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3 なめたけ

 ガラガラ。


 へい、いらっしゃい!


 ガラガラ――ピシャッ!


 なんだか気難しそうな顔の奴が来たね。


 うちは一見さん大歓迎だけど、しかめっ面のお客さんてのはちょいと苦手なんだよねえ。


 ま、晴れの日も雨の日も酒を飲みたくなるってぇ気持ちだけは、わかりますがね。


 あ、どうぞよかったらカウンターに座ってください。ええ、ごらんのとおり端から端まで空いてますからね。やだなお客さん、人気がないからってんじゃありませんよ。ほら、うちの商店街ってアーケードがないでしょう? だから雨の日ってのはちょいと、ね。


 それに、もう十一時ですからねぇ。


 お客さんこの辺の人? 終電早いからね。気を付けないと。


 いや(けえ)ってくれってんじゃありませんよ!?


 気を付けてくださいねって話でさ。


 タクシーで五分? そうですかい。それなら安心だ。




 ……いくら端から端まで空いてるってもね、一番端の壁際に座らなくたって、ねえ。まあ、ようございますけどね。俺だって無闇に話しかけたりする方じゃないんだから。どっちかつーと、苦手だね。だけどもあんな風にしかめっ面でさ、端っこに座られっちまうと、どうも気になっていけねえや。


 ま、何はともあれ。


 お客さん、ご注文はおきまりですかい?


 へい。“ボール”ね。


 レモン入れますか? うちのはね、国産よりもメキシコ産にこだわ――抜きね? 毎度どうも。




 はいよ、ハイボールお待ちどう。こちら、お通しね。よかったら食べてくださいよ。初めてのお客さんにはサービスさせていただきますからね。


「……どうも」


 いいえぇ。


 アテは何かいりますか? メニューにないもんでも言ってみてください。できるもんならこさえますよ?


「…………」


 あら、黙っちまったよ。


 やっぱり話しかけないほうがよかったかね。


「なめたけ……ありますか?」


 へ? なめたけってえと、ええ。瓶詰のあれでしたら。なめたけで何かこさえましょうか?


「いえ……」


 あらら、下向いてちびちびやり始めたよこの人。


 なんかあれかね、なめたけに思い入れでもあんのかね。


 こないだの女将さんも悩める未亡人みたいな顔して頭ン中は西洋わさびだったからねえ。案外この人も……いや、なめたけが原因で悩むことなんかあるもんか。


 長野の農家さんじゃあるまいし――って、別にあいつらが頭悩ましてるってこともないか。あんな美味いもん、売れ行き好調に決まってら。


 はい?


 おかわりね。


 濃い目で? へえ、かしこまりました。







 お客さん、なんか食ってからいらっしゃいました?


 いや、おかわりってもう五杯目ですぜ。濃い目濃い目っておっしゃるから、もうほとんどロックみたいなもんで。


 すきっ腹に冷たいもんばっか流し込んでると、腹ァ壊しますよ?


 お袋みたいなことを言うなぁって……すいません。差し出がましいことを言っちまって。


 え?


 長野のご出身なんですかい。


 ほうほう。お袋さんを一人置いて上京して、今は会社を経営なさっている。


 すごいじゃないですか。


 お袋さんも喜んで――え?


 ほうほう。こっちに呼び寄せたはいいが、お嫁さんとそりが合わない。なるほどねえ……


 急に舌が回るようになったら、ずいぶん突っ込んだ話を聞かされちまったよ。

 

 でもねお客さん。


 嫁姑なんて他人同士もいいとこだ。かわいい息子を取られてお袋さんだって面白くない。多少の諍いは――


 ……なんですって? 「なめたけ」が原因?


 そりゃぁ、またどうして――って、いいんですかい? そんな立ち入ったことを聞いちまって。


 ああ、いえ、どうぞお話しください。




 ……要約すると、なめたけ嫌いの奥さんと、なめたけ大好きなお袋さんのそりが合わねえんですね?


 いや、お客さんたいしたもんだ。そこまで面白おかしく話ができりゃ、噺家にでもなったらどうですかね。


 いや、冗談ですよ。


 それにしてもなめたけが嫌いなんてねえ。俺に言わせりゃ、不幸せな味覚ですよ。いや違いますよお客さんと結婚したのが不幸だなんて言ってませんでしょ!?


 まあ、落ち着いて。


 今夜寄ってもらって、話聞かせてもらったのも神さんのお導きかもしれません。俺が一つ、冷蔵庫のなめたけ半分あればパパッとできる、絶品――なんか自分で言うのも恥ずかしいもんですね。ま、とにかく旨いやつをご覧に入れましょう。


 まあ、ちょっと待ってておくんなさいよ。







 はい、お待ちどう。


 なめたけ入りとツナとネギの和ルボナーラです。


 スパゲッティってところが女性には入りやすいんじゃありませんかね。まま、一口どうぞ。


 へえ。


 ツナ、なめたけの旨みとダシが麺に絡んで見事に和風カルボナーラを表現している?  口の中に残るかと思ったネギはパスタ同様に細く切ってあり、柔らかく炒めてあるため適度な甘みととろみがあって、これがまたパスタと絡み合って触感のハーモニーを奏でているようだ? 黒コショウを利かせていることが刺激となって、これはもう止まらない?


 お客さん、会社なにやってんの?


 え? グルメ情報誌メインの出版社?


 ああ、そうですかい。いや、うちは取材お断りですよ。あしからず。








 ※ネギとツナの和ルボナーラ

 生卵を室温に戻してから割り、黄身と白身に分けて置く。

 ネギは五センチぐらいの長さに切り、パスタと同程度の細切りにする(ネギ好きは太めがおススメ)

 ツナ缶は開けて、油を切っておく。

 パスタを茹ではじめる(ゆで時間7~11分がおススメ)

 熱したフライパンにバターとオリーブオイルを入れ、ネギが柔らかくなるまで中火でじっくりと炒める。

 このタイミングでパスタに八割程度火が通っているぐらいがよい。

 ネギが柔らかくなったらツナを投入。パスタの茹で汁サッと絡めてなめたけ、塩、しょうゆを加えてひと煮立ちさせる。

 湯切りしたパスタを投入して具材をよく絡める。ボウルに移して黄身とよく絡め、黒コショウを多めに振って。

 海苔を散らしても美味しいです。

 冷蔵庫の中で恨めし気に立っているなめたけ、三本買ったけど一本余ってしまい、葉が茶色くなってきたネギ、三人家族なのに一個だけ余った卵。彼ら(のこりもの)に栄光あれ!!

 作ってみてくれよな!!




なんかこう、余っちまって困ってる食材とかありませんかね? リメイクしますぜ!

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