夢を見ました
初めて投稿します。
暗い暗い夜の道。
いや、夜なのか闇なのか。月明かりに照らされうっすらと現れたのは先の見えない石造りの一本道。周りは大人と同じくらいの高さの岩の塊と、少し蹴飛ばしたら折れてしまいそうな程の細い枯れた木々が不規則に並んでいる。
そこにまた一人迷いこんだ者がいた。
どこかの村人か百姓か、男は提灯の明かりだけをたよりにおっかなびっくり歩いている。
明らかに道を間違えたと伺えるほど不安な挙動をしており、焦りの表情を浮かべている。
『―――――――モウ少シ』
焦りから急ぎ足をはじめると、遠くにうっすらと橋が見えてきた。男は足を早める。
『――――キタ』
橋に近付くとその先には見慣れた風景があり、男は安堵した。
もう少しで帰れる。そう思い橋を渡ろうとした男の足がふと止まる。橋のすぐ脇の岩かげにに何かいる。
ちょっと確かめるくらいならと男は覗きこむと、そこにはえんじ色の着物を着た少女がうずくまっていた。どうやら泣いているようだ。いくら急いでいるからといっても、さすがに泣いている子を放っておけないと思い、声をかけた。
どうやらなくし物をしてしまったらしく、何かを大事に抱えている。
うずくまっていた少女は立ち上がり男の方を振り返る。途端、男の顔が恐怖で引きつった。
抱えていたのは首のない着物を着た人形で、切れた首からは何やら赤黒いどろりとした液体が出ており、地面に滴り落ちていた。
『オニンギョウ ノ クビガナイノ』
その声が聞こえた瞬間、橋の先が闇に包まれた。頭の中でざわざわと鳴り響く警告。男はとっさにきびすを返し、来た道を走っていた。
何も考えられず、ただ警告音だけが頭の中を支配している。
関わったら危険だ。
逃げろ。
走れ。
追い付かれないよう必死で走る。
走って。
走って。
走って。
己の限界を越えた頃、大きな岩かげに隠れた。
息を殺し、爆発しそうなくらいうるさい心臓の音を必死に隠す。
なんだあれは。
「あれ」は関わったらいけないものだった。
怖い。
逃げなければ。
追ってくる気配が無いのを確認し、男は腰を下ろす。
とにかく別の道を探さなければ。来た道を戻るか、遠回りするか…。
『―――ミツケタ』
男の足下に人形の首がコロコロと転がり、見開いた目が真っ直ぐ男を見つめる。
気配を感じた。それは今自分が橋を背に走ってきた方向ではなく、自分が逃げた先だった。
遠回りされた!?ばかな!足は早い方ではないが、十になるかならないかの少女が大人の足にかなうはずがない。
顔も上げずに橋の方へ駆け出す。……が、すぐに足を止めた。
そこには先程の闇に包まれた橋があったからだ。
息が切れるほど、心臓が割れそうになるほど走ったのに。
男は絶望した。と同時に、橋が完全に闇に包まれた。
もう、帰ることはできない。
少女は男の前に立つ。月明かりに照らされ、少女の姿がはっきり見えてきた。
サラサラの綺麗なおかっぱ頭。月明かりのせいか青白く見える肌。首のない人形から出る液体が少女の着物を染めていて、綺麗なえんじ色になっている。前髪で表情がよく見えないが、口角を上げ、男を見て不適な笑みを浮かべているようだ。
『―――――イッショ ニ アソボウ』
腰を抜かし、動けなくなった男にゆっくりと近付き、少女は背中に隠し持っていた鎌を振り上げた。
また一人、犠牲者が出てしまった。
私は全てを見てきた。ある者は今のように捕まり、またある者は運良く抜け出せたが、何かしらの身体的な障害を受けた。
もうやめて。
そう願っても、私は声を出す事すら出来ず、ただただ見ているしかできないでいた。
この夢を見た時、とにかく怖くてたまらなかったのを覚えています。
今思うと、この時の自分の精神状態を疑いますね(笑)