厄災どものお通りだ
「ッ!ハァッ……!ゼェ……ッ!くそッ!なんなんだよ!アイツら!!!俺達は選ばれた勇者なんだぞ!」
彼がこの話を受けた時、最初は軽い気持ちだった。
どうせ仲間が、それが無理なら自分が軽く片付けられる相手だと思っていた。
しかし、今回は話が違った。
「おいッ!!!おれの後ろの方だ、さっさと魔法でも何でも良いから……!」
息を切らしながら味方達の駆け込んだその時。
空から何かが急速に落下。
その衝撃で彼の前にいた仲間たちは土埃と共に散り散りに吹き飛ぶ。
土埃から現れたのは三人の男女。
「お友達連れてきてくれたの?出し惜しみせずにもっと呼んで良いんだよ?」
そのうちの一人長い黒髪をもつ女がニヤリと笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「飯食ってる時に邪魔すんじゃねえよ。ユイが不機嫌になっちまったじゃねえか」
「なんで名指し?!」
彼女の後ろで大男と赤髪の女が何やら言い合っている。
「お前ら、折角かっこよく登場したんだから……おっと待ちな」
黒髪の女は鎌を勇者という男の背に投げ刺す。彼は隙きを見て逃げ出そうとしたのだろう、がそれも失敗に終わった。彼を捉えた鎌は黒い刃を持ち、柄には同じく黒い鎖が繋がっていた。
黒髪の女は相手を手繰り寄せる。
「よーし、こっちに来い。尋問タイムだ」
「焼き払え!ファイヤトルネード!!」
突然、彼女らを囲うように炎の竜巻が発生。
「おお、見事に囲まれたぞ。やっていいかネラ」
「ステイだタケミ、ユイいけ!」
「言い方!ペットか!」
赤髪のユイという者が身の丈程ある武器を槍投げの姿勢で構える。
「まったく、こんな大掛かりなことしなくても」
「ランシア・イグニスッ!!」
武器に炎を纏わせ、彼女はそれを投げた。
放たれた槍は一瞬で周囲の炎の竜巻を消し去る。
「一度魔法を消されたくらいで!こっちには何十人も魔法使いが!!」
そう息巻く魔法使いの一人。
すると視界の端に眩い光を放つ何かが現れる。
「え?」
何が起きたのか分からないまま、彼女の肉体は残すところ無く灰となり散った。
魔法使い達はその眩い光を放つ槍によって、瞬く間に灰へとなっていく。
「竜巻消してハイ終わりな訳ないじゃん」
ユイは人差し指を軽く動かし視界に映ってもいない相手を正確に捉えていった。
「な、なんだ!?何が起きてんの?!展開してた他の魔法使いは!?みんなやられちゃったの?」
「知るかよ!早く全員で防壁張らないと!あれにやられちまう!!」
魔法使いの集団が慌てて集まり巨大なバリアを発生させる。
炎槍はまるで周囲を昼のように照らしながらバリア目掛け飛び進む。
「ここにいる魔法使いは魔力量が多い奴らばかり、その防御なら!!」
しかし、抵抗虚しく炎槍はたやすくバリアを突破。
「そんなので」
ユイはそういって指を鳴らす。
バリア内に侵入した炎槍は大爆発を起こした。
内側には何人も許さない無慈悲な焔が吹き荒れる。
崩壊したバリアの後には炭と灰のみがあった。
「な、なんなんだよ。こんな話聞いてねぇぞ!」
この光景に相手集団は怯え逃げ出す。
「勇者様一行は逃げ出した!」
「しかし、まわりこまれてしまったってか?」
逃げようとした先に大男と黒髪の女が立っていた。
「もうこうなったら、やるしかねぇ!!」
取り囲む大勢の者達は声を震わせ、武器を構える。
勇者たちは一斉に飛びかかり、刃が相手の身体に突き立てられる。
しかし、経験したことがない手ごたえが彼らを襲う。
「え……?」
攻撃をしかけた勇者たちは困惑し固まる。
「ネラはどこだ?まいっか。ん?おいおいしっかりしてくれよ、傷すらついてねえぞ」
攻撃された大男はまったく攻撃を意に介さず、平然と話していた。
男に突き立てられた様々な武器は一切刺さること無く、彼の皮膚に止められていた。
信じられない、今まで岩のような甲殻をもつ魔物だって容易く斬り裂いた刃が。まるで意味をなさない。
一同は現実を受け止められず硬直する。
「よし、じゃあ次はおれの番な!」
大男は目の前にいた者の頭を片手で掴む。
「え、え、え?」
「行くぞぉぉぉ!!!」
持ち上げ、まるで棒切れかのように大男は相手を振り回す。
「オラァッ!!」
周囲の者を払い飛ばし、最後に相手を投げ飛ばす。
大砲が如く放たれた相手は他の者を巻き込みながら飛んでいく。
「ハハハッ!さぁ!どんどん来いや!!」
彼は勢いよく相手集団に飛びかかる。
「クソ!とにかく射つんだ!」
木々の間に向って休むことなく飛び道具を放つ者達。
「ハッ!どうした!届かねぇぞ!!」
黒い刃を持つ二振りの鎌を持つ黒髪の女、彼女は飛来する無数の攻撃を難なく躱し進む。
「来たぞぉぉ!!死神だぁッ!!」
集団が盾を構え、魔法の防壁を展開、その隙間から魔法や飛び道具を放ってきた。
「てめぇらなんぞ!」
攻撃をかいくぐり、黒髪の女は鎌を振る。
まるで黒いつむじ風にさらわれた様に、彼等は盾や防壁ごと切り裂かれた。
「数にならねぇんだよ!」
「駄目です!止められません!」
「どうすれば?!じきにここも」
綺麗な装飾品を身に着けた3人の女達が落ち着かない様子で話す。
彼女たちは戦闘が行われている地点から離れた場所に仮設された拠点にいた。
「女神たる私達が出るしかないでしょう」
ある者が立ち上がる。
「いい香りだなぁ。紅茶か?一杯くれよ」
「!?」
突然の声に驚き、振り向く彼女達。
そこに黒髪の女が机に足を放り投げ座っていた。
「貴様ッ!!……!?」
女神達が立ち上がった瞬間、彼女の腹部に鎌が突き刺さる。
「おおっと気をつけないと、腹に鎌刺されてんだからよ」
椅子を揺らしながらお茶を飲む、彼女の手には黒い鎖、鎖は女神に刺さった黒い鎌に繋がっている。
「魔力探知を妨害する結界なんか張りやがって」
彼女が鎖を引くと、二人は燃え上がり消えた。
「クッ!!」
残った女神が仮説拠点の外に飛び出す。
(噂は本当だったのか!私たち女神とその配下である勇者達を狩る死神!そして武器持たぬ大男と炎髪の魔法使い!)
「主神様!どうかこの私にご加護をッ!!」
天高く飛んだ女神は振り返り両手を前にかざし、下に向け光線を放つ。
黒髪の女は女神に向って跳び上がる。
彼女は光線を軽く弾き、軌道をそらす。
「他の神に泣きつくな!みっともない!」
彼女は一瞬で、女神を肩から斜めに切り裂く。
「この厄災ども……め」
そう言い残し女神は炎と共に消えた。
これは勇者でも魔王でもない、厄災と呼ばれた荒れくれ共のお話
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