第60話 スライム女帝様と化物
ユイとネラを人質に取られてしまうタケミ。
「あん?こいつら毒でやられてる癖にいっちょ前に捕食に対しての防御魔法を使ってやがる。まあいい、その気になればすぐに食破れる」
グラトニーナは二人を持ち上げてそう言う。
「テメェッ!」
「動くな!!」
歯を食いしばりながらも、タケミはその場で止まるしかなかった。
「プフフフッ!お前はそこで仲間が喰われていくのを見てな。こいつらはじっくりと苦しむように喰ってやらねぇとな、まずは皮膚から、その次は筋肉を少しずつ……」
「やめろっ!!テメェの相手はおれだろ!」
タケミの発言に対してグラトニーナが笑う。
「プフフフッ!はぁー?何言ってんだ?そう言えばガツもそんなのが好きだったな、一対一だのなんだの、くだらねぇ。僕はこの飢えを満たしたい、それが出来れば手段なんて関係ない。僕の嫌いなアイツもそうだテーブルマナーだの、感謝だの!くだらねぇ、腹満たせりゃあそれで良いんだよ!」
そう叫んだグラトニーナの胸から、突然刀が突き出す。
「ガ…!?なんだこの剣は!魔石から出て?!」
6本の刀がグラトニーナの身体を切り裂く。
これによってユイとネラが解放される。
「なんだ?!」
タケミが驚いていると彼の目の前にユイとネラを抱えた者が現れる。
彼の元にタケミが駆け寄りユイとネラを受け取り、道の端にゆっくりと寝かせる。
「誰か……はよく知らないけど助かった!」
グラトニーナが取り込んだ魔石から突如現れたその者は武者のような姿をし、2本の刀を腰にさしていた。
武者はタケミの側に行き、彼の右腕に手を掲げる。
すると武者の腕から光が放たれ、タケミの右腕に流れていく。
「これは……」
武者の顔を見るタケミ、二人は互いを見合って頷く。
駆け出す武者、彼の背中から光る腕が4本出現する。
「よくも僕の身体を斬ったな!!」
グラトニーナが身体を変形させ攻撃を仕掛ける。
武者は流れるような動きでグラトニーナの身体を斬り進む。
そして彼女の懐に飛び込み斬り上げる。
「ブァ!?」
彼女が体内に取り込んだ魔石が外に出てくる。
武者の後方で飛び上がったタケミは光を帯びている拳を構えた。
するとどこからかともなく炎が現れ、まるでとぐろを巻く龍が如く腕に巻き付く。
タケミは赤鬼を発動。
これに呼応するように炎が一層、その輝きを増す。
「行くぜッッ!!」
豪炎を纏ったタケミの拳が魔石に叩き込まれた。
魔石は黒と紫の光を放って砕ける。
「て、テメェ!!何てことを!!」
取り乱すグラトニーナ。
砕けた魔石をみて武者は刀を鞘に納める。
すると彼の身体が徐々に光と共に消えていく。
「お、おい!あんた名前は!おれはタケミ!」
「フツノ」
武者フツノは天へと上っていく。
「さらばだタケミ、やはり君がこの世界に来て良かった。師を……我が師であるあのお方を頼んだ、」
最後の言葉をタケミに言い残し、彼は消えた。
「なんだったんだぁ?アイツは!僕の邪魔をしやがって!」
身体をもとに戻すグラトニーナ。
「テメェら劣等種がいくらあがいたところでもう遅い!魔石が砕かれたが、それがなんだってんだ!散らばった石を集めちまえば良いだけだ!何も変わらない!」
グラトニーナはタケミの方を見る。
「だが僕の邪魔したことは許さないぞ!」
「許さねぇだ?それはこっちのセリフだ」
空を見上げていたタケミがグラトニーナの方を向く。
「おれが戦ってた相手は食っちまうし。動けもしねぇアイツラに手を出すし。お前の言動は何から何までムカついてくる」
タケミは身体から立ち昇る蒸気の色が変わり始める。
「だが、お前に対する怒りで分かった事がある」
「さっきからベラベラとッ!!うるせえぞ!クソ劣等種がッ!!」
タケミに向かって触手を伸ばす。
「ッ……!???」
しかしその触手は破裂音と共に飛び散った。
(あれ……??なんでだ?なんで伸ばした腕がこうなってんだ?あれ、戻らねぇ、戻らねぇッ、戻らねぇッ!!?)
再生しない腕に慌てるグラトニーナ。
(魔力核が潰された??!ただのパンチ一発で??それになんだアイツのあの体)
ビシビシッと何かがひび割れた音が聞こえる。
戻らない腕から正面に視線を戻すグラトニーナ。
タケミがゆっくりと彼女に向かって歩いてくる。
(え?なんかさっきよりもデカくなってねぇか?)
タケミの皮膚に亀裂が全身にわたって広がり、その亀裂からは濃い赤い煙が立ち込めていた。
あまりに異様な彼の見た目に動揺するグラトニーナ。
「おめぇらの身体ってよ、強い圧力とかに弱いんだろ?体をグネグネさせて、正直最初は攻撃が全然通じてる感じがしなかったけどよ。プチプチしてる梱包材と一緒だ、ああ、この世界には無いのかな。継続的かつ広い面で受ける衝撃には強いけど一気に狭い範囲で圧力をかけられると破裂しちまう」
飛び散ったグラトニーナ身体を見てタケミはそう言った。
「にしてもおれは知らない内に自分にブレーキをかけてたみたいでよ、出したい力が出せなかった。でもその1つをお前に対する怒りで外す事ができたぜ」
「い、イラついてるのはこっちも同じだ!」
グラトニーナはタケミに攻撃を仕掛ける。
タケミは正面から来た攻撃を回避する。
(かかった!)
背後から液体が襲いタケミの右拳を捕らえた。
「バカめ!てめぇの周りには魔石を集めるために広げた僕の身体がまだ残ってるんだぞ!これでその拳は使えない!終わりだァ!!」
グラトニーナは身体を変化させタケミの頭部を襲う。
攻撃はタケミの左半分の顔に命中。
「プハハハハ!テメェの顔半分喰ってやったぞ!それにお前の右拳も完全に喰った!ざまぁみろ!」
この一連の攻撃によりタケミは右拳を完全に失い、顔の半分の皮膚が無くなった。顔半分の筋肉や骨が露出していた。
「お前は終わりだ!跪いて僕に命乞いでもしてみろ!その醜いツラでよぉッ!」
勝ち誇ったグラトニーナ。
しかし、タケミの目の鋭さは変わらなかった。
「ぶばァッ!?」
胴体の一部が弾け散る。
「な、なに……ヒィッ!」
この時タケミの皮膚は黒く変色しており、亀裂から立ち昇る赤い煙がより一層際立って見えた。
「顔?拳?それがどうした」
半分皮膚のない顔で話すタケミ、残る顔の皮膚も黒く変色し赤い亀裂が走っている。
「こっちは命賭けてんだ!ろくに覚悟もねぇやつが邪魔すんじゃねぇッッ!」
「ば、化け物……!!」
もはや人と呼ぶには余りにも恐ろしいタケミの姿にグラトニーナは酷く怯えた。
(逃げよう!そうだ、逃げるんだ!ああでも魔石がまだ消化しきれてねぇ。身体が重い!どうすりゃいいんだ)
かき集めた魔石の消化を待っている余裕などもない、彼女は必死で逃げる方法を考えた。
(そうだ!こいつの馬鹿力で遠くまで飛ばして貰おう、それなら体が重くても関係ない。どうせなら飛んだと同時にあの死神と魔法使いの身体も貰っちまおう!)
「そんなに殴りたいんなら殴らせてやるよ!!ほら来いよ!!」
グラトニーナは吹き飛びやすくなるように引き延ばした体を元に戻し人型になる。
(まあコイツは大した魔力も無いし肉だけだからな。この強さはそそられるがそれも後で食事を終わらせた後にまた喰っちまえば良い)
ニヤニヤと笑みを浮かべる。
「根性あるじゃねぇか、思ってたより軟弱じゃねぇみたいだな」
「ああ、なんせ僕は女帝だからな!」
(ちっ!いちいちムカつくなコイツ!そうだ!コイツの仲間を喰ったらそいつらの見た目になって出てきてやろう。こいつ嫌がるだろうなぁ!プフフフっ楽しみだ)
タケミが構えるに対してグラトニーナは内心苛立ちながらも殴られるのを待っていた。
「さあ、思いっきりぶん殴ってみろ!どうせ無駄だからな!」
「言われなくてもやってやるよッッ!!」
拳が放たれると同時にジャンプするグラトニーナ。
(プフフフッ、お前は僕の逃走を手助けするんだ!あの死神と同じように!)
タケミの拳の威力でそのまま遠くに吹き飛んで逃亡成功、の筈だった。
「……あれっ?!あれっ??!」
だが何故か彼女は空中に停止したままだった。
「ーーーーッ!!!」
タケミは雄たけびをあげ、次の拳を放つ。
まただ、しっかり当たっている筈なのに体は吹き飛ばない。
(な、なんで?!僕は吹き飛ばないんだ?!)
グラトニーナが混乱していると、次の拳が飛んで来る。
打ち込まれた瞬間は体は動くが、すぐに背後からの衝撃で元の場所に戻ってしまう。
まるで壁に跳ね返ったみたいだ。
(なんだ?!後ろに壁なんてなかったよな?!)
なぜグラトニーナは吹っ飛ぶことができないのか。
原因は空気だった。
物体は加速しその速度が音速に到達したとき、物体は空気の壁に衝突する。普段はあって無いような空気、それが急に壁となって現れるのだ。
グラトニーナはタケミに殴られた瞬間に加速し空気の壁に衝突、その反動でまたタケミに向かって跳ね返る。
今彼女はタケミと空気からの挟撃を受けているのだ。
壁を打ち破る程に鋭い形状になるべきだがそれも叶わないだろう、なんせ彼女はスライム族だ、殴られる度に広がってしまう。
「な、なんだ!?こんな筈ねぇのに。僕は吹き飛んでこの場所から脱出するのに!なんで!?」
一撃が当たるとその度に彼女の核が破壊されていく。
(ちくしょおォッ!僕に指図してきた家族だって喰ってやった、他の連中は、僕以外は全て僕の餌なんだ!この世界は僕の餌場なんだ!!それなのに!!)
タケミの怒涛の連撃によって全身の魔力核が潰されていく。
「ヤメロォッ!!死んじまう!ヤメテくれェェェッ!!」
彼女は叫ぶがタケミには届かない、届くはずがない。
そして最後の核が破壊されるグラトニーナ。
「ぼ、僕が……グラトニーナ・レッカーマウル様が、こんな劣等種にぃ」
グラトニーナはその言葉を最後に崩壊する。
「お前がビビりで助かったぜ、女帝様」
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