1
夜が学園に来て、今日でようやく一週間が経った。
この一週間、様々な出来事があった。
寮の部屋については、夜はもう諦観している。未だに夜の同室者は、夜を迎え入れてくれる気がなさそうなのだから――。
現在はアスの部屋で寝泊まりしている。アスの方から提案してくれたため、比較的気遣わなくて済んでいるが、やはり何日も世話になるわけにはいかない。なんとかしなければと夜は思っていた。
「よーる」
女の声だ。
夜が振り向くと、そこにはキャロルとユノが立っていた。
キャロルは顔に意味深な笑みを浮かべている。
この二人は、夜の転校――ということになっている――初日、フィンとともに夜を庇った二人だ。
「こ、こんにちは」
ユノは俯き気味に挨拶をする。キャロルが言うには、「ユノは人見知りが激しい」ということだった。
「こんにちは」
夜の淡白な物言いに、ユノの肩がビクリと揺れた。それでもその場から離れることはない。
キャロルは全く気にしていないようで、キョロキョロと夜の周囲を見回してから「フィン知らない?」と訊ねた。
「知りません」
何故フィンの居場所を自分に訊くのだろうか――と、夜は嘆息を漏らした。
「そっかぁ。もう、どこ行ったのよ!」
キャロルの長い髪が揺れる。
(フィン……)
夜は、一週間前の翌日を思い出した。
*
「夜、はよ!」
教室に足を踏み入れた夜を、一番最初に迎えたのがフィンの声だった。
一瞬動きを止める。昨日の激しい負のオーラを纏ったフィンとは別人のように思えた。
瞳は宝石のような輝きを取り戻していたし、顔色も良い。
「おはようございます」
あまり感情を込めずに返す。フィンの変化に戸惑っていることを悟られたくはなかった。
結果的に冷たい反応をしてしまったわけだが、フィンは嬉しそうに微笑んでいる。
(別れた後、一体何が……?)
夜は思わず訊きたくなったが、グッと堪える。他人に興味を示すなど、自分らしくない。
その後、フィンからキャロルとユノを紹介され、そのこと――昨日のこと――については触れられないまま時は過ぎてしまい、結局わからず終いとなったのだった。
*
そんなことを思い返していると、夜は背後から強い衝撃を受けた。痛みを感じたわけではないが、不快なのには変わりない。
微かに眉を寄せながら、後ろを振り返る。
「よお、『家名なし』」
そこには、ニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべながら夜を見下ろす少年がいた。
見覚えのない顏に、夜は僅かに首を傾げるだけだ。