007 独自呪文
きっとあれだ、アスリートが酸素の薄い高地トレーニングするのと同じように。
爺さんの血を引きつつも魔力のないアースに居た俺は、生まれながらに無魔力トレーニング状態だったのではなかろうか。
普通は、HPの10分の1が目安なんだそうで。ミリアが3000ほど。カティーナでも4000だそうな。対する俺は680万。ミリア二千人以上に相当する魔力らしい。
「シン!あんたこれを知られたら、各国からスカウトくるかもよ!いや、そんなものじゃないな、あんたが生け贄なったら簡単に邪神が復活できそうだ」
マジかよ!って言うか邪神なんているのか!
「シンが特別なのか、アース人全てがこうなのか・・・・・・こりゃあ、フィレクラムに知られたらとんでもないことになるねぇ」
カティーナにしみじみと言われたが、正直俺にはどうにもならん。ただ、カティーナの仮定・・・・・・やべぇ、“かてぃーなのかてい”ってのにツボ入りそうだ。うくくく・・・・・・我慢だ。
とにかく、仮定はまったくあり得ない話ではないと言うことくらいは、俺でも判る。爺さんの言ってた独自魔法の開発は急いだ方が良いのだろう。幸いなことに、俺の魔法は湯水のように使えるらしい。
俺は早速、レクチャーされたことを参考に、魔法を使ってみることにした。
ピュリファイ(浄化)の魔法カードはこういう内容だ。
“ピュリファイ(浄化)” 、“(光)”
“インスタント”、“ノルス”
“~毒を消す。身体に入った異物を消す。では既に身体と同化してしまった異常はどうする?異常じゃないようにそれを改変するのさ~”
今回のフレーバー・テキストはまともだ。俺が思うに、このフレーバー・テキストは本来、魔法の効果を説明するとともに、カード無しでも魔法のイメージが伝わるように始まったものではなかろうか。
そして、特にイメージ伝達をしなくて良い場合はテキストがふざけているような。そうすると、あれ?独自魔法とかはフレーバー・テキストあるのか?まぁ、それは完成した時に判明するのかな。
俺はまず、魔力の感覚を掴み取る事から始める。アース人には判りにくいのかも、と思っていたが、“やさしい光”の魔力が周囲にあるというイメージをすると、空気中のほこりがたまに光の粒になって見える、幾何反射のような感じで、光の魔力が感じられた。魔力そのものは、なにかこう、脳の爽快感というか・・・・・・もしかして、脳内麻薬的な感覚で捉えるのか、これ!?
続いて俺は、ブリニャンを見据える。対象の確認だ。周囲からの光の魔力と、俺の体内の魔力がブリニャンに集約するよう、何本かの矢印のイメージをわざと造り出す。学校で勉強した、パワーポイントの発表資料を造るイメージだな。そして最後に、浄化のイメージ。ブリニャンの思考や行動を円滑にするため、邪魔な物があると仮定してそれを取り除く。ついでに、“毛が生えることを邪魔する物が存在して、それを変質させて毛穴が復活する”イメージ。この状態で、発動させるためにブリニャンを指さし、「ピュリファイ」と口にした。すると。
ブリニャンのブリキ色の肌が肌色に変色し、次いで灰青色の毛並みが表れ、びっくりしたブリニャンの瞳は緑色。こいつ、確かロシアンブルーって品種じゃなかったか!?
「何か、身体がさっぱりした感じがします。御主人様」
おおおおお!今度は感情の入った流暢な言葉だ!しかもイケメンボイスなまま!
「ブリニャン、お前は今どんな状態なんだ?」
「ナノマシンと私の競り合いが圧倒的に私が有利に。その結果、ほぼ元の姿になりました。ただし、私の知能は改変を受けたままです」
「なんかもう、お前の事ブリニャンと呼べないなぁ。名前、変えるか?」
「いえ、ブリニャンで結構です。気に入っております、マスター」
何故か、マスター呼ばわりまでされて、立派な猫騎士って感じだ。ブリニャンはそのままカティーナが抱っこしているので俺は続いて魔法の開発をしようかと思った。ちなみに今の俺のMPは・・・・・・「6799900」。100しか減っていない。つまり、光の魔力1は精神魔力100ということか。
これ、マジックミサイルやハンドミサイルの魔力コスト「X」のとこに俺の魔力ありったけ詰め込んだらどうなるんだろう・・・・・・
そんな時である。
カン!カン!カン!カン!
カン!カン!カン!カン!
「なんだ!?」
明らかに異常事態。俺は驚いたが、その答えは船長室に設けられた伝声管から聞こえてきた。
『船長!飛行雲です!』
「判った!警戒態勢を取れ。すぐいく!」
「丁度良い。シン、ミリア、一緒に甲板においで!」
カティーナは伝声管に返答すると俺達に呼びかけ、ブリニャンを抱っこしなおして部屋を出た。ブリニャン、良い身分だな・・・・・・
甲板を出た俺達に見えたのは、空中を漂う・・・・・・雲ならぬ蜘蛛。それも、たぶん俺と同じくらいの大きさで、尻から銀の糸を長ぁく伸ばした状態でぶら下がってる。
「まさか・・・・・・スパイダー・ウェブのフレーバーテキストは冗談じゃなかったのか!」
「私も初めて見たけど、ホントにいるんだね・・・・・・」
カティーナはウヒヒヒとおっさん臭い笑い方をして。
「やっぱり、フレーバーテキストを信じてなかったか。信じれば裏切られるし、信じなければ嘘のような本当のことが起こる。それがフレーバーテキストって奴さね」
うーん・・・・・・それじゃあ!
「じゃあやっぱり、船長も白パンツを!?」
「アホォ!そこは、白旗がちゃんとあるからいいんだよ!」
カティーナ船長があきれ顔で言い。ミリアが・・・・・・あ、視線が冷たい。突っ込み待ちの渾身のボケですってば。
二人揃って呆れられたのも束の間、カティーナが。
「よし。セクハラの罰であの飛行蜘蛛はシンが倒しちゃいな。魔法の練習がてらね!」
マジっすか!?うーん、どうしようか。
甲板上に一人立って、俺は飛行蜘蛛を見据えた。風に乗って、だんだんと近づいてくる。もうあまり猶予はない。あの蜘蛛は、こういった飛行船に糸が絡まって飛べなくなると、邪魔されたと思って攻撃してくるんだそうだ。
俺は水色のローブをナップザックから取り出して着込み、左手に白無地のマジック・カードを用意した。
俺は、周囲の空気中にある熱量を火の魔力として認識するイメージを持った。いくつかの火の魔力を認知し、俺の精神魔力と一緒に、頭上に一つの球体としてエネルギーが集まるようなイメージ。
さらに続いて、球体が横回転を加えられてひしゃげて弾丸のような形となり、ついでに弾丸後方に可燃性ガスが圧縮されて一緒について行くイメージ。最後に、弾道軌道が敵目掛けて真っ直ぐと伸び、ライフリングのような溝が弾丸に螺旋を描かせて進むイメージ。後は技名を適当に。
「フレア・ライフル!」
俺の掛け声と同時に、飛行蜘蛛にボッと穴が穿たれ、次の瞬間。
ボシュッ!!
直径3m位の高熱火球が広がり、飛行蜘蛛は蒸発して跡形もなく消えた。
ライフカウンターを見ると、俺のMPは・・・・・・「6799300」。600の消費。そして、左手のマジック・カードに独自呪文が出現する。
“フレア・ライフル(焦熱狙撃銃)” 、“火火火(1)(X)”
“ソーサリー”、“シン・キリュー”“レア”
“~熱素を凝縮し貫通性を高め、濃縮可燃ガスと共に打ち出す一撃。自重しない魔力充填と合わせ、その攻撃は対象を瞬時に蒸発させるほどである~”
さっきのは600消費してるので、火が3つだとすれば、Xが5魔力の威力か。
充分強いよな!そしてレアカードの作成に成功だ!
それでもって、フレーバーテキストって自動で作成されたよ。自動作成アプリでもマジック・カードにあるのか?それともその都度、誰かが考えているのか?謎である。
絵柄には、螺旋回転する赤い弾丸と先ほどの飛行蜘蛛が火球に取り込まれるようなシーンが描かれており、このイメージで次からはもっと素早い魔法起動ができるのだそうだ。爺さんのアドバイスどおりである。
「シン・・・・・・やっぱりあんた凄いわ。大魔法使いじゃないか!」
カティーナが興奮して褒めてくるが。
「まだまだ全然始めたばかりだ、おだてないでくれ。強ければ何でも言いって訳でもないし」
そうなのだ。力はコントロールしてこそ力。どんだけ火力が強くても、人質取られたりすればそこまでだし、津波とか土砂崩れとか、自然災害に勝てる力が正直欲しい。それは、アース育ちの、日本育ちで災害経験者の俺の偽らざる気持ちである。そんな気持ちを話すと、ミリアからは意外だと言われた。
「ごめんね。シン君ってもっと好戦的な人かと思ってた」
いや、俺は必要に迫られて戦うことは多いが、本来はそんな好戦的ではない。ただ、戦う時にためらいがないってだけだ。
と、自分では思ってたんだけど、実際どうなんだろうな・・・・・・
カン!カン!カン!カン!
物思いに耽っていると、再び鐘の音が聞こえてきた。
「今度はなんだ!?」
カティーナ船長が部下に聞くと。
船体に衝撃が走り、船が揺れだした。
「船長!下の密林に、“銃人”部隊が居ます!」
獣人!?モフモフ!?なんでそんな、お近づきになりたい異世界人が襲ってくるの!?
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