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ふく×ふく2 決闘の舞台はあなたのおそば  作者: こっとんこーぼー(琴音工房)


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36、ラストショット

 モエギとスズノの攻防は現在、小康状態にあった。

 だがそれは表向きのことで、実際は一触即発いっしょくそくはつとでもいう状態だった。


 スズノは今しがた自身が盾として突出させたタイル床――いまや床というより柱だが――の陰に隠れて息を潜めていた。

 モエギはスズノがいつ飛び出してきてもいいように油断なく銃を構えている。


 柱は白く分厚く高く太く。華奢なスズノの体をしっかりと隠していた。

 妖気の柱は堅牢で、さきほどの銃撃にくわえ、氷塊が衝突してもわずかに傷ついただけだった。

 このさき何発と撃ち込んだとしても柱の向こうへ銃弾が抜けていくことはないと思えた。


 仮に柱が崩れるまで弾丸を撃ち込んだとしてもそれは割に合わない。

 銃弾は無限ではなく、神力の無駄遣いといえるからだ。


 モエギがはじめに派手に連射してみせたのはブラフ(はったり)だ。

 陽樹と空子から得た神力では長期戦は望めない。

 だが短期決戦を挑もうとしていることを悟られてしまうと、この場からの逃げ切りをスズノに許してしまう可能性があった。


 しかし、チカラをセーブするという点はスズノのほうも同様だった。

 龍星から奪った刀気を炎に変換して使い果たした今、銃弾として使えるのは身に宿る妖気のみ。


 そういうワケで、どちらも相手の動向を探りつつ、安易なフェイントにかかることのないように神経を集中させていた。


 じりじりとした静かな読み合いが続く中、柱に接していた氷塊にひびが入り、一部分が氷山のように割れて床の上へと崩れ落ちる。


 沈黙が破られるのと同時にスズノが動きを見せた。

 これまで潜んでいた柱を瞬時に7つの妖気でできた球――以前にも見せた巨大チョコボールへと変えると、モエギめがけて打ち出す。


 ボールは空中で猫へと姿を変えて、一丸となってモエギめがけて飛びかかっていく。


 モエギは猫へ容赦なく銃口を向けると、撃鉄に重ねた左の手のひらを動かし、目にもとまらぬ早業とでもいうべき連続射撃でこれらを撃ち落としていく。

 ファニングと呼ばれる早撃ちの技術だ。


 銃弾を受けた猫たちは針で刺された風船のように弾けて消える。

 龍星、陽樹だけでなく、空子や他の女子たちも驚きの表情を隠せなかった。


 皆が驚愕したのは彼女のテクニックではなく、

「え、猫撃っちゃうの?」

 という容赦のない行為のほうだった。


「妖気のカタマリとわかっておるのに遠慮なぞしてどうする。カワイイ猫の姿をとろうがカワイイ女子おなごの姿を真似ようが目に物見せるのみ」

 6発の弾を撃ちきると、モエギは最後の1匹となる猫を銃把グリップではたき落とす。


「実際に妖気の猫を処理できなかった俺らには耳の痛くなる言葉だな」

「目で見えるものに惑わされてるようじゃダメってことだね」


 7匹の猫を倒して再装填を行おうとするモエギの隙を狙って、スズノがパペットから銃弾を次々と飛ばした。


 モエギはその銃撃をかわしながら1発1発と弾倉に弾を込めつつ、スズノとの距離を縮めていく。

 限りのある弾丸数で仕留めるには、障壁となる柱を生み出す猶予を与えるワケにはいかないからだ。


 装填を終えた弾倉を太ももで定位置に押し込むと、モエギはシリンダーを太ももで回転させながら、スズノにゼロ距離まで肉薄する。


 モエギとスズノの互いに突きつけ合った銃口が火を噴く刹那せつな、ふたりは空いているほうの手で互いの銃を持つ腕を外へと押し出す。

 銃口の向きをそらすための動きは取っ組み合いというよりは自身の主張を押しつけ合うダンスのようだった。


 お互いがその動きを続けるうちに、いくどとなく弾丸が発射され、派手な音と光が殺伐としたダンスを彩る。


 やがて――、

 カチッ。

 スズノのパペットの銃口から弾が出なくなり、むなしい音だけが響いた。


「にゃっ!? これからというときに」

「残念じゃのう。エネルギー切れというヤツじゃな」

「うぬぅ、不覚……」


 軍配はモエギへとあがり、リボルバーの銃口がスズノの額に突きつけられる。

 最後の1発だけが弾倉の中に残っていた。


「命までは取りはせぬが、少し痛い目を見てもらうぞ」

 モエギが撃鉄を起こす。


 スズノはパペットを引っ込め、降参というよりは命乞いのように両手を軽く挙げ……モエギの顔の高さで勢いよく打ち合わせた。

 龍星も使った猫だましだ。

 しかしモエギはそれにひるむことなく、すかさず発砲する。


 トリガーが引かれ、リボルバーから轟音とともに青いマズルファイアがひらめき、ラストショットが放たれる。


 スズノが勢いよくのけぞるようにして床の上へ倒れ込み、お菓子の国を思わせる内装は元の蕎麦屋のものへと戻っていく。

 誰もがスズノの敗北により、妖気の支配下にあった店内が復元されたものと思っていた。

 が、スズノは敗れてなどいなかった。


 スズノが床に倒れた状態からゆっくりと立ち上がる。

 額どころか体のどこにもダメージを受けていないように見える。

「う~、さすがにあのキョリでの銃声は耳によくないにゃ。耳というより頭の奥がガンガンするにゃ、銃だけに」


 直撃を食らったはずのスズノが立ち上がれた理由、それはスズノが額の前に掲げているものにあった。


 氷天ひょうてんの銃弾を防いだそれは――アイスキャンディーだった、

 小豆あずき色をした新幹線をかたどった氷菓にモエギの放った銃弾が深く食い込んでいる。


「『目には目を、歯には歯を』ならぬ氷には氷にゃ。アブナイところだったけどまさに間一髪でセーフってとこにゃ」

 スズノは猫だましと同時に結界や絶好調の布陣を解き、それらを構成していた妖気を凝縮してつくりあげた氷菓でモエギの銃弾を防いだのだ。


「そんなのアリなの!?」

 女子たちから驚愕の声があがる。


「まあ、アイスの中には歯やスプーンが太刀打ちできない硬度のものが存在しますし」

「たしかにあずきや新幹線のアイスは硬いと聞いたことあるけれど……」

「あ、だから小豆色で新幹線のカタチをしてるんだ」

「どちらにせよ、銃弾を防ぐのはさすがにムリでしょ……」


「胸にコインとかスマホが入ってて助かったという事例に近いのでは」

「ああ、ドラマとかでよくあるシチュエーションみたいな……」

「前にテレビでやってた科学番組で再現したときは見事に弾がスマホ貫通してたけどね」


「え、じゃあそのときの被験者さんは……?」

「発案者の相方が万が一のことを考えて胸ポケットじゃなくてスマホ単体で実験したんで人の被害はゼロ」

「スマホでムリだったのなら、アイスでは余計にムリなのでは……」

「しかし現に防がれてますからなあ」


「まさか、そんなもので防がれるとは……」

 くやしがるモエギを前に、

「でもまあこっちも妖気がジリ貧だし、ここは撤退あるのみ! というわけでバイバ~イ」

 スズノはきびすを返してこの場を去ろうとする。


「お、おい! おとなしく神社に戻るって話はどうした!」

 とがめるような龍星の言葉に、


「すぐ戻るとかいついつまでに戻るとか、具体的な日時は言った覚えがないにゃ。というわけで、ほとぼりが冷めたころにはきちんと戻るにゃー。じゃあねー」

 軽く振り返って答えると、スズノは裏口へと向かうべく大きく跳んだ。


 その瞬間、スズノは自身の瞳に映る足元の床に違和感をとらえていた。

(うにゃ? そういえば結界を解いてるはずなのになんで床は戻ってないのにゃ?)

 

 モエギのラストショットを受けて、スズノが床に倒れ込んだときも床の模様はいまと同じく、白と黒のチェス盤のような模様のままだった。

  

 疑問に答えが出るよりも速く、スズノは着地した。

 そのタイミングを狙っていたかのように、床が突然大きくうねりながら勢いよく後方へと動きだし、スズノはバランスを崩して前へつんのめる。


 態勢を大きく崩すも、ネコ特有の身軽さで床との衝突だけはまぬがれたが、床はスズノが逃げようとした方向とは逆にゆっくりと動いていく。


「どういうことにゃ!?」

 床が動いていく方向を見てみれば、龍星と陽樹が黒と白で彩られた市松模様の大布を手元に引き寄せる動きをしていた。


「思ってたよりもうまくいったな」

「途中で風景が変わったときはあせったけどね」

「結果オーライだな」


 ふたりはシズカのチカラを借りてタイル床を模した布シートをトラップとして場内にこっそり敷いておいたのだった。


「動く床の意趣返しということで」

「逃げようとしなければ使う必要もなかったんだけどな」


「リュウセイ、ハルキよくやった」

 モエギが称賛の声をかけ、

「スズノちゃん、姫様には取り成してあげるからおとなしく神社に戻りましょうね」

 シズカがスズノを説得するように声をかける。


「いやにゃ!! お説教だけならまだしも、七天罰しちてんばつを使ったお仕置きが待ってるのに神社に戻るとかありえないにゃ!」

 スズノの言葉に、シズカは困ったようにモエギを見やる。


「仕方ないのう。それでは七天罰によるわしの仕置きはナシにしてやる。その代わり――」

「その代わり?」

「ここからは俺がお前に仕置きをする」

 いつのまにか龍星がスズノのすぐそばに立っていた。


 はっとなったスズノが身構えるよりも速く、龍星は素早い一撃を繰り出した。

 炎とともに軌跡を描く一撃をすんでの所でかわし、スズノはおそるおそる龍星の手元を見る。


 その手に握られている炎天えんてんはそれまでのハリセンの姿でなく、赤い炎のような気をまとったひと振りの直刀ちょくとうの姿をとっていた。


「ひいいぃぃっっ! な、なんで、ダーリンが炎天を真の姿で使えるのにゃっ! 神司だからとはいえ、刀気や神力だけでなく体力、気力も底をついてるはずなのに!!」


 驚愕を隠せないスズノに、

「ああ、お主は夏祭りの夜に山におらんかったから知らぬじゃろうが、炎天はリュウセイのことが至極気に入っているようでのぅ……その炎天の前でリュウセイにあれだけのことをしでかせば、炎天も真の姿となってお主を焼こうとするわな。まあ、あとリュウセイが立っておるのは根性というか意地や胆力の賜物たまものじゃろうて」


「ハルとクーコさんの力添えあってこそだけどな。まあそういうわけだから、オレの怒りも上乗せした炎天の天罰を食らうがいい」

 炎天が龍星に応えるかのように、その刀身にまとった炎をより波打たせる。


 龍星と炎天のタッグによる怒気というよりは殺意に近い気の波動を目の当たりにして、

「あそこまでの鬼気迫るほどの気迫を『ケン』で消してスズノに不意打ちを仕掛けるとはいやはや大したものじゃな」

 感心した様子を見せるモエギとは対照的に、


「にゃー! シズカっち助けてにゃ!!」

 スズノは悲鳴じみた声を上げてシズカに助けを求めるが、


「ごめんなさいね。リュウセイ様には返しても返しきれないご恩があるので、スズノちゃんのチカラにはなれないの。というわけで――」

 シズカはスズノの頼みをにべもなく断り、


「あきらめて」

 にっこりと微笑む。


「にゃーっ!!」

 悲鳴をあげたスズノに向けて、龍星が炎天を振るい、スズノの胴を薙ぐように一閃した。

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