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金色の町

作者:蠍座の黒猫
 とうじろう、という子どもが一人ありました。
いつも一人でお話しを作り、その中で遊んでいるのでした。

 青い青い海の底にある洞窟を、ずうっと行った先、むかしむかしの
竜たちの骨の眠るところで目覚めた小さな竜の子どものお話し。

 深い深い山の中に住む、優しい真っ白な猿の化け物の父親が、幼いわが子に夜語るお話し。

 夕日の落ちる下にある、背伸びする人ばかりの黄色い低い屋根の町にある、
一つだけの時計が止まった時のお話し。

 大人たちは、とうじろうにあまり構いませんでした。
とうじろうは、大人しくて言うことを聞く良い子でした。
 とうじろうには、親がいません。
 おかあさんは、雨の降る夜にいなくなりました。
 おとうさんは、蒸し暑い夜にいなくなりました。
 とうじろうは、それがよく分からなかったので、いつも待っているのでした。

 親戚のおじさんに、
「ねえ、おかあさんは、なんじにかえってくるの?」
と、しばしば尋ねるたびに、おじさんは何とも言えない顔をして
「とうじろうが、良い子にしていたらね。」
そう言って、目をそらすのでした。

 ご近所のおばさんにも、
「こんにちは。おとうさんかえってきますか?」
そう声をかけると、おばさんは気の毒そうに
「そうだねぇ……あ、ごめん。忙しいからまたね。」
そんな風に言って、逃げるように自分の家へ入っていくのでした。

 ある日、とうじろうは、雑草の生い茂る庭の隅に一人しゃがみ、蟻の行列を見ていました。
 地面の下の蟻の王国で、女王の王冠が無くなった話を思い浮かべていました。

――女王さまは、白いお顔のやさしいお方。警護の侍は眉毛が太くて厳めしい。女王さまがお忍びで地上へ出たから王国は大騒ぎ。その騒ぎの中で、王冠が無くなって……

 とうじろうの細いうなじに、そよ風が触れました。

――しゃららん

――何の音だろう。なんだかいい気持だな。

 ふわっと、目の前に何かが見えました。それは、金色に光る町並みのようでした。町の往来に、見覚えのある顔がありました。

――おかあさん!おとうさん!

 とうじろうが目を凝らすと、その幻は消えてしまって、また元の手入れのされていない放り出された庭だけが、そこにあるのでした。

 その夜、とうじろうは手紙を書きました。

――おとうさん。おかあさん。

 きょう、おとうさんとおかあさんをみたよ。

 どうしてかえってきてくれないの。
 おしごといそがしいの。

 きんいろにひかってるところでみたよ。
 なにをしていたの。おかいものかな。

 まいごになってしまったの。
 ぼくはここにいるよ。
 かえってきてよ。

 それとも、むかえにきてくれるの。
 ぼくもそっちにいきたいな。

 みんなやさしいよ。
 でも、おなががへったな。

 あさまで、だれもこなんだ。
 ごはんがたべたいな。

 はやく
 かえってきてください。

             とうじろう

――とうじろうが、目を覚ますと何だかいつもと違いました。
いつも寝ていた雨漏りの沁みのある天井ではなくて、真っ白な天井でした。
いつも聞こえていた虫の声ではなくて、がやがやとした白い服をきた人たちの声でした。
 天井からレールがあって、カーテンがありました。とうじろうは、いつもの冷たい布団ではなくて、白いシーツの固いベッドの上に寝ていました。
「気がついた。」
声のする方を見ると、なんだか落ち着かない親戚のおじさんでした。
「とうじろう。ごめんな。」
どうしてだか、おじさんは泣いていました。

 とうじろうの寝ている間に、大きな火事があったのです。とうじろうの家は全部焼けてしまいましたが、とうじろうは火傷ひとつありませんでした。

 その夜、消防士が決死でとうじろうを助けに入った時、とうじろうの周りだけが燃えていなくて、枕元に何だかぼうっと金色に光る人影が二つ、見えたということでした。
 とうじろうを抱き上げると、その人影たちもついてきて、炎がまるで二人を避けるかのように遠ざかったということでした。

「おじさん。ぼく、ゆめをみたんだ。」
とうじろうは、おじさんに昨日の夢を話しました。

――金色の町は、朝日の昇る元にあって、そこではみんな幸せに暮らしています。でも、一つだけ悩みがありました。それは、残された人たちと会えないということでした。
 チリ一つ落ちていないレンガの歩道で、人々は残してきた子どもや親や友だちのことを思います。空はいつも夕暮れの薄い金色で、鳥の声一つありません。ずうっと夜にはなりません。
 でも、時々ぴかっと空が明るくなって、光の玉が降ってきます。
 一つ、二つ、三つ……
 それは、新しくこの町にやってくる人の始まりの姿なのです。
 新しい人たちは、人の姿になってから、しばらくはぼうっとしています。誰かの名前をつぶやく人もいます。

 町には、「輝きの井戸」という井戸があって、底の見えない青い水を湛えています。それは、残された人たちの涙なのでした。
 その井戸を覗き込むと、会いたい顔が見えるのでした。
 金色の町の人たちはその井戸を順番に覗きます。とうじろうのおとうさんとおかあさんも二人で、とうじろうのことを見ているのでした。


 知らない母子が少しケンカしながら歩いている姿を、涙の目で見ているところを。
 学校の休み時間、一人じっと俯いて座っているところを。
 洗濯物の落ちた、荒れた庭で一人でしゃがんでいるところを。
 いつの間にか捨てられてしまったお気に入りのオモチャを、まだ探しているところを。

「 」

 何か言葉を口にしても、それは聞こえないのでした。
 じっと見つめている瞳の深さだけでも、伝わって欲しいと願うのでした――

 とうじろうは、おじさんのところに引き取られました。その家には、いとこの男の子がいて、わがままでしたが、なぜか、とうじろうの言うことだけは聴くのでした。
「とうじろうの声は、金色だから。」
そう言って、いつもは乱暴な従兄は大人しくなるのでした。

 しばらくして、とうじろうは絵本を書きました。
「きんいろのまち」と、いう絵本でした。
 それを読む人は皆、去っていった人のことを思い、また自分が去る時のことを思うのでした。


終わり

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