第47話 グランドオークの姫との試練
巨人に吹き飛ばされたタケミを追って荒野を飛ぶユイとネラ。
「タケミ大丈夫かな」
「どうだろうな」
二人はタケミが飛んでいった方向に向かっていた。
「そういえば、この前ウェルズさんにもらった日誌でグランドオークについて書いてあるページがあったよ」
ユイはそう言って日誌の一部を思い出し口にする。
私が訪れた村は山に囲まれており、非常に静かでゆったりとした時間がそこには流れていた。
村を散策していると子ども達が駆け回っていた。
ふと子どもたちの唄が聞こえてきた。
以下は私が村長にきいて改めて書き起こした唄の歌詞である。
オーク様は大地の神様
オーク様は愛と美の神様
オーク様は子を授けてくださる
うちのおとうは山に行く
おとうは村いっちばん強きもの
だから神様に選ばれた
とおの年が流れると
つよき男を山に捧げる
次の豊作を授かるため
以上が歌詞である。
どうやらこの村では10年に1度生贄を捧げる信仰があるようだ。その際には男同士の力比べの祭りが行われたりとかなり賑わうようだ。
唄を教えてくれた村長は真剣な面持ちで私に
「決して山には近づかないように。神は気まぐれで、男を攫う事がある。気をつけてくれ」
と忠告してくれた。
こういう忠告は守って損はない。
これは私の経験が根拠の単純な理論ではあるが。
「って書いてあったよ」
ユイは思い出した内容をネラに伝えた。
「ユイ、よくそんな細かいところまで覚えてるな」
「全部読めるようになった訳じゃないから、同じ所なんども読み返しちゃった。内容も面白いし。このオーク様っていうのがグランドオークの事だよね?」
その話をきいてネラは頷く。
「グランドオークは古い種族でな、マリスのとこと同じぐらいの歴史がある。連中は女しか生まれない、だから子孫を残すために他種族の男を探すんだ」
「へぇー!それで男の人を捧げるのかぁ。そういえば厄介みたいな事言ってたけど……もしかしてタケミが召し上げられちゃうってこと!?」
ユイの質問に首を傾げる。
「召し上げられる……まあすんなりいけばいいが。気掛かりなのはその前の段階だ」
「前の段階?」
ネラが説明を続ける。
「連中は次の世代をより優秀な種にする為、優れた男を探すんだよ。ここまでは普通の生き物と一緒だが、連中はそのこだわり具合がハンパじゃないんだ。優秀な男を見つける為に試練を用意しててな。それが過酷を極めていて、例えその試練で男が、あるいは一族の者が死のうが、連中の価値観ではそれは肯定されるんだ」
「で、でもタケミもかなり強くなってるし、試練ならなんとかなるんじゃない?」
ユイの発言に首を振るネラ。
「どうだろうな、連中は世代間の進化具合が他の種の比じゃないんだ。そんな連中が自分達の試練を乗り越えた男と更に優れた子孫を残す。これを繰り返した連中だ、今の世代がどんな能力をもっているのか想像も出来ない」
「姫様直々の試練だ!準備は一切手を抜くな!」
グランドオーク達が忙しなく動いている。
中庭には大勢のグランドオークが集まっていた。
大勢といっても人数は数十人ほどだが、それでも彼女たちの熱気は凄まじいものだった。
「ふふふ、みんな浮足立ってますわね。ここに立つ私はどうしたら良いのでしょうか」
グランドオークの姫、マートルは嬉しそうにそういった。
「準備ってなにするんだ?ここで力比べとかするじゃないのか?」
「ええ、その認識でだいたい間違いありませんわ。ですが私達がする力比べには色々と備えが必要でして。もうそろそろ終わると思いますので」
二人が話してるとベロニカが現れた。
「姫、準備整いました」
「ありがとう、ではそうそうに始めましょう」
この言葉を聞くとベロニカは舞台から降りて他のものに合図をする。
舞台を囲むように4人が座り、呪文を唱える。
すると舞台を囲む光の壁が発生、舞台を覆う結界となった。
「ではこれより、総合試練を行う!はじめ!」
合図と同時に結界内に水が湧き始めた。
「お!?なんだ水?」
「いいですわね、丁度火照った身体を冷ますことができますわ」
足元から湧き出た水はあっという間に結界内を満たす。
(なるほど、こういうことか。あれ?姫さんはどこいった?)
目の前にいたはずの姫がいない。
(消えたんじゃねえ、これは!)
タケミは周囲を見渡す、何かが高速で彼の周りを移動している。
(マジかよ、そんな早く泳げんのか!?)
タケミがそう思った瞬間、それは彼を目掛け突撃してきた。
辛うじてそれをガードするタケミ。
突撃してきたのはマートル姫だった。
(ふふふ、ちゃんと目で追えてますわね)
ガードするも水中では踏ん張りが効かず、後ろに押し出される。彼は背後に迫ってきた結界を足場にして移動を始める。
(普通に泳いだんじゃダメだ。あのスピードには追いつけない)
それを見たマートルは手をタケミに向ける。
(プロークルッ!)
彼女の手から雷が放たれる。
タケミはその雷を浴びてしまうが構わず姫目掛けて突撃する。
「おお!姫の魔法に臆せず向かっていくなんて!」
「それにあのスピード結界があるからとはいえ、スゴイわ!」
外にいる者たちが沸き立つ。
(しかし動きが直線的過ぎますわ)
マートルは構える。
するとタケミはまだ相手を射程距離に捉えていないにもかかわらず拳を振るう。
拳を振るった勢いを利用しタケミは大きく軌道を変えた。そして上方向からマートルに攻撃を放つ。
しかし、これすらもマートルは見切っていたのか、攻撃を躱されてしまう。
(やっぱり水中じゃ動きが鈍いな!)
(結界を足場にして移動面をカバー、直線的な移動も自らの攻撃を推進力として軌道にある程度の自由を持たせる事が出来た、この短い間にここまで出来るなんて……)
タケミの行動を観察しながら姫は飛び退いた。
はずだった、しかしなぜか彼女の身体は全くその場から動かなかった。
それどころかタケミの方に引き寄せられている。
(……!!これは水流!!)
先ほどタケミが空振りした一撃が水流を生み出していた。
(スピードが速かろうが逃げられなければ良い!)
タケミは拳を引き寄せ、足場を蹴った。
そして近づいて来たマートルに体ごと叩きつける勢いで拳をうちこんだ。
「おお!姫様に一撃いれた!!」
観客が再び沸き立つ。
(素晴らしいですわ!こんな短い間に水中での戦闘をここまでものにするなんて!)
マートルはタケミの一撃を受け、そのような事を考え水中を舞っていた。
彼女は姿勢を戻し、外に一瞬目線を向ける。
「姫からの合図だ!水は終わりだ!次は炎を!」
ベロニカがそういうとまた4方を囲む者たちが呪文を唱えた。
結界内を満たしていた水は瞬く間に消えていく。
「ぷはぁ!あれ、もう水終わりなのか?」
結界内に炎がごうごうと燃え盛る。
「うお!今度は炎か!」
一般の者がその熱気を一呼吸でもすればたちどころに肺は大火傷を負ってしまうだろう。
「水の次は炎かでも!水ん中よりずっと動きやすいぜ!」
タケミは炎の中を突き進み一撃をマートルに叩き込んだ。
しかしその一撃は彼女の片手で止められてしまう。
彼の一撃を止めたその手から炎が放たれる。
「流石だな、水中じゃなくてもこうとはな」
飛び下がるタケミ、彼は火傷を負ったがすぐに回復する。
「カヅチ・タケミ様も素晴らしいですわ、今の炎を受けて軽い火傷程度、そしてその回復力」
「まぁな!」
そういって自信ありげに構えるタケミ。
「さあ、では……はッ!?か、カヅチ・タケミ様ぁ!?」
マートル姫は急に顔を赤くした。
しかし炎の熱が原因ではない。
「あん?どうした急に」
「そ、そ、その……」
「な、なんと……」
「ウワオ……」
「チョコちゃん鼻血出てるよ」
姫だけではなかった、他の者の視線がタケミのある一点に集中していた。
「ん?どうかしたか?」
なぜか先程まで舞台を囲んでいたグランドオーク達は、タケミを正面からみる事ができる場所に移動していた。
「お、お召し物が……!!」
マートル姫の発言でようやく気づいたタケミ。
「あ……本当だ。服が全部燃えちまった、ははは!流石に服は再生しねぇもんな!」
タケミは全裸になっていた。
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