第56話 最初の街へ
ユキチカが最初に訪れた街、流れ者達が最後に行き着く名もなき街。
その街の中には無数の身体が転がっていた。
「食いごたえなさそうだから全員殺しといた。ガツ、これで良いよな」
「まあ、ここの連中はみるからにちゃんと食えて無さそうな連中ばかりだ。ジャンキーな奴らも多いしな」
若い女性の風貌をしたネリアと青年の風貌をしたガツが転がっている身体を見て話している。
「あの山だ、連中が言うにはあの山頂にあるって話だ。ようやく、これでようやく僕は真の女帝になれる!」
この者達のリーダーであるグラトニーナーが不敵な笑みを浮かべた。
するとフラフラと歩く何者かが彼らの元に現れる。
「おい、生き残りがいるじゃねぇか。ちゃんと街を見て回ったのか?グロト」
「うるせぇネリア、おれは見回り係じゃねぇよ」
それは黒い布を目元に巻き付けた老人、ダイゲンであった。
「なんだい、全く久しぶりにここで酒飲んで気持ちよく寝てたのよ。みんなやられちまってるじゃねぇか」
「見落としてても後始末ちゃんとすれば良いんだろ?」
グロトにそう言われるとダイゲンは笑う。
「ハッハッハ!後始末ってもしかしてオイラをかい?面白いこと言うねぇ。そうだ、この街をこんなにしたのはアンタらかい?あの酒場を潰したのは誰だ?」
「俺だ」
サーフィが答える。
「何さっきから話してんだこのジジィ。うるさいから殺しちゃおうよ」
ネリアがダイゲンの前に立つ。
「テメェらにオイラは殺せねぇよ」
「なんだと?」
ネリアは腕を液体化させる。
すると突然、彼女は炎に包まれた。
「うお!なんだこの炎!クソっ!」
液体化させた腕を振り回して炎を散らすネリア。
「だれだ私を燃やした奴は!」
ネリアが振り向くと、崩れた建物の上にユイが立っていた。
「おお!ダイゲンさんではありませんか!これは偶然ですね!!」
「街はダメだったか」
ユイの後ろからウェルズやネラが現れた。
「おん?なんだ?また別のが来たぞ?」
ガツがネラ達を見上げて指さす。
「勇者か?すげー魔力なのが2人いるぞ。つーかネリア、お前燃やされるとかだっせーな!アハハ!」
「はぁ!?うっさいグロト!不意打ち食らっただけなんですけど!」
「はぁい隙あり」
言い争ってる2人にユイは雷を落とした。
「グアアア!?」
「ギイイイ!?」
「だっせー」
ユイはそういってペロッと舌を出して見せ、その場から走り去って行く。
「あの女……!!」
「ブッ殺す!」
完全に怒ったグロトとネリアはユイを追いかける。
「おい、ガツ、サーフィ。あのバカ二人を追いかけろ。僕は先に行くぞ」
「……あいよ」
「まったく」
グラトニーナーに命令され、サーフィとガツが追いかけようとするとタケミが二人の前に立ちふさがり、地面をぶっ叩いた。
二人は別々の方向に飛ぶ。
「おい、お前の相手はおれだ」
「へぇ、勇者でもなければ魔神軍でもない。何者だお前?」
「カヅチ・タケミだ」
「そうか、俺はガツだ」
タケミとガツは互いを見合って構えた。
「行け!」
それを聞いたネラはタケミを飛び越えて先に進む。
「くそっ!足止めも出来ねぇのかお前らは!!」
グラトニーナーがネラから逃げるように走りだす。
「まてッ!!!」
ネラがグラトニーナーを追いかけ走っていく。
「狙いはそっちか!」
サーフィがネラを追いかけようとすると、その前にダイゲンが現れ道を遮った。
「おっと、ごめんよ。邪魔しちまいやしたか?」
「ああ、邪魔だな、どいてくれないか?」
ダイゲンは笑う。
「そりゃあすみません。ほら、オイラこの通り見えないもんで」
杖で目元に巻き付けた黒い布をトントンと叩くダイゲン。
「目も見えないような奴が出しゃばるんじゃねぇっ!」
サーフィは体を変形させてダイゲンに攻撃をしかける。
ダイゲンはそれをひらりひらりと躱していく。
攻撃を躱しながらダイゲンは少しずつタケミ達からサーフィを引き離していった。
街の外れの所に来るとダイゲンは背中を向けたまま立ち止まる。
「この俺を誘い出したつもりか?貴様なんて一瞬で殺してやる」
「同じ年寄り同士仲良くどうだい?酒でも」
背中を向けたまま酒を取り出すダイゲン。
「あいにくそんな暇じゃないんでなッ!」
サーフィは腕を液体化させダイゲンを襲う。
しかし腕を伸ばした先にダイゲンの姿はなかった。
「そうかい残念だな。あんたが酔った所で斬ってやろうと思ったのに。んぐっんぐっはぁー、確かにここのは安酒でよ、すぐ酔っぱらっちまうが、なんつーか故郷の味ってーのかね。また飲みたくなるんだよ」
彼はサーフィの背後で酒を呑んでいた。
「斬る?ハッハッハ!その杖に剣を仕込んでるのか!そんなもんで俺らがどうにかなるとでも!?」
サーフィは振り向きざまに攻撃を放つ。
酒を飲みながらそれを躱すダイゲン。
「…ッ!なんだと!?」
ダイゲンの横を通り過ぎた腕、その先端から急に細切れになって分散していく。
(この斬り口、刀のものだ。それなのに奴が斬る所が全く見えない)
斬られた腕を見てサーフィは驚きを隠せないようだ。
「まるで餅みてぇになるんだな。お前ら"すらいむ"って連中か?こりゃまた珍しい奴が現れたもんだ」
「俺たちを珍獣のように言うな!!劣等種が!」
もう片方の腕を液体化させて放つ。
「ッグ!」
しかしそれもダイゲンの側迄いくと切り落とされてしまう。
「クソッ!だが腕を斬られた所で俺たちには関係ない!」
そう言って身体の一部を液体化させ腕を作るサーフィ。
「お前さん、あのすらいむの中で年長者みたいだが、なんであんな小娘に良いように使われてんだ?」
「なんだと?」
ダイゲンの言葉にピクリと反応するサーフィ。
「目で見なくても分かるぜ、お前さんがあのガキんちょにビビリ倒してるのがな」
「黙れ!」
「おっと図星だったかい」
怒りを表にしたサーフィが攻撃をしかける。
(全方向から飲み込んで喰い殺す!貴様のような老いぼれ、捕食した所でなんの足しにもならんがな)
「お前が散々切り落としてくれた俺の身体、この範囲ならまだコントロールが効く!意味が分かるか?お前はもう包囲されてるんだよ!」
「へぇ、そうなのかい?オイラにはそうは思えんがね」
ダイゲンがそう言うとサーフィはある事に気付く。
今まさに利用しようとしている切り落とされた身体、そのいずれも動く様子はない。
(バカな!斬られたとしても魔力の繋がりがあれば動かせるはずなのに!)
サーフィはダイゲンの仕込み杖に目を向ける。
「その刀かッ!!何をした?」
「この刀かい?これは、あるお方が使っていた長刀の先端部分でなぁ、丁度いい具合に折れてたんでオイラが杖代わりに使わせて貰ってるのさ」
サーフィに黒い刀身をみせるダイゲン。
「なんだその黒い刃は?!」
「この刀は魔力の繋がりを断つ。あんたら魔力の核が全身の至る所にあるんだろ?それが魔力で繋がっている、つまりあんたらにとってこの刀は天敵ってことだね」
刀を向けられたサーフィは全身を震わせ始めた。
「オイラはこう見えて結構頭にきてんだぜ?あの酒場を潰されてさ、あそこの店主も良い奴だった。こんな街で酒場をやって、その上でツケまできくんだぜ。頭がどうかしてるぐらいに良い奴さ。それを全部めちゃくちゃにしやがって」
「ッ!!」
サーフィは後ろを振り向き、その場から慌てて逃げ出す。
(ダメだ!あの男には勝てない!まだ死ぬわけにいかない!あんな小娘が我ら一族の族長であってはならないんだ!俺は力をつけて!必ず族長の座を奪い返すんだ!)
「おやおや、逃げちまうのかい?」
「ハァッハァッ!」
なりふり構わず逃げようとしているのか、サーフィは人の形を保つことすら忘れて、一部崩れながら逃げて行く。
「だが遅すぎたね。すまんな、オイラは昔から手癖が悪くてな」
そういってダイゲンは刀を鞘に収めた
鋭く重い音が響く。
「な……に?」
サーフィの身体はいくつにも分断されてしまう。
「もう斬っちまったよ」
崩れていくサーフィに背を向けてダイゲンは近場にあった丁度良い岩に腰をかける。
「酒場の仇を斬れたことだし。ジジイは酒でも飲んで休むとするか」
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