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liar~嘘吐きな殺戮人形~  作者: まぼ
広がる世界
10/14

 「フィン……?」


 夜にはどうすることもできず、とりあえずフィンの名前を口にする。特に意味はないが、そうすることしか浮かばなかった。

 それでも何度か呼んでいると、フィンが夜の方へ顔を寄せる。やっと聞こえたのかと夜はホッと息を吐く。

 フィンの表情は未だ怒気を含ませているが、先程よりは落ち着いていた。


「……悪い、つい頭に血が昇って」


 バツが悪そうに髪を掻き上げ、夜から視線を逸らす。それでも瞳から陰は消えていない。


「お前の同室者……」

「……?」


 フィンがそこまで言って口ごもる。

(同室者……『ディン』とかいう人のことか)

 夜は扉に彫られていた白い文字を思い出す。


「僕の同室者が何か?」


 フィンの瞳が揺らぐ。その瞳に怒り以外の色が混じった。


「……俺の兄弟、なんだ」


 眉を寄せ、どこか苦しそうな表情でそう口にする。まるで苦虫を噛み潰したような顔だ。


「兄弟……?」


 確かに、『フィン』と『ディン』――響きは似ているが、兄弟ならば何故そんな顔をするのか。


「俺達双子でさ、俺は弟」


 先程までの陰りはどこえやら。フィンは一変して明るく振る舞っている。――が、その声には張りがない。


「あいつ性格悪いんだよ。口も悪いし」


「悪いな」と夜に笑い掛けるフィン。あの様子はそれだけが原因とは思えないが、夜はあえて追究しなかった。


「……夜」


 突然、今の今まで沈黙を守っていたアスが夜に声を掛けた。


「とりあえず……今日は僕の部屋、来て……」


 穏やかな口調にも関わらず、アスの言葉には有無を言わさぬ圧力があった。

 夜はしばらく考え込んでから、小さく頷く。

 横目でフィンを見遣るが、フィンはこちらを見ておらず、気付くこともなかった。ただ、床をボーっと眺めている。

 『ディン』との間によほどのことがあったのだろうか。確執をつくってしまう何かが……。

 最初に会った明るいフィンは本物だった。今のフィンも本物だ。では、ここまでフィンを変えてしまう原因は何なのだろう。

 そうは思うものの、しかし夜には、自分がそこまで考える理由が見つからず、考えることを放棄した。




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