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ふく×ふく2 決闘の舞台はあなたのおそば  作者: こっとんこーぼー(琴音工房)


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26/28

26、猫の手貸します

「そんなことができますの?」

 と言った瑠璃に続いて、

「そんなことができるのか?」

 龍星も驚きの声をあげる。


「なんでアナタが驚いてらっしゃるのですか」

「いや、その……夏祭りの日に女の子の服を戻したのは、ちびヒ……モエギヒメとクーコさん、えーと委員長のふたりであって、この罪深猫じゃないから……」

「罪深じゃないにゃ! ボクのキャッチフレーズは罪深ツミブカワイイにゃ!! それもカワイさがギルティなのであって、カワイイけれど凶状持ちってことじゃないにゃ! それはともかく、騒ぎにならなかった=服が戻ったってことは本当だから、そこは琥珀ちゃんにも聞いてみるといいよ、『フクマの憑いた服を脱がされたあと、服は元どおりになったのか』って」


 瑠璃が目を向けると、

「ん? まあオマケもついて服は元どおりにはなったんけど」

 琥珀があっさりと答える。


「オマケとは?」

「ん、いや、うち夏祭りのときはミニチャイナだったんけど、リュウセイさんとの勝負のあとはカンフーズボンがついてきたんよ」


「どういうことですの?」

 瑠璃は疑問をスズノと龍星にぶつける。


「女の子の服を元に戻していったのは主にモエギヒメ……萌木神社の神様なんだけど、その神様いわく『着たいと思ってる服』になるらしい」

 龍星はやや自信なさそうに答え、スズノは『それで合ってる』というふうにうなずく。


「なんでカンフーズボンを?」

 瑠璃が今度は琥珀に尋ねる。


「いや裾とか丈とか気にせずに蹴りを出せたほうがいいんかな、と考えてたりしてたらズボンがついてきた」

 のほほんとした琥珀の答えに、


「ハァ……想像以上にオトメですわね……」

 瑠璃がため息をつく。


「乙女かなあ?」

 市子と泉が思わず異口同音につぶやき、横に座っている琥珀に気を使うように慌てて口をふさぐ。


「……たぶんふたりが想像してるん文字じゃなくて、ルリさんが言ってるんのは『雄々しく闘う女』って意味での雄闘女オトメなんよ」


「そのあだ名はどうなのかと……」

 市子と泉が当然の感想を口にする。


「というか、桧之木さんにつけられてるあだ名のほとんどは女の子につけるあだ名じゃない」

 龍星が面白くもなさそうにつぶやく。


「えーと、失礼とは存じますが、他にはどんなあだ名を?」

 和子が聞き、

「うーん、ホワイトタイガーとか白虎びゃっことか。あとキング・タイガーとか戦車にちなむあだ名もあったりしてんなあ」

 琥珀が思いだしながら答える。


「なんでそんなあだ名が……」

 困惑気味の市子と泉に、

「うちの琥珀って名前に『王』とか『虎』とか『白』とかが入ってんのでそっから。で、勝負のときに今みたいに『女の子につけるあだ名じゃない』って言われてん」

 琥珀は照れたように笑う。


「そこでサラッと言えるのがデキる男子すぎる……」

「この優良物件にカノジョがいないってのはウソでしょ」

「やはりハレンチ剣士というのがネックなのでは……」

「そう考えると天は二物を与えませんなあ」

 女子たちは残念そうな視線を龍星へと向ける。


「なぜフクマに憑かれていたときの記憶が琥珀さんにはあるのですか?」

 瑠璃の問いに、

「ああ、うちはさっきの主任さんが言ってたタイプ分けでいうんと共生タイプだったからかもしれんね」

 琥珀はさらりと答える。


「だとすると、琥珀さんの願いは……」

 瑠璃が疑問を口にしかけたところで、


 スズノが手をパンと打ち合わせて、

「はいはい、話がちょっと脱線してるから元に戻すけど、いま重要なのは瑠璃ちゃんの服を元どおりにすることにゃ。『捨てる神あれば拾う神あり』ならぬ『脱がすダーリンあれば着せるボクあり』にゃ」


「その言葉の語感はともかく、本当に服を元に戻せますの?」

「元妖怪とはいえ、これでも神様の使いだからね~。まあちょっとやり方は違うんだけど、きっちり瑠璃ちゃんの格好を元どおりにしてみせましょう」

 スズノが猫の手グローブを外し、両手でこねるようにすると、グローブは色とりどりの糸が絡み合う大きな糸玉へと変化する。


「猫の手を借りたいならば、貸しましょうってね」

 スズノが糸玉を上へ大きく放り投げると、糸玉は空中でほどけて、お菓子の国と化している店内の壁や天井にカラフルな糸となって走りめぐり、そこにお菓子でできた『服』と『福』の文字が張りついていく。


「なんだか中華料理屋みたい」

「そう言われると舌がラーメンの舌になりますなあ」

「アタシはチャーハンかなあ」

 相変わらず呑気な会話をしている女子グループとは違い、


「まさか……」

 周囲を見渡して驚きの表情を見せた龍星に、

「お、その様子だとダーリンはこれからなにが起きるかどうやら知っているにゃりね。そうご存知『絶好調』の布陣にゃり」


「絶好調……?」

 女子全員がなんのことか分からずに尋ねる。


「色つきの糸で『絶』、周りを言葉で囲んで『調』、その真ん中に女子を据えて『好』。これで『絶好調』というわけにゃ」

 スズノがお菓子文字をつくりだして説明する。


 説明し終えると、スズノは宙に浮かぶお菓子文字の『絶好調』をつかんで、瑠璃へと向かって投げつけた。


 文字は空中でばらけて、カラフルなロープへと変わると、白布をまとう瑠璃の体を拘束し、締めあげるように巻きついていく。


「え? え!? ちょっとなんですの、これは!」

 動きを封じられる形になった瑠璃が叫ぶ。


「まあちょっとしたサービスにゃ」

「誰に対してのサービスですのっ!?」

 

 羽織っていた白布は瑠璃の体にぴったりと吸い付くように密着し、彼女のボディーラインをより強調させ、白布で隠れていた体つきが鮮明になっていく。


「おお。ハダカや下着でなくても、Hな描写というのはできるのでござるなあ」

 和子が感心したようにペンを走らせ、瑠璃の現状をスケッチしていく。

「ふむ、そこはかとなくいやらしいのが芸術点高いですな」


「そこ! なにをなさってらっしゃるの!!」

「芸術的探究心であり、向学心の発露はつろであるので、決してやましい気持ちではないのでどうぞご安心を、でござるよ」

「安心なんてできませんわ!」

 声を振り立てる瑠璃と対照的に、


 落ち着き払ったスズノは右手で握り拳をつくり、招き猫を思わせる動きで手首を上下に動かす。


 すると、瑠璃の体に巻きつくロープがいちどだけ妖しく光り、その輝きが消えると瑠璃は元のメイド姿を取りもどしていた。


「こ、これはいったい……」

「言ったでしょ、服は元どおりになるって。ボクはボクで招き猫っぽく、こーやって服を招いちゃったりすることが出来ちゃったりするワケよ」

 スズノが自慢げに言う。

 

「ふふふ、これでボクの罪は帳消しということで、ダーリンのことを思いっきりやっちゃってにゃ。あ、でも気をつけてね。ボクのチカラで再生したその服、ダーリンの一撃を受けたらまた脱げちゃうから」

 スズノの説明に、


「それくらいの緊張感があったほうが張り合いが出ますわ」

 瑠璃は毅然きぜんとした表情で答える。


「まあダーリンが瑠璃ちゃんの服をなんど脱がそうともボクのチカラが続くかぎり再生してあげるけど」

「つまるところ……ワタクシはなんどでもチャレンジができるわけですのね。まあ、そう繰り返し不覚を取るつもりはありませんが。この手で鶴来さまをコテンパンにできる機会があるというのは願ってもないことですわ」

 瑠璃が棍を軽々と振り回し、好戦的な態度をあらわにした。


「ということなんで、ダーリンも負けずにがんばってね~」

 イタズラっぽく笑うスズノへと、

「だったら、こっちの勢いが続くか、そっちのチカラが尽きるのが先か、試すまでだっ!」

 龍星はキッと向き直り、表情を引きしめる。


「いいにゃあ。その表情、ぞくぞく来るにゃり」

 スズノの笑みにどこか残忍めいた光が宿る。

 それは獣が獲物をもてあそぶ時に見せる光だった。

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