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フロレンツィアのまじかる☆くっきんぐ

お茶にごし的でごめんなさい。

念のためご飯前後注意です。

 メルガルト王国立魔法学院女子寮のとある一室、そのキッチンにて。

「お嬢様、その、本当に、作るんですか?」

 そうためらいがちに発言したのは、メイド服に身を包んだ女性。焦げ茶色の髪に同色の瞳、何だか仕事ができそうな雰囲気の二十歳ぐらいの人物。

「もちろんですわ! 何のためにこんなに食材を集めたと思っていますの?」

 自信満々に銀髪に夜色の瞳の少女が示した先には色とりどりの食材が並んでいる。

 小麦粉、トマト、ほうれん草、卵、オリーブオイル、とうがらし、ニンニク、砂糖、レバー、レモン、なんか紫色のまがまがしい形状の草、緑色に光る茸、あと鰯。

「あの、本当に、この材料で?」

「くどいですわよ、イーナ! 必要最低限のもの以外は栄養価の高い食材ばかりでしてよ。特に!」

 食材の一部をびしりと指差す。

「コルネリウスは結構切傷を負っていらしたから、増血によいらしい、このレバーとほうれん草は必須でしょう。そして、何より骨には魚がよいと聞きましてよ。つまりこの鰯という小魚! さらに! 特別に魔法薬に使われる魔草も手に入れましたわ!」

「それで、この素晴らしい材料で、何をお作りになるのでしたか?」

「そんなもの決まっているでしょう?」

 少女は口の端を上げ、いわゆるどや顔で言い放った。

「もちろん、クッキーですわ!」

 なぜ、この食材でクッキーなのか。イーナはいまいち理解できなかった。

「それでは、始めますわ。イーナ、作り方を教えなさい」

 知らないよ! と言いかけるのをこらえるイーナ。

「……かしこまりましたわ、お嬢様」

 食材から大丈夫じゃないから、きっとフィーリングでできる。そして、完成品のクオリティーには目をつぶることにした。

 まあ、毒も毒になりそうな組み合わせも入ってないから大丈夫だろう。これを食べさせられる相手については、まあ、イーナの仕える主人のことを大切にされているようだから、きっと喜んで食べてくださるだろう。ただし、味見は絶対にしない、させない。

 そんなことを考えながら、イーナはとりあえず鰯を焼くことにした。

 一週間、散々お嬢様に辛い想いをさせた報いを受けろとか思ってないのだ。



△ ▲



 色々あったフロレンツィアの誕生日から、今日で二日。まだ折れた右腕は治りきっていないため、俺は一応医務室の個室に閉じ込められている。

 閉じ込められているとはいっても、昨日もフロレンツィアがお見舞いに来てくれたし、今日も来てくれるみたいだし、たまにはなんかこういう感じもいいと思ってしまう。

 講義が終わるだろう時間のしばらくしたあと、フロレンツィアがお見舞いに来てくれた。

「フロレンツィア嬢、昨日に引き続き、来てくれて嬉しいです」

「ええ、コルネリウスが寂しがると思って、来て差し上げましたわ」

 と言うフロレンツィアはどこかいつもと様子が違う気がする。何だかそわそわしてるし、いつもは持っていないバスケットをもっているし、なんかバスケットから怪しい臭いがしている。え、なにこの臭い。え?

「お気づきのようですわね。実は、コルネリウスのために、クッキーを焼きましたの」

 微妙に視線をそらしながら、バスケットをつき出すフロレンツィア。って、え、クッキー? クッキーってこんな臭いするの?

「焼いたって、まさか、フロレンツィア嬢が?」

「わたくしが焼いたら、何か問題があるのですの……」

 フロレンツィアが自信なさげに、ちらちらと視線だけこちらに向けてくる。

 そっかー。フロレンツィアが、俺のために……。え、えへへ。

「う、その、すごく嬉しいです」

 フロレンツィアに確認をとって、バスケットを開けてみる。

 う、うん? 不思議な色合いの円形の何かがいっぱいつまっている。何だろう、赤と緑と紫のマーブル、何故か魚の小骨が飛び出していて、表面がてかてかしている。

 クッ……キー……?

 おっと、一瞬思考が停止してた。その間に。

「全く、コルネリウスは仕方ありませんわね」

 フロレンツィアがフォークに暫定クッキーを突き刺し、俺の口の前に、あ、あああ。

「……あーん」

 微妙に視線をそらし、不本意そうな顔を赤くしながら、なんてことを……!

 その魔力とも言える謎の力に一瞬で屈した俺は、もうクッキーのようなものを食べることしかできない。というわけで、思いきって口に入れる。

 ……!? ……! ……!

 一瞬、意識が飛びかけた。とにかく吐き出しそうになるのを必死にこらえ、一息に飲み込みたい欲求も押さえ込み、ひたすら咀嚼する。

 なんだろこれ。甘いし辛いし酸っぱいし苦いしえぐみひどいし生臭いしねばねばするし小骨の食感が小気味いいし。

 だ、大丈夫、大、丈夫。むしろ、逆に、おいしいし。そもそも好きな女の子が作ったってだけで、プラス五百したあと十倍おいしいし。

 うん。食べてるうちに、このえぐみとねばねば食感が癖になってきた、気もする。

「コルネリウス、おいしい、かしら?」

 しまった、ずっと真顔で食べてしまっていたようだ。フロレンツィアが不安げな表情で俺を見上げている。俺は、無意識に口を押さえていたらしい手を下ろし、ひとまず今食べてる分を飲み込んで。

「フロレンツィア嬢が俺のために作ってくれたものが、美味しくないわけないじゃないですか」

 バスケットからもう一個摘まんで口に入れる。なんか指先がべっとりする……。

「よかったぁ……!」

 そうやって、フロレンツィアが素敵な笑顔を浮かべたりなんかするから……。

「ねえ、また、俺のために、作ってくれませんか?」

 こんなこと、言いたくなっちゃうんじゃないですか。


お読みいただきありがとうございます。


ニア 定期テスト回

   街でーと

   お嬢様誕生日前の一週間


鋭意制作中です。

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