はちょっとやめとこうかな、とか言えない……! いや、もともとそんな選択肢ないけど。

「そ、そうだね。あ、あれだ、イーナさんには事前に髪飾りを贈る旨を伝えておかなきゃね」

 そ、そう、明日ぐらいにね……!

「そうですね! じゃあ、ぼく、今から行ってきます!」

「えっ!?」

 ヴィリは、あっという間に部屋から出て行ってしまった。こ、これじゃあ、もう確実に贈るしかなくなってしまったじゃないですか……。この、アクアマリンを。



△ ▲



 あっという間に、懇親会当日である。あの日から、今日までフロレンツィアとはまともに会えていない。

 というのも、俺の方はなんか妙に緊張してしまって、話しかけるのに失敗し、フロレンツィアの方は早口で懇親会の念押しだけして、いつもどこかに行ってしまうのである。なんというか、情けない話、距離感が分からなくなってしまっていた。

 そして今、控え室として勝手に使わせてもらっているフロレンツィアのサロンにて、フロレンツィアが、目の前にいる。

 群青のドレス、スカートの部分にはふんだんな藤紫の布。足元は金。そして大きく開いた首もとにはパールが輝いている。そして、髪は、そのきれいな銀は、いつもよりしっかり巻かれ、何かが飾られるのを待っている。

 フロレンツィアが俺を見ている。色んな感情がない交ぜになった表情。

「とても、素敵です。その……あの……」

 言葉が出てこないくらい。

「コルネリウスが、コルネリウスじゃないみたい……」

 あ、あの、それは誉め言葉と思っていいんでしょうか?

 いや、それよりだ。俺にはやるべきことがあるのだった。

 持ってきたアクアマリンの髪飾りが入った宝石箱をフロレンツィアに差し出す。

「これを、貴女に贈らせて欲しいんです」

「開けてもよくって?」

 首肯く。フロレンツィアが宝石箱を開ける。

「あ……」

「ど、どうでしょうか……?」

「嬉しい、決まってる、でしょう!」

 そう言って、俺を見上げて、睨み付けてくるフロレンツィアは、確かに、喜びの表情を隠しきれていない。

「良かった……!」

 俺は、髪飾りをそっと取り出し、フロレンツィアの髪に飾る。彼女の輝く銀の髪に、金と明るい青がよく映える。

「どうかしら?」

「とても、似合います」

 二人でちょっと照れつつも笑い合う。

「フロレンツィア」

 そう呼掛け、彼女の手をとって、その夜色の目を見つめる。

「ずっと、ずっと前から、初めて貴女を見たときから、ずっと、愛しています。貴女のその努力家なところが素敵です。ちょっと意地っぱりなところがかわいいです。難敵に何度も立ち向かう強さがかっこいいです。時おり見せる弱さが、俺の心をどうしようもなく惹き付けるんです。貴女を見るたびに、貴女が好きになる。貴女に会うたびに、もっと好きになるんです。だから、貴女が、俺がいいと言ってくれたとき、すごく嬉しかったんです。だから、だから俺も、貴女を幸せにするのは、俺がいい」

 言い切った。

 突然、フロレンツィアに抱き締められる。彼女の顔は下を向いてしまって、見えないんだけど。

「わたくしは、貴方の、そんなところが、好きなんだから……。コルネリウス!」

 なんだか、今なら何にだって負けない気がする。

 もちろん、フロレンツィアと一緒なら。


お読みいただきありがとうございます。


コルネリウス「俺たちの戦いはこれからだ!」


次(未定)

ニア VSやつら(本編)

   街デート回

   在りし日(髪飾りの思い出)

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