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――そうさ。俺はどうしようもないクズの大馬鹿野郎だよ。まともに働くこともできねえクソだ。でも、だからってどうすりゃあいいんだよ。どうしたらいいのか、俺にだってわかんねえんだよ
晃司は胸の中に渦を巻く思いを吐き出すように地面に唾を吐いた。中学の時に母親が死んで、不良の先輩たちとつるむようになり、高校を一年で止めて家を飛び出した。東京で暮らすようになった最初は居酒屋で働いていたが、スロットにはまって借金が出来た。借金を返すために、闇金に手を出してすぐに返せなくなり、違法なドラッグを売るように強要された。
最先端のファッションで着飾りたいためにクスリの売買に手を出し、借金まみれのヤク中になって、AVを撮られる十代の少女がいた。禁断症状が出ると、よだれを垂らし、獣のように呻いて床を這った。シャブを打たれる直前に、晃司は叫んだ。
「お、親父が金、払うから」
父親の保は、「落とし前つけな」と脅す闇金の元締めに、実際に借りた金の倍近い金を払って息子を連れて村に戻ってきた。父親の農業を手伝いながら長距離トラックの運転手をしている七才上の兄の健一は、そんな晃司を汚いものを見るような目で見た。
「おめえ、そんな遊び人みてえな格好しねえで、ちゃんとしねえか」
「村のもんがおめえのこと何て言ってるか知ってるか。これ以上俺たちに恥かかせるんじゃねえ」
生来寡黙な保は、顔を合わせてもほとんど喋らないが、健一はがみがみと晃司に小言を言った。
年寄りたちの間では、まだ愚連隊という古風な言い回しが生きているような土地だ。村の人間たちも、山下の不良息子と、晃司を遠巻きに見ているだけで、昔と変わらず話しかけてくれるのは奈緒だけだった。
――俺の居場所なんかどこにもない
そう思うと胸の底が冷たくなってくる。東京に行ってうんと金儲けをして、みんなを驚かしてやる。そんな夢が、どれほど子どもっぽく身の程知らずだったかを、東京にいた五年間で晃司は思い知らされた。そこは天国と地獄が同居する街。雲の上にいる人間たちと、地べたを這い回る人間が同居して、一度堕ちたらもう自力では普通の暮らしに戻ることさえできなくなる。
奈緒が無邪気に口にする東京は、そんな街だ。でもそんなことは口が裂けたって、奈緒には言えない。奈緒が一生知る必要のない世界だ。でもあんなに怒らしちまったから、奈緒だってもう俺とは口を聞いてくれないかもしれない。そう思うと晃司は無性に寂しかった。