001 不思議なライフカウンター
「“一角竜”を召喚!魔力カードを4枚タップして“一角竜”をパワーアップ!守備表示!」
「魔力カード2枚タップ。そこに割り込み!“洗脳”で“一角竜”をこちらの配下に」
「あ~!ずっけぇぞ!」
「ルールだよ。問題無い」
「妖怪カッパで攻撃よ!」
「なんの!妖怪あかなめを呼び出して防御!ついでにプレイヤーをべろりんちょ!」
「いやぁ~!タカシのスケベ!」
「いや、こいつの能力だからっ!」
夏休みということもあって、爺さんが道楽で開いているカードショップ「ロンゾ」は地元の子供達で大盛況だ。
小中学生で、店内には20人弱もいるんじゃないだろうか。そりゃあ、冷房も効いてるし、テーブル席も座敷席も含めると定員は30人入れるほどの広さ。
入り口付近で中古カードの展示販売と各種カードゲームの基本パック、ブースター(追加)パックを売る以外は、ほぼフリースペースな為、地元の青少年にはいい溜まり場だ。
そのうち学校のPTAとかから苦情が来なければいいけど。
俺はと言えば、爺さんに頼まれて奥の物置部屋の大掃除をしていた。段ボール箱の中身の確認や場所を移動させて積み直し、そして掃除。新作カードゲームが近々入荷するので、スペースを確保したいらしい。正直、面倒くさい。
とは言え、年金暮らしの片手間に古美術商としてカードショップ「Ronzo」を営む祖父、「Ronzo Kiryu」こと桐生論造には頭が上がらない。なにしろ、数年前の大震災で両親を亡くした俺を引き取ってくれた人だし、俺自身も爺さんを嫌いなわけではない。むしろ、昔から爺ちゃん子だったくらいだ。
爺さんは元々日本人ではないらしい。名前からするとイタリア人なのかな?詳しいことは教えてもらえていないのだが、婆ちゃんと結婚して帰化したらしい。
おかげで俺はクォーター、というか、ちょっと目鼻の掘りが深くて、言われてみればそう見えなくもない、程度のなんちゃってクォーターだったりする。たぶん、爺さんゆずりが強いのは茶髪だろう。この髪とゴキりゅう呼ばわりで小中のときは結構いじめられた。
もっとも黙ってやられる性格ではないので、我流とは言え腕っ節が大分強くなったとは思うが。チャ○ネゴキ○○呼ばわりした奴だけは、鳩尾一発で3日飯食えないようにして、パンツ下げて撮影会したら二度と言わなくなったけどな。
「真悟!喉渇いちゃった!ラムネ頂戴!」
受付カウンターの前で大声で俺を呼ぶ奴が居る。さっき妖怪あかなめでセクハラプレイしてた小6のタカシだな。
「こらぁ!年上はさん付けで呼ばんか!ラムネ1本100円な!」
「真悟さん、私にもください!」
奥から受付カウンターに顔を出してタカシに礼儀を指導すると、表情だけでごめんなさいをしながらタカシが100円を出してくる。隣で同じく100円を出してきたのはタカシの同級生のエリだ。
冷蔵庫からラムネを2本取り出して二人に渡す。
「開けるのは店出てやれよ~!」
「「はぁ~い!」」
二人は頷いて店の外へ出た。仲の良いことで。タカシのラムネ瓶、激しく振っておけばよかったか。
俺はと言えば、再び奥の物置へ戻って作業を再開する。めんどくさいけどもう少しで終わりなのだ。
段ボール箱残り1箱の内容確認で作業が終わる。梱包されたガムテープを剥いで、ほこりの積もった段ボール箱を開けると、中身は商品関係ではなさそうだった。水色の布地が入っていた。
なんだこれ?販促用の物品?
取り出してみると、なんかフードらしきものが・・・・・・立ち上がって伸ばしてみると、それはフード付きのマント、いや、袖を通す穴がある。ガウンか?ファンタジーの魔法使いが着るローブかも知れない。
ゴトッ
音の方を見やると、箱の底に何かが転がっている。おそらくローブらしきものにくるまれていたのが落ちたのだろう。
それは、黒い小箱と白い包装のブースターパック?が二つ。ライフカウンターっぽいものが一つだった。
ライフカウンターっぽいものは、金属製でカードサイズ、厚さ5mmくらいの銀のフレームに青地の塗装がされている板。水平にくりぬかれた溝が2列。支柱が組み込まれていて、そろばんの珠のような物が7個ずつ。良く見ると番号式キーのように0から9までの数字が珠に刻まれている。普通はそろばんの珠を移動させてプレイヤーの生命力の増減を表すのだが、これは数字でも表せるのか。
お金に余裕がない子供は、おはじきのようなものを“トークン(代用品などの細かな物)”として用意し、ライフ残量を表しているが、ライフカウンターはデザインも格好良くて、社会人プレイヤーは使っている人が多い。ちなみに俺は、まだもっていない。
後で何のゲームシステムなのか、爺さんに聞いてみることにした。おそらくライフカウンターで間違いないとは思うが、出来ればこのライフカウンター、貰いたいものだが。
奥の大掃除も終わりと言うことで、俺は最後の箱に入っていた物を持って受付カウンターに戻った。丁度、ラムネを外で飲み干してきたタカシとエリが店内に戻ってくる。
「真悟、それなに?」
「何度言ったら判るんだタカシ?出入り禁止にすっぞ、ゴルァ!」
「勘弁して下さい、真悟・桐生店長代理!」
「フルネームでローマ字読みすんな!」
「え~、なんでだよ~・・・・・・あっそうか!」
こいつ、くだらねぇことに気付きやがった。俺のローマ字読みはGO要らないんだよ・・・
「シンゴ・キリュー・・・・・・シン!ゴキりゅう・・・・・・」
ピタッ!受付カウンターから素早く手を伸ばしてタカシの額にデコピン発射準備。指先エネルギー充填80%だ。人をゴキ呼ばわりする奴は許さん。
当然、カウンター越しだからタカシは後ろに下がれば回避できるのだが。エリが後ろからタカシを羽交い締めにしてくれた。
「その呼ばれ方は嫌いなんだ。これ以上続けると真面目に出入り禁止にするぞ。ついでにデコピン・バーストでライフ減らす」
「真悟さん、いいからやっちゃってください。タカシは本当、デリカシーなくて・・・・・・」
「ちょっ、エリ!なんか当たってるんですけどぉ!」
いっちょまえに何役得もらってんだ、このリア充め!
俺がデコピンを発射する前に、エリがすばやく羽交い締めを解いて後頭部を殴りつけた。
「バカッ!サイテー!」
うぉおおお、とタカシが痛みを必死にこらえている。
「馬鹿は放っといて、真悟さん、その青いの何ですか?」
エリの質問に、俺はカウンターの上に置いていたローブらしきものを手に取った。
「荷物整理してたら出てきたんだよ。何だろうね?」
言いながらそれを広げてみた。おもむろに袖を通してみる。着込んでみると、如何にも魔法使いっぽい。魔法使いのシン!とかシン・キリュー・・・・・・蜃気楼!字名はミラージュとか!いかん、高二なのに厨二病が再発しそうだ。
「うわぁっ!魔法使いみたいっ!」
エリの声に店内の視線が集中する。ちょっ、何この羞恥プレイ!厨二病が再発しかけたから尚更恥ずかしい。
俺は慌ててローブを脱いだ。後にして思えば、この時にライフカウンターに俺の状況が登録されたんだろうな。その時の俺は、当然ではあるが全く予想していなかった。
爺さんが帰ってきたのは夜の7時前。店の閉店作業をして、婆ちゃんが用意してくれた晩ご飯を食べに居間の食卓へ。今日の晩ご飯は・・・・・・イカめしに大根と人参の煮染め、長芋の千切りにわかめの味噌汁。ヘルシーだな。
食事が終わった後、物置部屋の大掃除が終わった事と、水色のローブやライフカウンターを発見した事を爺さんに報告して、紙袋からそれらを取り出した。
「ほほう・・・・・・それを見つけたか。なつかしいのう。と言うかそんなところにしまっていたんじゃったか」
「なんのゲームのカードなの?それと、このライフカウンター結構格好いいんだけど。もらってもいい?」
爺さんはライフカウンターを手に取ったが、表情が訝しげに変わった。
「真悟・・・・・・お前、そのローブ着たのか?」
「ああ。試しにちょっとね。なんだろうと思って」
爺さんはため息をついてから、俺にライフカウンターを見せた。青地の表面に羅列してあった銀文字は、昼間は何語かも判らない単なる装飾だと思っていたのに・・・・・・その一部が、俺でも読めるローマ字で「Shin Kiryu」と書かれている。あら?GOが抜けてるぞ。その他にも「アース」と読めるとこがある。2列あるそろばん珠もどきの下段は「0000000」、上段は「0034000」という数字を示していた。
「そのライフカウンターはセットになっているローブを着ると、術者が登録されるのじゃ。表示内容はローブを着て頭でイメージすると多少調整できる。上段はお前のHPであり生命力を表す。下段はMPで魔力じゃな」
「すげぇハイテクだな。でも、なんでMPゼロ?」
「ハイでもローでもない、マジックテクノロジーだからマジテクだな。この世界は魔力の存在しない世界だから、当然MPはゼロ。魔力のある世界に行かないと、お前の本当の魔力は判らんな」
いや、マジテクって何よ。爺さん俺を担ごうとしてるのか、それともマジでボケてきたか?
たぶん、そういう表情が顔に出ていたんだろう、爺さんは俺を鼻で笑い、信じられなければとりあえずホラ話と思って聞いておけ、と語り出した。
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