第70話 僥倖の大領主カテナ・ベラード
カジノの側に併設された事務所。
「カーッカッカッカ!今日もたんまり稼げているぞ。面白いもんだ、どう考えても胴元の俺らが儲かる仕組みなのに、人はそこに賭けたくなるんだからな。そんな馬鹿どもがいてくれるからうちは大儲け!カテナ・ベラード様にもいい顔できる!」
その事務所に美男美女達を両脇に抱え、高笑いする男がいた。
彼がベスガにあるカジノのオーナー。名前はチープコイン。
そんな高笑いしているチープコインの元にネラが扉を蹴り開け現れる。
「失礼しまーす」
「な、なんだお前!」
ビックリして持っていたワインを服にこぼしてしまうチープコイン。
「お前んとこのディーラーをちょっと借りてるぜ、タケミ」
「も、申し訳ありません……」
ネラが後ろを指さすとトリッカーが弱々しくそう言いながら現れる。
タケミに頭を掴まれ引きずられている状態のトリッカー、小綺麗だったらディーラーの服はボロボロで本人も傷だらけの有様だった。
「な、なにをしているトリッカー!!お前の重力を操る魔法はあのレクス・マリスにすら勝ると豪語していたではないか!!」
トリッカーを見て慌てて立ち上がるチープコイン。
「あれで?ハッタリも良いところだね、あなた達の用語でブラフだっけ?」
ユイは鼻で笑ってトリッカーを見下ろした。
「あんたがこのカジノのオーナーか」
ネラがテーブルを挟んでチープコインと向き合う。
「こいつがさぁ、イカサマをしてな」
「イカサマなど……当店でそのような事は一切ない!」
そう否定するチープコイン。
するとネラがテーブルの上に片足を乗せ、ゆっくりと上に置かれていたものを落としていく。そしてチープコインの周りにいた美男美女に外に出るよう伝える。
その場から全員が出るのを見てネラは再び話始める。
「あっそう。これからちょっと私達から頼みごとをするんだが、その前にコイツの腕にちょっと落書きしてやろうと思ってな。ちょっとそこで座って待ってろ」
「え!?」
彼女が何を言っているのか理解できていないチープコイン。
「タケミ、ここに押さえつけといて。腕を特にな」
「あいよ」
タケミがテーブルにトリッカーを乗せ、腕を固定するように押さえつけた。
「ほら、これ噛んでおけ、めっちゃ痛くするからさ」
ネラがトリッカーに床に落ちていたナプキンを噛ませる。
「ユイ、鎌ちょうだい」
「はい」
ユイから貰った鎌を持つネラ、それを見てトリッカーが暴れはじめる。
当然タケミに押さえつけられているので逃げられる訳もない。
「おい動くんじゃねぇよ、危ねぇだろうが。腕切り落としちまうぞ」
鎌の先端を少し相手の腕に食い込ませるネラ。
「何が良いかな、なぁなんか案くれよ」
「あー、”俺はイカサマをしました”とか?」
「俺はイカサマディーラーです とかが分かり易いんじゃない?」
「おーそれだ、それにしよう」
そう言ってネラは文字を相手の腕になるべく大きく、そして深く刻み込んだ。
「さて……お前にはなんて書いてやろうかな?」
ネラは痛みで気絶したトリッカーをテーブル上から脚でどかし、チープコインに話しかける。
「わ、分かった!な、なにが望みだ、魔石か?」
「うーん惜しいな。お前んとこの闘技大会、あれの出場権を寄こしな」
「そ、そんな事なら渡す!欲しい分を言ってくれ」
チープコインは怯えながらそう答える。
「よし、それとここの闇市について聞きたいんだが」
「ッ!」
闇市というワードを聞いてチープコインの表情が変わる。
「その顔は知ってるって事だな」
「正確には把握してない、俺の管轄じゃないからな」
「本当か?言いたい事はそれだけ?」
首を振るチープコインにネラは鎌を向ける。
「や、やめろ!でかい取引がこの前あった!中身は見てないが、荷物は細心の注意を払って運べと、運んだ連中の話じゃクスリとかが見えたって。本当にこれぐらいしか知らないんだ!」
「じゃあこれはなんだ?」
ネラはタケミから闘技大会の紙を貰い、それをみせる。
「この腕輪の出所は?私達の知り合いが似たような物持っててな。だがアイツが物盗まれるようなヘマするように思えねぇしさ」
「それは俺にも分からない。カテナ・ベラード様がそれを大会の目玉景品にと、ある日突然……」
「ふーんそうか……」
首を横に振ってこたえるチープコイン、どうやらウソはついていないようだ。
「なあもう話しただろ、もういい加減勘弁してくれ!」
「そうだな、聞きたい話は聞けた。まあお前ら殺した所でなんにもなんねぇか」
「はぁ、ありがとう……」
安堵するチープコイン。
「でもお前らを生かしておく理由もこっちには無い訳か」
ネラがチープコインの首に鎌を突きつける。
「……ッ!!」
「……ふふ、冗談だよ、冗談。情報どうも、行くぞー」
笑いながら鎌の刃が無い部分で相手の顔をペチペチと叩くネラ。
彼女は鎌を仕舞い、部屋を出ていく。
「もうイカサマすんなよー」
「じゃあねー」
タケミとユイも部屋を出て行った。
ここはベスガにある一番大きく、そしてラグジュアリーなホテル。
これほど高層な建物はこの世界には他になく、ベスガのシンボルとも言える場所だ。
その最上階はある男の為のフロアになっていた。
最上階フロア、その真ん中にある玉座に座る男こそがこの領地を統治している魔神軍大領主、カテナ・ベラードである。
立ち上がれば5メートル以上にもなる体をした彼が使うフロアは、他の客室があるフロアの7階分をぶち抜いて建築されている。
「カテナ・ベラード様、お客様がいらっしゃいました」
「通せ」
そういって、果物を鷲掴みしてそれを頬張るカテナ・ベラード。
「大領主カテナ・ベラード殿、この度はどうも」
部屋にはドレスを着た女性が入って来た。
「うむ、挨拶は抜きにして約束の品は?」
「こちらに」
その者が指を鳴らすと箱がどこからともなく現れる。
「ほお、これが……」
「エリクサーでございます。それとこちらも」
もう一つの箱を出すドレス姿の女性。
「本当に使えるのか?」
「ええ勿論、では少しデモンストレーションを。そこのお方、魔法はお使いに?」
女性は近くにいた兵士に話しかける。
「いえ、自分は魔法は全くでして」
「素晴らしい、ではこちらの腕輪をはめて。そう、そして頭の中で腕から水を出すのをイメージして」
兵士は言われた通りに目を閉じてイメージしてみる。
「……こうでしょうか、ってうわっ!!」
兵士の手の先から勢いよく水が放たれる。
「ほお」
「これでよろしいですか」
関心するカテナ・ベラードに振り向く女性。
「おい、魔石をもってこい」
彼の部下が魔石が詰まった大きな箱を持ってくる。
「確認しました、ありがとうございます。エリクサーの残りは既に納品しておりますので、もし何かあればまたお知らせください」
カテナ・ベラードを見上げてそう告げ、その場を去ろうとする女性。
「分かった。そうだ、どうかな一杯一緒に」
「私がここに長居しないのはお互いの為になるかと」
「ふん、それもそうか。折角の女神様と飲める機会かと思ったが」
「それでは失礼します」
女神はそう言うと部屋を出て行った。
「お高くまとまりおって、寄生する虫けらが」
「なぜあのような連中と取引を?」
彼の部下の1人が質問をする。
「決まっているだろう、連中は虫けらの中でも使える部類だからだ。この薬と腕輪、これが俺様に最強の軍団を生み出してくれる」
床に置かれた箱を見るカテナ・ベラード。
「バアル・ゼブルは少数精鋭だった。ムカつくが確かに奴の兵はどれも強者ぞろい。しかし、そんな奴ももう魔神軍ではない。やはりこれからは数だ!大量に強力な兵士を生み出す!この薬と腕輪をもっと量産すれば、高い魔力を持ち魔法を操れる優秀な兵士がどんどん作り出せる!大量生産の時代だ!」
そう言うとカテナ・ベラードは高笑いをする。
「そのためにもこの闘技大会でもしっかり稼がんとな。プロエはどこだ」
「恐らく闘技場の周辺で、また散策でもされているかと」
すると部屋に一人の男が飛び込んで来た。
「カテナ・ベラード様!!」
先ほどネラに脅されて縮み上がっていたチープコインだ。
「チープコイン、どうした?そんな慌てて、まだ仕事の時間だろう」
「闘技大会に関係する問題が……」
チープコインから報告を受けるカテナ・ベラード。
「なるほど、赤髪と黒髪の女二人に男が一人。赤髪はユイ、黒髪は鎌を持ち、男はタケミか」
「うちのディーラー長がなすすべなく……!恐らくあの大領主バアル・ゼブル様達が戦ったという者たちかと」
頷くカテナ・ベラード
「間違いないだろうな。それで?お前はのこのことそいつらに良いようにやられたという事か……」
「ッ!も、もうしわけありま……」
チープコインの頭上から巨大な鉄球が叩きつけられた。
「役立たずが。だが俺様はそれに怒った訳ではない、貴様がバアル・ゼブルに様づけをしたのが許せん。貴様らが様をつけて呼ぶのはこの俺だけで良いといつも言っているだろうが」
血がべっとりとついた鉄球、それにつけられた鎖を引き手元に戻すカテナベラード。
「連中はどういたしましょうか。カテナ・ベラード様」
「連中は大会に出るのだろう?ならばそこで倒せばいい。アイツがやってくれる」
「確かに、我々にはあの方がいますからね」
「プロエ、最強の拳闘王。アイツがいる限りうちは安泰だ」
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