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第80話 王者の拳


 チャンピオン戦が始まり、攻撃を仕掛けるタケミ。ところが攻撃を繰り出したタケミの方が倒れてしまうという事態に。会場は騒然としていた。


「まだまだッ!」

タケミは立ち上がり即座に攻撃を放ち続ける。


(ここだっ!)

攻撃を放つタケミ、しかしその直後にまた彼はダメージを負い膝をつく。


(多分一撃、それだけでこんなに効くのか)


「おれの攻撃に合わせて攻撃してるのか……」

「おお!分かったか」

嬉しそうに言うプロエ。




「攻撃に攻撃を合わせる?」

「カウンターという技術です」

フォルサイトが説明する。


「この技の素晴らしい所は、自分の攻撃に相手の攻撃力を上乗せできるところです」

「つまりタケミの特長である破壊力があだになっているという事ですか」

彼女の話を聞いてクレイピオスがそう言う。


「そうですね」

「つーか二人とも前戦ったことあるじゃんプロエと」

マリスの言葉にビクッと反応するクレイピオスとアスタム。


「っぐ……」

「あの時は……二人がかりで行って気づいたら倒れてましたから」

二人はうつむく。


「そんな強力な攻撃、なのに魔力の前兆みたいなのが全然ない」

ユイが言う通り、普通であれば魔法でなくても攻撃の際には何かしら魔力のゆらぎなどの前兆がある、しかしプロエにはそれがない。


「タケミは元々魔力感知ができないが、できたとしても意味ないけど。気付いたら殴られてた、それも自分の攻撃の破壊力上乗せで」


「彼の拳、本当避けるの大変なんですよね」

マリスとフォルサイトも彼の強さを評価しているようだ。



「私のカウンターを見破るとは素晴らしい、あのフォルサイト様やバアル・ゼブル様ぐらいだ」

拍手するプロエ。


(分かった所で見えねぇけど。それ抜きでもあの拳はヤバいっつーのに)

立ち上がるタケミ。


「そろそろ私からも行こうかッ!」

今度はプロエから攻撃を仕掛ける。


「ッ!」

プロエの攻撃を大きく飛び退いて避けるタケミ。


『王者プロエ!ここに来て一転攻めの姿勢だ!』


「素早いが少し大袈裟だな!」

タケミを更に追いかけるプロエ。


「移動もはえぇ!」

プロエの放つ攻撃を両腕でブロックするタケミ。


「くそッ!」

彼は再び大きく跳び退く。


 その際プロエの放った一撃が壁に当たる。彼が拳を引き戻すと壁に、ちょうど拳サイズ真円の穴が開いていた。


『何ということだ!王者プロエの放った一撃で壁に綺麗な穴が出来ている!』


「そうそれ!すげぇ鋭いパンチだ。どうやってんだ?」

壁に空いた穴をみて笑みを浮かべるタケミ。


「鍛錬された力は無駄な破壊をしない」

プロエは構える。



「なにあれ?!」

ユイが壁に空いた穴をみて驚く。


「流石のヤツもプロエ相手では厳しいか」

観客席にバアルが現れる。


「あ、バアル様!」

「わーい!なんですかこれ?」

「土産だ」

マリスとクレイピオスにバアルが何かを渡す。


「ドネル・ケバブサンドというらしい」

「うーん、やはり美味しそうですねこれ」

フォルサイトがケバブサンドを受け取りそう言った。


「あれ、あなたは」

「どうも」

カシンがユイにお辞儀をする。


「少し仕事を頼んでいてな。その礼にここで観戦でもどうだと提案したのだ」

バアルが席に座る。


「プロエの強さはもう見れたか?」

「あのタケミが一方的にやられるなんて。それも同じ素手の相手に」

ユイの発言に頷くバアル。


「当然だ、プロエはカヅチ・タケミの最も苦戦を強いられるタイプの1人だ」

「え?だって相手はタケミと同じ素手なのに?」


「むしろそこが一番のポイントだ。確かにカヅチ・タケミの近接戦闘能力は評価せざるをえない、ヤツの一撃は破壊力抜群で派手だ。しかしあの壁をみろ」

バアルは穴の開いた壁を指さす。


「プロエの拳は鋭く、コンパクトだ、無駄がない。あれほど素手で対象を撲殺するのに適した拳はないだろう」

ユイの方を向くバアル。


「同じ素手だと言ったなイトウ・ユイ。それはつまり戦う領域が全く同じという事だ。そこで勝敗を決めるのはお互いの肉体強度、そして技術だ」


「肉体強度に関してはタケミに軍配が上がる、しかしそれは若干の差だ。そして技術、奴はこの闘技場で何十年も素手で闘い続けて来た。今回は武器や鎧の持ち込みは禁止だったが、最近までは武器や猛獣などとも戦っていた。少し過激すぎるという声が多かったので中止になったがな。そんな戦いを素手で生き抜いて来た奴だ、年数が全てではないが重要な数字である事は間違いない」


「で、でもタケミの身体は闘いの中で強くなる!それがあれば……!」


「おや?なんだ身近にいると変化に気づきにくいものなのだな」

片眉を挙げてそう話すバアル。


「え……?」




(この人との闘い方が分からねぇ!こんなのは初めてだ!)


「随分と嬉しそうな顔をするじゃないか」

「え?そうか?真剣な顔してたつもりだったけど」

タケミは自分の顔を触る。


「まるで見たこと無いおもちゃを目の前にした子どものような顔をしていたぞ」

そういうプロエも笑っていた。


「ははは、そうだったかッ!」

赤鬼の出力を引き上げ、勢いよく飛び出すタケミ。だがやはり反撃を受けてしまう。


(どうする、今の状況であれを使った所で意味がない。反撃の威力を上げるだけ)

「あれ、そう言えばさっきの一撃……」

タケミが立ち上がり再び構えると同時にゴングがなった。


『おーっとここで時間がやってきました!1ラウンド終了です!両者ともセコンドの元に戻ってください!1分のインターバルを挟みます!いやー、王者プロエの攻撃は凄まじいですね!それを受けても尚立ち上がる挑戦者タケミ!素晴らしい1ラウンドでした!』



「タケミ!座って休むんだ!ほら水」

「サンキュー、ふぅ、効くなぁチャンピオンの拳」

ネラの元に戻るタケミ、彼女は椅子を出してタケミを座らせる。


「よく戻ってこれたな、次はもう少し相手の様子をみろ。無闇に攻撃しても反撃貰うだけだ」

水を飲むタケミに注意するネラ。


「反撃なんだけどさ、さっきから食らって1つわかった。普段の攻撃も早いがもっと早くなる時がある……」

「なに?」

息を整えてタケミが話す。


「おれが勢いよく飛び込んだ時は必ず速いのが飛んでくる。多分勢いを止める為なんだろうけどさ、それがマジで速いんだ。本当に見えなくてよ」


「まだ力を温存してるって事か」

「かもな」

プロエから視線を外さないタケミ。



「ふぅー1ラウンドもう終わりか」


「お前にしてはかなり飛ばしてたな。このラウンドで決着つける気なのかと思ったぞ、いつもは2ラウンドは持たせるのに」

席に座るプロエに水を渡し、汗を拭くダマト。


「あんなタフなヤツは初めてだ。殴った時の感触をあんたにも教えてやりたいよ。下手なパンチをすればこちらの腕が駄目になりそうな身体だ」


「だがそんな相手をお前は寄せ付けなかった」

ダマトがそう言うとプロエは頭を横に振る。


「そうみえたかい?必死さ、彼の領域から逃げるのに。ラウンドの終盤、ヤツは攻撃を立て続けに仕掛けてきた。反撃を受け、倒れそうになりながらもな」


「ああ、いくらタフといってもあれだけ喰らえば相当なダメージがあるはずだ」


「だと思う。しかし彼はそんなダメージを負いながらしっかりと私の動きを見ていたよ。何か突破口が無いか探している、彼の闘争心はちっとも揺らいでいないよ。これは次のラウンドで倒すのは難しいな」

ふぅーと息を長く吐くプロエ。



『さあ!インターバル終了です!』


「分かったな!このラウンドは身体を休ませるんだぞ!」

ネラが立ち上がるタケミにそう指示する。


「できたらするよ」

「お前な!」


(こいつも魔神軍、それならクレイピオスみたいに部分的に魔力解放してんのか?あの特別早いパンチはそう言う事か?)

両者が中央に立つ。


『第二ラウンド開始ッ!!』


「あんた、手加減してるのか」

開始早々タケミがプロエにそう言った。


「ん?なんの話だ」

「魔力解放をちまちま使ってるんだろ?どうせならドーンと使っちまえよ」

タケミがそう言うと頷くプロエ、何のことを言われているのか分かったようだ。


「そういう事か。誤解だよ、私は魔力解放を使えない」

「え?そうなのか魔神軍なのに?」

笑うプロエ。


「痛いところを突かれたな、魔神軍でも魔力解放を使えない者はいるよ、寧ろそっちの方が多い」


「そっか、ソウトゥースもそうだったな」

「おー!ソウトゥースか!君が倒したんだったな、彼も強かった」

プロエはソウトゥースとも面識があるようだ。確かにソウトゥースの性格的を考えれば、プロエと闘っていてもおかしくはない。


「私は魔神族と人間の混血でね。外見は人間と変わらないだろ?魔力も他の魔神族程強くはない。だから魔力解放をするまでもないんだ、あれはあくまで平常時に周囲環境への配慮として使われているものだからな」


「へー、そうなんだ」

プロエの説明を聞いて納得するタケミ。


「君はきっと私の攻撃に関しての秘密を探っているんだろ?ヒントは熱だ」

「熱……まさか!」

タケミはハッと気づく。


「最初見た時は驚いた。同じ状態になれるものが現れるなんてね」

「赤鬼?!」


「そう、君は赤鬼と呼んでいたね。血流量を増やし、全身に更なるエネルギーを供給させて身体能力を強化する。少し私とは使い方が違うが」


「ぐッ!」

プロエの攻撃で後ろに押し出されるタケミ。


「攻撃する一瞬だけ発動してんのか……すげぇな。さっきからやってるマジで見えないパンチはこれか」

「これを覚えてもうかれこれ20年以上は経つからね。結構慣れたよ」


「20年か……大先輩だなッ!!」

タケミは赤鬼を発動し攻撃を仕掛ける。


(まだ目には冷静さがある。しかしもう1つの感情があるな)


「ーーー!」

反撃を受けて倒れそうになるもタケミは引かずに攻撃を放つ。


(わかるよ、私も同じ経験をした。そこまで鍛えてこんだ肉体だ、その身に起きている変化は良く分かってしまう。この場合は起きていないと言った方が正しいか)


「そんな……」

この時、ユイはバアルの言葉を聞いて固まっていた。ユイは闘技場で闘うタケミに目をむける。


「タケミの身体はもうこれ以上強くならない……?」



ここまで読んで頂きありがとうございました!

今後も投稿していこうと思うので評価、コメントなどして頂ければ励みになります!

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