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逆転への階(前)

遅くなってすみません。

 フロレンツィアの誕生日の翌週の始め、右腕が安定したとのことで俺は無事に医務室から解放された。

 今日から通常通り講義を受ける。先週、不可抗力により休んじゃったため、ちょっと内容が飛んでる以外は特に問題なく、本日の講義はつつがなく終わった。はずだった。

 今現在、さっきまで数学の講義を行っていた教室に、俺は閉じ込められている。どうして、こうなったのか、それは。


 講義が終わった瞬間、フロレンツィアに会いに行くため、教室を出ようとしたところ、どこからともなく現れた数人の教員に囲まれた。その後、最前列真ん中の席まで連れていかれ、他の学生が全員居なくなったタイミングで扉が施錠された。無駄に洗練された動きだった。

「それでは今から、一週間無断で、その後、三日間怪我で講義を欠席したコルネリウス・フォン・エルホルン公子に対する補講を始める」

 二年生の学年統括であり、数学を教える教員、フリューア先生によって、補講開始の宣言がなされた。

 もちろん、納得できませんとも。なぜならば!

「フリューア先生! 俺の出席日数はまだ足りてるはずです。よって補講は必要ありません!」

 本来、補講とは出席数が規定に満たなかったときに受けさせられるもののはず。しかもまだ年度始め、どの講義もまだ多くても二回しか休んでいない。だというのに!

「うるせー、出席日数とか知るか! 今期という今期は、お前に真面目に講義と試験を受けさせてやるからな!」

「そんな!? 横暴な!」

 おのれ、その白髪混じりの髪全部むしって肌色一色にしてやろうか!

 しかし、まずい。このままじゃ、フロレンツィアに会いに行けない。かといって、彼女との繋がりを公にできない以上、正直に人と会う予定があるなんて言えない。

 うぐ、ぐ、こ、こうなったら……。

「あ、明日から! 明日から本気だしますから! 今日は帰らせてくださいお願いします!」

 机にぶつかる勢いで頭を下げてやる……!


 まあ、特に理由も言わず簡単に帰れるわけもなく、ひたすら帰ろうとする俺と、正当な理由を要求するフリューア先生の戦いは夕暮れ間近までかかった。最終的には、時間の無駄ということで、明日からしっかりみっちり補講を受けることを約束させられ、この日は解放されたのだった。

 それにしても、なんでこんなことに……。一年だった頃は、数日無断失踪しても補講を受けさせられることなんてなかったのに……。つもり積もったというほどは積もってないと思うし。

 とりあえず情報が足りないかな。

 まだ、フロレンツィアは待っててくれるだろうか……。



△ ▲



 結局あの池の前にたどり着いた頃には、ほぼ日は暮れており、フロレンツィアはもういなかった。

 あの辺りはあまり整備されておらず、完全に日が落ちると真っ暗でなにも見えなくなるせいで、かなり慎重に歩かなければならず、そこから寮の自室に帰るのは結構大変だった。

 そうして、ぐったりしながら部屋に入り、リビングの扉を開ける。

 テーブルで俺の使用人と知らないメイドさんがお茶を飲んでいる。

 とりあえず、扉を閉める。

「こ、コルネリウスさま! 行かないでください!」

 声が聞こえると同時に、十歳ぐらいの執事服を着た少年が再びドアを開ける。俺の、というか、妹が押し付けてきた使用人であるヴィリだ。使用人ではあるが弟みたいな存在である。

「ヴィリ、一体何があったんだよ?」

 しがみついてくるヴィリの頭を撫でてやる。よしよし。

「そ、それが……」

 ヴィリが室内に視線を向ける。

「大変失礼いたしました。わたくし、フロレンツィアお嬢様の侍女をさせていただいております、イーナと申します」

 さっきまで座ってお茶飲んでたのが嘘みたいに、立ち上がってきれいに礼をしている。すごいできるメイドのように感じる。さすがフロレンツィアのメイドさんである。

「えっと、あー、コルネリウスです。ま、まあ、とりあえず、座って、座って?」

 そう言うと、信じられないものを見るような目を向けてくるイーナさん。まあ、俺って一応上級貴族というやつだしね。普通は使用人と同席とかあり得ないのは分かるんだけど。

「その、俺は身分とかそういうの気にしないタイプだから、遠慮とかしないでくれるといいかなって、うん」

 いや、マナーとかが分からない訳じゃないよ? うん。とりあえず、座ろう。

 しばらく逡巡したあと、イーナさんも向い側に座ってくれた。ヴィリは困ったように、部屋の隅を行ったり来たりしている。

「ヴィリ、お茶淹れられる?」

「はい、コルネリウスさま」

 ヴィリが、俺の分とイーナさんのおかわりのお茶を淹れてくれた。

「えーっと、用件を聞こうかな」

「わたくしの用件は一つでございます。本日、フロレンツィアお嬢様にお会いにならなかった理由を、お聞きかせいただけますか?」

 う、うぐ。

「えーっと、フロレンツィア嬢は、その、怒ってますか、ね?」

「いいえ」

 短く答えると、イーナはじっとりした視線を送ってくる。お、俺は、あんまり、悪くないよ! 不可抗力だったんだ!

「すごく心配しておられました」

 う、うぐぅ。罪悪感が心に突き刺さってくる……!

「えっと、その、先生方に物凄く引き留められまして、夕暮れ前にはなんとか話し合いに決着をつけ、会いに行ったんですが、遅かったみたいで……。本当にすみません。フロレンツィア嬢には、そう、伝えてください」

「かしこまりましたわ。それで、明日はお嬢様に会っていただけますか?」

「それが、ですね。明日から補講を受けなければならなくなってしまって。しばらくは、フロレンツィア嬢に会うことは、できないかも、しれません……」

 明日以降のことを考えると、気分が落ち込んでくる。講義を自主休講にしてこっそりフロレンツィアを見に行ったりしたら本末転倒だし、昼休みは彼女はサロンで昼食だから、こっそり侵入不可能だし。うああ……。

「それは……。いえ、お伝えいたしますわ。それでは失礼いたします」

 そう言って礼をすると、イーナさんは洗練された所作で部屋を出ていった。



△ ▲



 現在は昼休み。もちろん、昼食を食べる時間である。

 というわけで、俺は副食堂にやって来た。

 この学院にある大きな食堂は二つ、食堂と副食堂だ。副食堂には、色々な理由で食堂に入りづらい人が集まる。まあ、主に下級貴族だとか、愛人の子だとか、食堂の雰囲気が面倒とか、食堂はマナーにうるさくて面倒とか、食堂は顔を合わせるのが面倒な従兄が頻繁にいて面倒とか。

 普段から副食堂の気軽に使える感じが気に入ってよく来る俺ではあるけれども、今日はれっきとした理由がある。人との待ち合わせだ。

「お待たせ、ヨハン君」

 隅の方の席でピザとかいう薄いパンを食べていた、どこにでもいそうな少年の前の席に座る。

「遅い」

 目の前の少年、ヨハン君が不機嫌そうにこちらを見てくる。すまんな。地味すぎて君がどこにいるか分からなかったんだ。とりあえず、笑ってごまかしておこう。

「最近、なんか変わった話ある?」

 俺の昼ごはんである焼けた鶏肉とパンを食べながら、話を切り出す。このヨハン君、我が友人兼手下で、貴族関連の噂話を収集するのが趣味である。便利。

「変わった話ね。王太子殿下とフロレンツィア侯爵令嬢の婚約解消ほぼ確定、とか?」

「え、決まりそうなの?」

 あの誕生日パーティーで何があったか。俺が直接見たのはは途中というかほぼ最後だが、一応概要はフロレンツィアから聞いている。

「ん、そうだな。君は確か婚約破棄事件については知ってるんだったっけ?」

「ああ、聞いた話だけど。確か、えーっと……」

「ゾフィ男爵令嬢?」

「そう、それ、って男爵令嬢だったっけ?」

「一応な。ディーゼル男爵がどこかから拾ってきたらしいけど、まあ、あんまり関係ないだろ」

 そうだ、ゾフィさんの出自は、今はどうでもいい。結局どこの馬の骨とも知れてないし。

「そうそう、ゾフィさんがフロレンツィア嬢に階段から突き落とされたと主張しだして、で、それを理由にハルトムート、殿下、が婚約破棄を宣言したんだよね。

 でも、ゾフィさんが階段から落ちた時間、丁度フロレンツィア嬢は図書館にいて、司書さんがそれを証明している。だよね?」

 俺の確認に、ヨハン君は頷く。でも、これで婚約破棄が成立するってちょっと違和感を感じるけど。

「うん、その通り。だから、別に王太子殿下側の主張が通ったわけじゃあないんだぜ」

「うん? ってことは……」

 フロレンツィア側から婚約解消を打診したってことになる?

「多分君の考えてる通りだぜ。侯爵令嬢側が謂れなき罪により、不当な弾劾を受けたってことで、婚約解消を申し入れたようだな」

 ……それは、初めて聞いた……。

「で、その申請が通ったってこと?」

「ああ。で、ここからが本題なんだけど」

 ヨハン君が悪そうな笑みを浮かべている。

「近々、王位継承権の順位変動があるんじゃないかって言われてるぜ」

「な、何だって!?」

 それって、まずいんじゃないですかね……!

「そんなに驚くことかよ。さすがに王太子殿下が、被害者の曖昧な証言だけで、無実の侯爵令嬢を弾劾したのは問題だろうが」

「ま、まあね。かなりどうかと思うよね」

「ただまあ、変動するにしても問題があるみたいでさ」

 問題しかないよ。

「王太子殿下はひとりっ子だから、現在の継承権第二位はエルホルン大公閣下の嫡子サマな訳だけど」

 こっちを見るんじゃない、ヨハン君。

「その年で婚約者がいないのも問題だけれども。それよりもどうも、王族の自覚があらせられないのか、頻繁にご失踪なされる」

「それは、だって、第二位って予備だろう? 王太子殿下が健在なら、何やってたって別にいいんじゃないかなって」

「それが、自覚がないっていうの。実際、健在じゃなくなりかけてるんだからさ」

 嘆かわしいなどと言いながら、こっちを見ないでください。

「ま、公子サマに話戻すけど、最近なんか、まるまる一週間行方不明になられたあげく、お利き腕をご骨折なされたらしい」

 ふ、ふーん。そ、そんな人いるんだー。

「でもまあ、この失踪癖さえなんとかなれば公子サマを第一位にっていう声は多いみたいだぜ」

「へ、へー。そんなことになっているんだねー」

「おい、目が泳いでるぞ。とはいえ、どっちもどっちだからな、新年祭での『守護精霊の宣告』を待った方がいいって派が一番多いみたいだけど」


 何はともあれ、ヨハン君の話のおかげで、なんとなく分かってきた気がする。突然の補講の理由とか。

 それにしても新年祭か。今が十一月の始め、あと約二ヶ月。

 俺が、王位継承権第一位になるかもって? そんな、馬鹿な。


ヨハン君「後半三つの理由で副食使うやつ一人しか知らねえ」

ストーカー氏「えっ?」

ヨハン君「えっ?」


次は後編、9/25の19時予定。

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