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ふく×ふく2 決闘の舞台はあなたのおそば  作者: こっとんこーぼー(琴音工房)


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43、エピローグ

 萌木もえぎ神社の授与所じゅよじょでは、白雪さゆき夜里よざと、ふたりのJK巫女がぼんやりと座って、無人の境内けいだいを眺めていた。


 午前中の境内でここ数日と同じく活気があるのは夏の日差しと遠く聞こえるセミの鳴き声のふたつくらいだった。


「この中だとぎりぎり涼しいからいいけど、今日も暑くなりそうだな~」

「人が来なくても掃除や水まきはしないといけないから熱中症には気をつけないとね」

「参拝客が来なくてもさぼれないのは面倒だよね~」

「鶴さんと亀さんが来てくれれば掃除を手伝ってくれるから楽だけどね」


「そういえばふたりにポーズ頼むマンガ、どういうのを描くかもう決めたの?」

 白雪が夜里に尋ねる。


「まだテーマとか決まってないんだよね」

「異世界ものとか流行はやってるじゃん。ああいうのは描かないの?」


「異世界の設定を考えるのがちょっとね。あと思ったより描こうとすると、主人公のチート能力とかをどうすればいいか全然思いつかない」


「じゃあ現代物でゾンビとかサメとかと戦ったりするようなB級映画っぽいアクションでいいんじゃない? 『ゾンビ・シャークVSネイビー・ホームズ』みたいなタイトルにして」

「ゾンビ・シャークは分かるけど、ネイビー・ホームズってなに?」


「ネイビーシールズっていうアメリカの特殊部隊があって、映画だとサメや宇宙人と戦ってたりしてるわけよ。で、ネイビー・ホームズはその特殊部隊と名探偵のホームズを組み合わせたヤツ。ホームズもゾンビ、サメ、ネイビーシールズと同じくらいにB級作品に酷使されてるからいっそのこと全部まぜちゃえばいいかなと思って。この4つってパシフィックトレインとかいうヤツでしょ?」


「……もしかしてパブリックドメインのこと?」

「あ、それそれ」


「ゾンビとサメはともかく、ホームズはパブリックドメインじゃないと思うけど……だいたいネイビーシールズってアメリカで、ホームズはイギリスでしょ。どう組み合わせるのよ?」

「そこは赤葉桜あかはざくら先生の手腕にご期待下さい、ってヤツ。まあどっちも英語しゃべるんだからどうにかなるでしょ」

「暴論すぎる……というか、ゾンビもサメもネイビーシールズもホームズも描いたことないんだけど」

「じゃあ先生、新たなジャンルへの扉を開きましょう!」

「部長みたいなこと言わないで」


 ふたりがそんな会話をしていると、黒縁メガネのぽわぽわとした感じの少女が大鳥居を抜けて授与所へとせかせかとした足取りで向かってきて、


「やっほ~、夜里ちゃん」

 夜里に声をかける。


「ウワサをすれば……部長おはようございます。あ、青嶋あおしまさん。こちら漫画研究部の……」

「部長をつとめております八尾やお和子かずこともうします」

 大仰おおぎょうな態度で頭をぺこりと下げる。


「特にイベントもないのに神社に来るとか、どうかしたんですか?」

「どうかしたかと言われると、どうかしたんですよと答えるしか。実はわたしのバイト先で創作意欲をバチバチに刺激する出来事がありましてなぁ」

 と言いながら、和子はバッグから厚みのある大きめの封筒を取り出すと、夜里に手渡す。


「学校の課題とは別で、今回これまでにないほどの傑作が誕生したので、ネームというか軽い下書きに目を通してもらおうと思った次第で」

 

 夜里が封筒から十数枚ほどの紙束を引き出すと、

「それマンガなの? 見てもいい?」

 白雪が夜里の手元をのぞきこむ。


「どうぞどうぞ。まだ線画とセリフだけで背景やトーン処理はしておりませんが」

 和子にうながされ、夜里と白雪のふたりは線のみのペン入れがされた原稿へと目をやり、表紙とおぼしき最初のページを見つめる。


「ん? この表紙に描かれている巫女さんというかメイドさんというか、とにかくこのネコミミの子どっかで見たことがあるんだけど」

「ああ、それはメイド巫女の格好をしている男のでござるな」


 メイド巫女という聞き慣れない言葉に続く単語に、

「え、これ男の子なの?」

 当て字を想像できなかった白雪は、普通の『男の子』の単語を使って聞き返す。


「男のというかオス猫の妖怪ですな」

「ネコミミ妖怪女装メイド巫女少年はちょっと盛りすぎなのでは?」

 表紙に描かれているキャラに、夜里は難色なんしょくを示す。


「いやあ、今回は筆がノリに乗ってしまいましてなあ。まあまあそのまま続きをどうぞ」


 言われるがままに、夜里がぱらぱらとページを進め、白雪は横からのぞき見ていたが、ふたりとも徐々に顔を赤らめていき……、


 とあるページで手をぴたりと止め、

「こ、これって……男同士だよね……?」

「あ、これはちょっと……」

「マズいんじゃないかな……」


「おや? さすがにR18は描くわけにはいかないので、R15としてちょっとひかえめな表現を心がけたつもりでござるが?」

 和子の言葉に、


「「これがちょっと!?」」

 ふたりの巫女は驚きの声をあげたあと、


「いや、あの、これ……その……なんかエッチな内容をどうのこうのいう前に、メイド巫女さんというかこの女装してるスズって子ってまんまスズノさんだよね……」

「あと青年剣士ツルギと親友のハルって……部長、このマンガの登場人物って全員モデルがいるはずですけど許可は取ってますよね?」


「おや? モデルがいるってなんで分かったでありますか?」


「「だって、ご本人たちがすぐそこに……」」

 夜里と白雪がわななきながら指をさした方向に、大鳥居をくぐって境内の中へと進んでくる少年ふたりの姿があった。



「リュウちゃん、今日くらいはヒメ様に言って稽古を休んでもいいんじゃない?」

「大丈夫だって。『優しくなければ生きていけない。タフでなければ生きている資格がない』っていう有名なハードボイルドのセリフがあるだろ」

「みごとに順序が入れ違ってるけどね」


「とにかく昨日のアレ程度で心が折れてたら、師匠に合わせる顔がない」

「そういえばお師匠さまから『ふたりにサプライズプレゼントを用意したから楽しみに』って連絡があったね」

「予告しちゃったらサプライズにならないけどな」

「驚く要素がなくなっちゃうからね」


 そう、ちょうど今の時刻は龍星りゅうせい陽樹はるきまいの練習に訪れる時間なのだ。



 彼らを見た和子は目を輝かせると彼らに向かって飛ぶ勢いで走って行く。

「おぉっ! リューセイさまにハルキどの! My(マイ)トレジャー!!」


「「うえっ!? なんでここにっ!?」」

 いままで夜里と白雪が聞いたことのない声をふたりの少年があげるのが聞こえてきた。


「昨日の出来事への感謝をモエギヒメ様にお伝えしようと推参してみれば、文字通り『しがまいる』ことになるとは! 神社だけにこれはもう神のお導きとしか! 神主系アイドルの本領発揮というところですかな! ああすごい、やはりモエギヒメ様には御利益ごりやくがありすぎる!!」


「ない、ないよっ! ヒメにそんな御利益あってたまるかっ!! あとアイドルをやるとかひと言も言った覚えはない!」


「そのつれない態度は男ツンデレととらえても……? やっぱり素敵ッ!! はっ、ツンデレ要素を加えたバージョンの原稿も描かなくてはっ!!」

 大はしゃぎとでいうべき歓喜の態度をとる和子を前に、


「なにを言っているのかさっぱり分からないんだが……ハルは分かるか?」

 龍星がげんなりとした感じで陽樹に問う。


「リュウちゃんがデレの要素を見せた覚えは全然ないけどね」

「お前まで暗号で会話しないでくれ……ハァ……女難の相って1日かぎりじゃないのかよ……」

 龍星がぼやく。



 境内での光景を遠目に見ながら、

「部長、あのふたりと知り合いだったんだ」

「それはともかくとして……そのマンガ隠そう」

 白雪が夜里に提案する。


「どうして?」

「あのふたりにマンガのモデルになってください、って言ったじゃん。それでそのマンガが見つかったら、あのふたりはどう考えると思う?」

「あ……」


「あとヒメさまの教育上にもよろしくない」

「そ、そうだね。で、でもどこに隠せば……」

「と、とりあえず封筒に戻して、うちらの足下に……って、ヤバい、ふたりがこっちに向かって来てる!」

「なんでこっちに!?」

「なんでって、いつも私たちに挨拶してるじゃん。その流れでしょ!!」


 夜里と白雪はどたばたしながらも、どうにか危険なマンガ原稿を隠して、平静を取りつくろう。


「実はですな、この神社でわたしめが部長をつとめる漫画研究部の部員が巫女のバイトをしておりまして」

「そういえば赤葉桜さん、漫画研究部って言ってたね」

「世間が狭すぎる……」

 などと会話を交わしながら、3人が授与所の前までやってくる。


「……おはようございます」

 まだ午前の時間帯であるのに一日中動き回ったくらいに憔悴しょうすいした表情で龍星が告げ、


「今日もよろしくお願いします」

 陽樹も巫女ふたりに挨拶をする。


 いつもなら顔をあげて元気に挨拶を返す夜里と白雪だが、

「「お、おはようございます……」」

 と、ややうつむき気味に顔を伏せたまま答える。


((もう……あのマンガのせいで、ふたりと顔を合わせるのすっごくハズカシイじゃん……))

 夜里も白雪も必要以上に熱く赤くなっている顔を見られないようにするのが精いっぱいだった。


 今日はこれまで以上に暑くなりそうだったが、いま彼女たちの感じている熱は夏の太陽が仕向けてくるものよりも熱かった。

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