デレデレ図書委員(終)
彼がこの図書室に来るたびにドキドキするようになったのはいつ頃からだっただろうか
あまり人と関わることが好きではなかった私は、2年生になっても図書委員をやっていた
理由は単純、昼休みに当番が入っているときは、教室で息苦しさを感じながら一人でお弁当を食べる必要がないからだ
そうしてずっと図書委員をしていた夏も半ばの頃、彼―――新谷悠吾がよくやってくるようになった
最初のうちは、放課後一人で本を読むのを邪魔されているようで正直嫌だったが、騒がしくするわけでも本を汚すわけでもないので特に何も言わなかった
だが、ある時彼は突然私に話しかけてきた
『君、名前は?』
その時、私は咄嗟に本を読むのを続けていた
同い年くらいの人に話しかけられることが久しぶりで、つい逃げてしまったのだ
何も返事をしない私に、彼は困ったような顔をして、大人しく自分が座っていた席で本を読み直していた
その姿を見ながら、私は『ああ、やってしまった』と後悔した
折角話しかけてきてくれたのに
その日は寝るまでまずっとそんな風に思っていた‥‥‥‥
ところが翌日、彼はまた放課後図書室に来て本を読み、そして私に話しかけてきたのだ
『マンボウって、海竜の流れが変わっただけで驚いて死ぬってしってた?』
あまりに突拍子のない質問に、私はまた黙りこんでしまった
それでも、彼はめげずにずっと私に話しかけてきてくれた
それからは、毎日がそんな感じだった
放課後二人で本を読み、時間が経つと彼が話しかけてくる
そうやって過ごすうちに、私の中で彼がどんどん大きくなっていった
そんなある日、私は体育の授業をサボって保健室にいた
別段、体が弱いというわけでもないが、団体行動が基本の体育の授業はどうも苦手で、たまにそうして仮病を使って休んでいた
その日は、男子と女子が同じ校庭で授業があり、女子は50m走、男子はサッカーだった
なんとなく窓から校庭をながめていると、よく知った顔を見つけた
『悠吾ー!パス!』
『おう!』
そっか、悠吾っていうんだ‥‥‥そう思っていたら、チームメイトからパスをもらった彼がゴールを決めていた
走り寄ってくる味方に感謝され、肩を叩かれている彼を見た瞬間、今までに感じたことのない絶望を味わった
図書室によく来るから勘違いしていたが、彼は私と違ってクラスでもきっと人気者なのだろう
おそらく友達も大勢いるのだろうし、もしかしたら自分もその多数の中の一人なんじゃ‥‥‥‥
そう思うと、とても悲しくなって、思わず校庭から目をそらした
違和感に目元を拭うと濡れていた
どうやら自分は泣いているようだ
なぜ?
彼にとって自分は特別でも何でもないかもしれないと思ったから?
そう考えると、涙がどんどん溢れて止まらなかった
保健室のベッドに潜って泣きじゃくりながら、私は、自分が彼のことが好きなのだとわかった
放課後になって、私は物凄くそわそわしていた
また今日も彼は来てくれるだろうか
来たらどんな顔をすればいいのか
今日こそちゃんと話せるか
でも、そんな考えも、図書室に入ってきた彼を見た瞬間、体が勝手に動いていた
気づいたら、私は彼に抱きついていた
さっき沢山流したはずなのに、いつの間にかまた泣いていた
そして泣きながら、彼の胸の中で告白した
なんて言ったかは覚えていない
でも確かに、彼に『好き』といった
そして彼もまた、私のことを抱きしめて
『好きだ』と、言ってくれた
「なぁ理央、ゴリラって結構ナイーブって知ってた?」
「へぇー、そうなのか」
今日も彼と変わらない放課後を過ごしている
が、私の頭の中はそれどころではなかった
まだ付き合い始めて一ヶ月経っていないとはいえ、未だ手をつなぐどころか、会話すらまともになりたっていないのだ
今日こそは、彼と1歩前進したい
あわよくば、告白の時のようにぎゅっとしてほしい
どうしよう、どうすれば
さっきからそんなことばかりだった
「理央って、まつげ長いな」
「そうだな」
今適当に返事をしてしまったが、もしかして褒めてくれたのだろうか
すると今度は物凄く視線を感じる
どうやら顔を観察されているようだ
一応、毎日きちんと整えているし、いつでも準備万端にしてある
じ、準備万端っていうのは、その‥‥‥
「何読んでるんだ?」
「っ!‥‥‥伊豆の、踊り子だ」
ボーッと考え事をしていたせいで、急に話しかけられてびっくりしてしまった
と、もしかしたら、これはチャンスかもしれない
思い切って顔を彼に向けて、噛まないようにゆっくりと聞く
「よ、読むか?」
肩から感じる彼の体温は暖かく、とても心地よかった
それと共に、ここまで密着しているということを意識してしまって、先程から緊張してしまっている
文庫サイズの本を二人で読むと、こうなることくらい分かっていたが、やはり実際に体感してみるとなかなかドキドキしてしまう
彼はどうなんだろう?と目をやったら、偶然にもお互い目があってしまった
思わず顔が赤くなる
彼も、少し、赤いようだった
見つめ合ったまま時が流れる
もう5分は見つめ合っていたかもしれない
そして、どちらかともなく、唇が合わさった
「その、あの、すまない‥‥‥」
「え?」
初めてのキスをした後、お互いに寄り添って座っていたら唐突に理央に謝られた
というか、話しかけてきてくれたのはここ最近だと初めてかもしれない
「その、私、今までずっと素っ気ない態度とってたから、もしかたら嫌われちゃうんじゃ、ないかっ、って、お、思ったから、そのッグ、えっと」
と思ったら急に泣きだしてしまった
告白してくれた時も大号泣だったし、理央は意外と泣き虫なのかもしれない
「気にすんな気にすんな!俺だってずっと理央と色んな事したかったのに嫌がられたらどうしようって怖がってたんだし、お互い様だ。それに、今はこうしていられるんだし、別にいいだろ?」
ちょっとふざけて笑い飛ばす
「ふ、ふふ、そうだな、お互い様だ。‥‥‥‥ゆ、ゆ、悠吾‥‥!」
「!」
今、初めて名前を‥‥‥
「ゆ、悠吾、その、わ、私は、悠吾が好きだ。だ、だから、その、ず、ずっと、あの、えっと‥‥‥っ」
また目に涙が溜まってきた彼女を抱きしめた
というか、さっきから彼女にばっかり喋らせて彼氏として格好がつかない
「理央、これからずっと一緒にいてくれ」
「‥‥‥うん!!」
夕日で染まった図書室に、2つの影がそっと重なった
Fin
以上、クール系図書委員娘編でした
普通でしたね
次回は異世界でキャラをデレデレさせたい思います
もし何かご要望があれば感想のページからよろしくお願い致します