参ノ壱話
目を覚ますと、そこには暗闇が広がっていた。
「ん……」
春呼は体の節々が発する鈍い痛みをこらえながら、ゆっくりと体を起こした。
「ここは」
目をこらしても、見えるのは闇だけだ。隙間一つない所に入れられたのだろう、と春呼は自分の状況を冷静に分析する。
それから何故こんな場所にいるのか、その原因を思い出す。
なかなか正常に動いてくれない頭を必死に働かせ、目覚める前は何をしていたのか、眉間をもみながら考える。
九重がいなくなって、村に大変なことがたくさん起こって、それで母様と……。
「そうよ、九重っ!」
ぼんやりしていた頭が冷水を浴びたかのように一気に覚醒する。叫んだせいでくらりと脳が揺れたが、こうしちゃいられないと慌てて周囲を見渡した。
けれど、わかるのは暗闇が広がっていることだけだ。
「納屋ね」
だからこそ、ここがどこだか特定するのは容易かった。
敷地の端にある納屋は『納屋』と呼ばれているものの、トウシャに現れた不届き者を一時的に拘束するために使われる。そのため、扉は外からしか開けられないよう作られていた。
春呼はいずれ、屋敷を管理する役目が回ってくることを知っている。
管理するためには普段を知っている必要がある。普段を知るためには、常日頃から屋敷を見ている必要がある。春呼は普通の女の子になりたいと願ってはいるものの、名家に生まれた者が持つべき責任をしっかりと理解していた。そのため、夜彦と一緒に――時には一人で――屋敷をくまなく回っているのだ。(子供の頃、悪戯をするために覚えたのが大半ではあるが)
「てことは、軟禁か。そうなると……」
九重を討伐すると、決定したのだろう。春呼が閉じ込められたのは邪魔をされると困るから、夜彦が秋鼓の部屋にいたのは倒す算段をつけていたからだと予想する。
またあの人は勝手に、と春呼は腹を立てながら周囲を見回した。もちろん、何かが見えるわけではない。しかし、明るい所で見る納屋の中にはどこに何があるか、どんなものが置いてあるかもばっちり把握済みだ。
這うように壁まで進み、右手をつけてあるものを探す。
「……あった」
それは僅かな変化に過ぎない。だが、全神経を集中させた春呼の指先は「たったそれだけ」を見逃さなかった。くぼみと、金属特有の冷たさ。
「ここが扉。だとすると」
自分でも驚くほど冷静だった。あまりにも怒りがわきすぎて、頭の芯がすっと冷えているのだ。
「九重は絶対、殺させないんだから」
強い力に満ちた呟きは、暗闇の中でも輝いているようだった。




