第40話 白の騎士と黒の騎士
港街のマリンネに到着した夜、ネラは何かを感じ取り街に飛び出した。
これより少しばかり前。
マリンネ中でも一際高い建物、レンガ造りのその最上部には鐘が三つあった。そんな建物の屋根に、頭からつま先まで鎧を着込んだ騎士風の者たちがいた。
「ようやく到着したがもうこんな時間か、流石に店はもうやっていないか」
白い鎧を着た者がそういって腹を鳴らす。
「そうだね、食料は干した野菜とかはまだ残ってるから、これでも食べておこうか。あの人たちも休んでいるようだし。朝を待ってそれから行こう」
黒い鎧を着た者がそう答える。
すると突然この二人は高く跳び上がった。
直後二人が先程までいた場所を光る何かが高速で通過。
「魔力の矢か!」
「それにこの魔力は!」
着地した二人は武器を取り出した。白の騎士は大きな盾を、黒の騎士は両刃剣を構える。
「ふふふ、よく避けたわね」
「ふん、背後から矢で不意討ちとは。さすが女神様、趣味がいいな!」
二人の騎士の前に現れたのは白いドレスを着た女神だった。
「この感じ、貴様は上級女神か」
「そうよ。光栄に思いなさい、私を拝めるなんて」
黒の騎士にそう言うと、白いドレスの女神は髪をさっとなびかせる。
「ふん、相変わらず尊大不遜な連中だ」
白の騎士が嫌そうに話す。
「この魔力、かなり抑えているけど分かるわ。あなた達は魔神軍、それもそんじょそこらの一兵卒じゃない、隊長かしら?」
女神は光を放つボウガンを生み出す。
「ここでの戦闘は避けたい、そうでしょ?なにせここはあの大領主バアル・ゼブルの領地ですからね」
翼を広げ、飛び上がり女神は矢を一発放つ。
その一本は無数に分裂し街に降りかかる。
「テメェッ!」
「白炎楼!!」
黒の騎士は両刃剣から白い炎を放つ。
放たれた炎は街を覆う壁のように広がり、矢を防いだ。
「白い炎、珍しいのを使うのね。……っ!」
女神は横からの衝撃によって吹き飛ばされる。
「余所見してんじゃねぇぞ。とろい奴だ」
白の騎士が盾を前方に構えて空中に立っていた。
「グッ!何が」
吹き飛んだ先に黒の騎士が現れる。
「本当だ、上級女神様は随分とすっとろいんだな」
黒の騎士は女神の翼を斬りつけた。
「あんなでっけえ翼なんかつけてるから遅いんだよ。これでいくらか早く動けんじゃねぇかー?」
建物に落下した女神を見下して白の騎士が笑う。
「テメェら……テメェらよくもッ!この高貴な身体に傷をつけやがったなッ!!!」
飛び起きてそう叫ぶ女神。
「汚らしい貴様らの武器で!ああみろ!この服だって汚れてしまった!!」
「おいおい、随分と沸点の低いやつだな」
「ああ、だがあの女神、魔力量が上がっているぞ」
下から騎士たちを睨みつける女神。
「下等生物の分際で!後悔させてやる!!」
女神は膨大な魔力を放出する。
「こんな所で本気出す気かよ。周りへの影響は考慮しねえってのが女神サマのモットーなのか?」
「流石にこちらも相応の対応をしないとな」
騎士たちも光を帯び始める。
「魔力」
「解ほ……」
すると突然高速で何かが飛来してきた。
女神の顔をめがけ飛んでいく。
「なんだ!?」
咄嗟に頭を逸らすことで回避する女神。
目を凝らすと、それは鎌だった。
「あの鎌は!!」
回転する鎌はグルッと周回し持ち主の元へ戻る。
「なーんか、面白そうなことしてんじゃねぇか。私も混ぜろや」
現れたのはネラだった。
「お?なんだ、上級女神様のグリーディじゃねぇか」
ネラは白いドレスを着た女神をみてニヤリと笑う。
「こんな夜更けになんだ?つーかその服似合ってるな、特に汚れてる部分がよ」
「くっ、貴様が来たら話が変わる。ここは一旦引かせてもらおう。貴様ら二人にも必ずこの借りは返すぞ!」
彼女は光の柱に包まれ姿を消した。
「け、逃げ足の早いやつ」
ネラはそういって騎士たちをみる。
「で、お前らは私達に用があるんだろ?とりあえず私は戻るぜー」
彼女は自分の宿に戻っていく。
翌朝、ネラたちは豪華な部屋で朝食を食べていた。
横に並んで座り、テーブルに並べられた様々な料理に手を伸ばしている。
「へー、女神が来てたのか」
「ああ、そうなんだよ。そこにこの騎士さんたちもいてよ。まあ、そこまでは良いんだが……」
ネラが食事から目線を正面に向ける。
「マリス先生、もうシロップ良いですか?」
「ダメだ、もっとだ!」
「ええー!もうかなりかかってますよ」
「ダバダバぐらいがちょうど良いんだ!ほら!」
ユイがマリスの皿に乗ったパンケーキにシロップをかけていた。
「うーん!やはりここの料理は美味しいですね。内陸だと新鮮なお魚って川のお魚しかありませんでしたから。おや、どうかされましたかネラ様?」
ネラの真正面にはフォルサイトが座っていた。
「なんでお前らがいるんだよ!」
何故かフォルサイトとマリスも一緒に座って食事をしていた。
「いいじゃないですか。このお店は私たちが予約していたんですし、かなり人気店でモーニングから結構混むんですよこの店。この部屋はゼブル様専用のVIPルームなんです」
「そういう話じゃなくてだな……」
ネラが頭を振る。
「お二人も一緒に朝食にしませんか?昨日は走りっぱなしで疲れたでしょう?」
「え……」
「いや、でも……」
フォルサイトに呼ばれた二人の騎士はお互いを見合う。
「大丈夫です、この通り人は来ません。この方々は信頼できる方々ですから」
そう言われると二人は甲冑のヘルメットを外す。
白の騎士からは黒い毛と長い耳、黒の騎士からは白い毛と尖った耳がヘルメットの下から現れた。
「獣人族か、これはまた珍しい連中が出て来たもんだな」
白の騎士は黒い兎、黒の騎士は白い狼の顔をしていた。
厳密にいえば各動物の要素と人間を掛け合わせたような顔だ。目などは人間のようだが鼻や口、そして耳などは動物のそれだった。
「二人共、自己紹介をお願いします」
「はっ、バアル・ゼブル様直属部隊、第3部隊隊長クレイピオス」
「同じく第4部隊隊長アスタムと申します」
二人はそう言ってお辞儀をする。
「ん、よろしくなー」
「へぇ、獣人族初めてみたー!すっごい綺麗な毛並み!」
タケミとユイはそう言って二人に軽く手を振る。
「どーもー」
「ちょ、ちょっと姉さん、失礼だよちゃんと目を見て言わないと」
横に視線を向けてそういうクレイピオス。それを注意するアスタム。
どうやら二人は姉弟のようだ。
「にしても、そのぉ……ふぉ、フォルサイト様、レクス・マリス様」
「一体いつから」
黒兎のクレイピオスと白狼のアスタムが尋ねる。
「ずーっとですよ。昨晩の女神との戦いもみていました。私達に気付かないなんてお二人共まだまだですね」
「同じ隊長なのに"様"ってへんなの、フォルサイトの方が偉いのか?」
「ああん?テメェっ!フォルサイト様を呼び捨てなんて無礼だぞ!どういう関係性だコラ!」
黒兎のクレイピオスがタケミに噛みつく。
「別に無礼もなにも、おれは魔神軍じゃねぇしいいじゃんか」
「グッ!ああ言えばこう言う!」
「いや姉さん、相手はまだ一回しか返してないよ」
「こらこらクレイピオスさん、落ち着いてください。すみませんね、タケミ殿。彼女は些か感情的になりやすいんです」
フォルサイトがクレイピオスをなだめる。
「くぅーー!フォルサイト様に謝られるなんて!光栄に思い、この瞬間を毎秒思い出して感謝するんだなオス人間め!!!」
「ちょっ!姉さん!」
今にもタケミに飛びかかりそうなクレイピオス、それを必死で抑えるアスタム。
「まーた喧しいのが増えたな」
ネラはこの光景をみてそう呟く。
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