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春呼ぶ少女と災厄の狐  作者: 櫻乃 郷
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覆されることのなかった今までの話

春呼ノ座学帖其ノ十八 より


 ――今からおよそ百年前。漆黒の炎を操り、人を殺めることにのみ快楽を得る邪悪な妖がいた。

 毛は黒く、強力な妖力を宿した尾は、常であればありえない九本。姿が狐に似ていることから、『九尾』という仮称をつけられた妖は、周囲の妖を配下にするほど絶対的な力を持っていた。

 九尾は妖を己の絶対的な力で屈服させ、操り、非道の限りを尽くす。余談ではあるが、配下である妖が『森の長』と呼んでいた、という記録もあるため、妖にも地位的なものが存在するのだろうと考察されている。

 かの大国ハルジオンは九尾を封印すべく術士三百余名を向かわせた。中には癒しの力を持つ、綾ヶ咲(あやがさき)一族の祖先の姿もあったという。

 結果からいえば、封印は成功した。

 しかし過程は困難を極め、任務から無事帰還を果たしたのは十名にも満たなかった。

 九尾が封印されたのは、昼でも暗闇に閉ざされている『夜の森』。群生している全ての木が樹齢数百年を超えており、鬱蒼と茂ったその場所は昼であれ太陽の光は届かないのだそうだ。

 森の中でも一際長い時を刻む大木――夜大樹(やたいじゅ)は、百年経った今でも封印の役目を果たし続けている。



 ……次頁からは九尾が起こしたもっとも残虐な事件『九尾の大虐殺』の詳細、その際どんな対応があったのかなどが事細かに記されている……。

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