1/6
序
東北の山あいの小さな村に、七色の美しいうろこを持つ大きな蛇が住んでいた。
蛇は何百年もの間、鋭い爪と牙を持つ巨大な龍に憧れながら、湖の底で暮らしていた。ある時山火事が起こって、村は火に包まれた。村人たちの泣き叫ぶ声を聞いて、蛇は湖から姿を現した。
――こんなに長く願い続けたのだから俺はもう龍になれているはずだ
蛇は思った。そしてたくさんの村人を自分の背中に乗せると、天高く駆け上っていった。
しかし蛇は天に昇ることは叶わなかった。中天まで昇った蛇はやがて弧を描いて、村人たちを乗せたまま頭から自分の棲む湖へ沈んでいったのだった。
そして火事を逃れ生き残った村人たちは、自分たちの親やこどもや仲間を湖の底に沈めてしまった蛇を激しく憎み、忌み嫌った。七色の蛇は、二度と人間たちの前に姿を現さなくなった。