6
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アスの部屋――つまり寮監室に戻った夜は、先程まで座っていたソファへ腰を下ろし、黙り込んでいた。
本当にあれで良かったんだろうか。もう一度行くべきではないのか。
何の反応も示さない扉が脳裏を過ぎる。
そもそも、何故フィンとアスは部屋に人がいるとわかったのだろう。本当に、気配も、物音一つさえもしなかったのだ。
夜は目の前にいるであろうアスをチラリと見上げる。――と、こちらを見ていたアスと目が合った。
「!」
夜が黙考している間、アスはずっと夜を見つめていたのだ。
ようやく自分を見てくれたことが嬉しいのか、アスがニコッと笑みを浮かべる。
「なんですか?」
「いや……何も、ない」
たどたどしさを残すアスの話し方は、夜を、子どもと話しているかのような感覚にさせる。
そういえば、アスは性格や雰囲気も幼さを漂わせている。にも関わらず、ふとした拍子に大人っぽさを感じさせることもある。本人は特に意識していないようだが――。
アスの返事により、再び静かな時が訪れた。
壁に掛かる銀の時計の音だけが、リズム良く刻まれていく。
アスの視線は夜から離れてはくれない。
「……あの、」
夜は思い切って訊くことにした。気になっていることの全てを――何故だか、アスは答えてくれるような気がしたのだ。
考えるのは、それからだ。
夜が気持ち唇に力を込めると、アスの笑みが深くなる。
(あ、今……)
雰囲気が変わった。蛹から、蝶へと成長するみたいに、アスは艶やかさを纏わせる。その空気がなんとも形容し難いものなのだ。そして、そういう瞬間が、アスと出会ってから時折夜の前に現れる。
「何……」
口調は変わらないのに、別人のように感じる。
アスの笑顔は、夜が訊こうとしていることを、すでに知っている――とでも言いそうな笑顔だ。
夜は訝しみながら、それでも言葉を続けた。