第49話 グランドオークの姫とタケミ
「こんな感じでしょうか」
そう話すグランドオーク族の姫マートル。
彼女の深緑の肌はうっすらと赤くなり、そして大量の蒸気を発生させていた。
タケミが使用している”赤鬼”を再現してみせたのだ。
「マジかよ、そんな簡単に出来ちまうのか」
これには流石のタケミも驚きの感情が勝っているようだ。
「私、身体的や魔力的に条件を満たせていれば一目見たものを真似出来るんですの。タケミ様と同じ感覚を味わいたくて……キャッ。でも確かにこれはかなり面白い戦闘方法ですわね、少しコントロールに慣れが必要ですが」
地面を一蹴りすると直後にタケミが吹っ飛んだ。
マートルが彼にパンチを叩き込んだのだ。
結界に叩きつけられたタケミ、その衝撃で結界が崩壊しかける。
(今の動き……もはや目で追うのは不可能だ)
赤鬼によって引き上げられたマートル姫の身体能力にただ驚愕するしかないベロニカ。彼女だけではない、他の者も言葉を失っていた。
タケミの戦闘力が100だとすると、それを無理やり200や300にする事で300の相手に対抗する、それがこの赤鬼の仕組みだ。
しかし300の者が赤鬼を使えばその数値は600や900まで跳ね上がる。
元の数値が違うタケミとマートル姫では引き上げられる幅に大きな差があるのは当然だった。
「くぅー流石に今のはかなり効いたぜ……」
沈黙の中話始めるタケミ。
「やっぱ、元が違うから出せる強さも全然違うんだな。まさかこれを一発で自分の物にちまうとは。いや、自分の肉体を多少コントロール出来ればすぐに出来る事だ、自分だけが使えるって思ってたのは過信だな」
タケミは更に赤鬼の出力を引き上げる。
「だが今の俺にはこれぐらいしか手がねぇんだ。とことんやらせてもらうぜ」
それからタケミとマートル姫は7日7晩も闘いを続けた。
結界外の者達もほぼその場を離れる事なく、寝ずにその闘いを見続けた。
「あ、あれ、また空が明るくなってきたね。何回目?3回?」
「ちがうよぉ、4回、いや5回?あれぇ何回だっけぇ?ベロニカ様ぁ」
「もう7日間も闘い続けている」
ベロニカは自分で言っておきながらその数字に驚いていた。
(それも驚異的な話だが、カヅチ・タケミ殿は秘薬をこの7日間で3回も口にしている。本来は1ヶ月間は効果が保たれるはずのものなのに、もしかしてあの秘薬にすら耐性が出来ているのか?それとも私たちの1ヶ月分のエネルギーを数日で使ってしまうなんて、一体どれほどの消耗スピードなんだ)
この7日間、タケミは絶え間なく赤鬼を使用し続けている。
「オラァッッ!!」
タケミは大きく相手を吹き飛ばした、しかし同時に彼は大量の血を吐き出す。
「ガハッッ……!」
しかし倒れずに踏みこらえる。
「うわ!また血を吐いちゃったよ!ベロニカ様!」
「一日に一回は起きるな。自身の心臓や血管の許容量を大きく超えた事による吐血。本当に不思議な方だあれほどの生命力を感じさせるのにこれほどまで無鉄砲な戦法を取る……分からない」
ベロニカと他の者たちがタケミの度を越えた戦法の理解に苦しんでいる。
しかし対峙しているマートル姫はタケミという者がどういうものか、その戦闘力だけでなくそれ以上の事まで理解し始めていた。
(タケミ様は極めて過酷な生存競争の中をずっと生きて来たのだわ。強靭な肉体や精神、これは生まれつきの物ではありませんわ。皮膚から骨の髄まで全てにゆるぎない経験がある、全てタケミ様が鍛え上げたもの。一体どれほどの環境で過ごせばここまで鍛え上げられるのか、私たちが容易に想像できるような状況ではなかったはず)
口から血を垂らしながらも自分を真っ直ぐと見詰め、迫って来るタケミをみてマートル姫は尊敬の念を覚えた。
(なぜ私たちがこれほどまでタケミ様に惹かれたのか、きっとタケミ様が誰よりも今この瞬間を生きているからだわ。目の前の瞬間に全てをぶつけないと生き抜けない、そんな過酷な環境を生き抜いて来た。そんなタケミ様だからこそ、これほどまで輝いてみえるのだわ!)
姫もタケミに詰め寄った。
ボロボロになりながらも自身にひたむきな彼に姫はこの上なく心が踊っていた。
(ああっ!!なんて美しいッ……!!今全身の感覚を失ったとしても確信できますわ!全てを私に向けて下さっている!)
歓喜の感情が爆発しそうな表情でタケミを見詰めるマートル姫。
タケミが一撃を入れるとマートル姫が殴り返す。
結界外のもの達が湧く。
「美しい……」
「きれい……」
「すごぉ……」
ベロニカたちは二人の闘いに見入っていた。
それは結界内で闘う者達も同様だった。
もうタケミとマートル姫にはお互いしか見えておらず、聞こえるのはお互いの力強い心音、感じるのはお互いの肉を叩き叩かれの衝撃のみ。
そこは完全に二人だけの世界だった。
打ち合いの最中、タケミの身体から噴き出る蒸気の量がここに来て更に増えた。
(まだだッ!あの時バアルを驚かせたあの一撃を打ててねぇ!もっとだ!もっと!)
タケミの身体に異変が起き始めた。
右腕が一回り太くなり、赤い亀裂が走る、そして腕全体が黒く変色していく。
「なんということ、ここに来て更に進化をされるなんて!!」
タケミの状況を理解した姫が喜びの声を上げる。
(来たッ!!これだ!この感覚だ!!)
腕から感じる激痛に意識を奪われる事無く、タケミはマートル姫から目を離さない。
マートル姫は両手を胸の高さでクロスさせガードの態勢をとった。
それはボクシングでいうクロスアームブロックと呼ばれる、最も堅牢なガードスタイルに酷似していた。
「ご心配なく、これは手加減ではありませんわ。はぁ……っ!!なんて熱い視線、それだけでこの身が焼け焦げそうですわ!私は欲しくてたまらないのです、タケミ様の全力をっ!」
「分かってるよ、ここでそんな事するようなキャラじゃないもんな」
タケミはそう言って笑う。
「闘争心に満ちた笑顔……なんて素敵な。私は全力で防御いたします、この盾を是非貫いてくださいッ!!これが最後の試練ですわ!」
マートル姫は赤鬼状態を解除し、魔力を両腕に集中させた。
「ああ、その試練受けてたってやるぜ」
右腕から吹き上がる赤い蒸気の量が増す。
「行くぞッッ!!!」
タケミが踏み込む、その時に踏み出した左脚にも右腕と同様の変化が起きた。
舞台が割れ、その周囲にまで亀裂が走る。
そして放たれた右拳。
マートルの交差した腕の中心を捉えた。
腕に衝突した拳が止まる。
押し切ろうとする拳の矛、それを押し返そうとする腕の盾。
今回の勝負に関しては矛盾は起きなかった。
タケミの拳がマートル姫の両腕を左右に弾いたのだ。
腕を弾かれ、両腕を広げる形になったマートル姫。
彼女にタケミの右拳が真っ直ぐと向かっていく。
拳が眼前に迫った時、姫は強烈な期待感によって頬を緩ませていた。
マートル姫は顔面でタケミの右拳を受け止めた。
(ああ……!!お母様……!!マートルは今、最上の喜びを感じております……っ!これがぁっ、恋なのですねぇっ!!)
マートル姫はこの瞬間、言葉に出来ない程の幸福感に包まれたという。
つまり歓喜の感情が、とうとう爆発したのだ。
そんな彼女は吹き飛び、結界を破壊し、その先にある建物に衝突。
「ひ、姫ェッッ!!」
ベロニカが姫の元に駆け寄る。
姫は心の底から幸せそうな顔をして気を失っていた。
「怪我はそこまでのものではない、一体なぜ気を失われたのか?とにかく試練は終了だ!試練を乗り越えし、カヅチ・タケミ殿よ!晴れて貴殿は我らグランドオークの花婿として……」
マートルを抱き上げ、タケミの方をみるベロニカ。
「おれ……を」
タケミが何かつぶやく。
「え?」
タケミは突然、舞台の外にいた者達を睨みつける。
「まだ物足りないって事!?」
「なんて旺盛な方!もう私達を相手してくださるなんて!」
何やら嬉しそうな声を上げるグランドオーク達。
この異変に真っ先に気付いたのはベロニカだった。
「いや違う!あれは殴られ過ぎて暴走しているんだ!このままではいかん!我らが花婿を全力で止めるぞ!!」
「お、れ、おれを、オレを!討ち取ってみろおおお!!」
取り押さえる為に駆けよるグランドオーク達にタケミが舞台上から吠えた。
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