31、このこ、ネコのこ、オトコのこ
店内が冷え切った空気と重苦しい沈黙に包まれる中、
「い、今なんて言った?」
わななくような声で龍星が尋ねる。
「刀気は間違いなく奪ったのに、神気も妖気もこれといってパワーアップした感じにならないにゃ」
「そのあと」
「手順は間違ってないはずなのに」
「それのあとだ!」
「うまくいかないのかにゃ?」
「その少し前……ってわざとやってるだろ!!」
「はいはい、同性同士のとこを聞きたいワケね」
あっけらかんとした口調で、スズノが対応する。
「ど、同性……?」
スズノとモエギ以外の面々が異口同音に言う。
「同じ名字……」
「それは同姓」
「恋人がひとつ屋根の下……」
「それは同棲」
「電気のケーブル……」
「それは銅製で銅線」
「じゃあやっぱり、この場合は……」
「同じ性別を意味する同性にゃ」
ある程度ボケとツッコミを繰り返したあと、スズノがにっこりと微笑む。
「このスズノこと鈴乃織富能更狸は男性格というかオス猫の妖怪なので、誰がなんと言おうと人間で例えると正真正銘の男じゃ」
と、モエギが説明する。
「主任さんって男のヒトだったの!?」
「いやヒトではないでしょ」
「というか、男ならなんでメイドの格好を?」
「夏祭りには巫女さんの格好をしてたはずだし」
「女装が趣味だったりとか?」
女子たちの視線と疑問がスズノへと向けられる。
龍星とのキスのあと、スズノの顔つきや背丈はやや大人びたものへと変わっているが、それでも依然として少女にしか見えない。
注目をうけたスズノはひらりと踊るようなポーズをとって、
「ボクの可愛さを引き立てるのに、女の子が着る可愛い服がちょうどいいからだよ。可愛いボクが可愛い服を着て、より可愛くなるんだから着ない理由がないよね」
「それにオトコが女の子の服を着てはいけない、なんて法律ないし。まあそんな法律があったとしても、ボク妖怪だから適応外だし。っていうか、そんな面倒な決め事があっても端から守る気ないし」
当然といった態度でスズノは答える。
もとから中性的な容姿かつ声音ではあったが、その性別が明らかになった今でも『少年』ではなく『少女』としか認識できない。
「ダメかも……全然アタマが追いつかない……」
「処理しきれないというか脳がバグってるというか」
「目で見ているかぎり、女の子にしか見えませんからなあ」
「いいよ~、もっとほめて、もっとほめて」
少女たちの戸惑いすら称賛であるかのようにスズノははしゃいでみせる。
その素振りだけでなく、ここまでの立ち居振る舞いのどこにも男性という事実の片鱗を読み取れない。
そんなスズノを見ていた陽樹は、
「そうか、シズカさんと違って『天地がひっくり返ってもフクマに取り憑かれることはない』ってヒメ様が言っていたのは、猫の巫女さんが男だったからなんだね」
「まあそういうことじゃな」
「ということは……あとひとりの巫女さんも……」
「ああ、カガチは正真正銘の女性格じゃから安心せい。伊達にわしの下にいながら姫は名乗っておらん」
「えっと、つまり……ネコさんチームを率いてた巫女さんは男のヒトだったってわけ?」
戸惑う空子が口にした問いに、
「そういうことだね」
陽樹が答える。
「え……ちょっと待って。じゃあその……いまのキ、キスシーンって……お、男の人同士だったってこと……?」
空子が困惑したように呟き、顔を赤くする。
陽樹が気まずく沈黙するいっぽうで女子たちは、
「そういうことになるのかな……」
「そういうことにしかなりませんでしょ」
「この場合は有りということで○をかかげるべきか、それともナイスカップリングということで×を×として掲げるべきか」
「いや、その……主任さんって男の人が好きというか、そっち系なの?」
「男が好きなのかと聞かれたらそういう系ではないと答えるにゃ。相手が誰であろうとお構いなしにもらえる物はもらうし、奪える物は奪うのがボクのポリシーだから。それにほかの妖怪はともかく、ボクはヒトを性別なんかで選り好みしないにゃ。まあボクの心の中にある乙女な部分はダーリンのことをすごく気に入ってるけど」
スズノは龍星へと流し目をおくり、ウインクしてみせる。
それを受けた龍星は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
「これはオトコの娘って言っていいのかな?」
陽樹のつぶやきに、
「え? 確認するまでもなく男の子でしょ?」
困惑した状態のまま、空子が応じる。
「んー、どう説明すればいいんだろう」
陽樹が困った表情を見せていると、
「はいはいはい! わたしめに説明を任せてくだされ! オトコの娘というのはですな――」
和子が身を乗り出してきて、女の子と見間違えるような男の子という簡単な説明からスタートして、創作物に見いだされるオトコの娘の紹介にくわえて個人的な分類に解説、考察をまじえながら、一同に向け嬉々としてまくし立てる。
空子だけでなく他の女子たちも和子が繰り出す情報の量に圧倒される様子を見て、
「ソラちゃんたち、真剣に聞かなくていいからね」
陽樹が声をかけたが、
「その助言はちょっと遅かったかも……」
「知らなくてもいい情報を知ってしまった……」
「ワタクシの理解を超えていますわ」
「さすがにうちもついていけんかも……」
「知るは楽しみなり。新たな次元への扉が開けた、と言っていただきたいですなあ」
興奮冷めやらぬといった感じの和子に対して、
「いやあ、知識としても使い道がないですよ」
泉がやや呆れ気味に言う。
「たしかに、主任さんのような実物が目の前にいないかぎりは普段使うことのない知識ではありますな。でも世界は広いですからなあ」
和子が締めくくると、
「おやおや、この広い世界にはボクみたいな可愛い子が他にもいる可能性があるのか~。まあでも、たぶんボクが世界でいちばん可愛いだろうし、どんな子が来てもダーリンは渡さないにゃ」
スズノが後ろから手をまわして椅子ごと龍星を軽く抱きしめる。
龍星は抵抗する気力も失せたのか、力なくうなだれたままだった。
スズノが見せる一連の言動に、
「ヒメ様には聞きづらいことを聞くけれども……なんでこんなトラブルメイカーみたいな妖怪を神使として選んだの?」
陽樹は声をひそめて聞く。
「みたいではなくトラブルメイカーそのものじゃが、その分を差し引いてもこやつの甘言蜜語とでもいうべき人褒めの能力は捨てがたくてのぅ」
モエギは淡々と答えたあと、
「……あとはまあ、こやつをそばに置いておくと退屈はせんので、なにかしでかしたとしてもそれはそれで面白いじゃろうなあと思って」
ぼそりと小声で付けたす。
「絶対そっちが主だよね!」
「絶対そっちが主ですよね!」
陽樹と空子が息の合ったツッコミをしてみせた。




