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ふく×ふく2 決闘の舞台はあなたのおそば  作者: こっとんこーぼー(琴音工房)


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25/28

25、いっぱい、ちにまみれる

 龍星の言葉の真偽を問うように、瑠璃はスズノへ目をやる。

「まあウソではないにゃ」

 スズノは同情するような表情を浮かべながら答える。


「でも琥珀さんだけでなく、他の女子にもこのようなはずかしめを与えてきたのでしょう? いったい何人の女子をその毒牙どくがにかけてきたのですか!」

「ど、どう答えてもとうてい信じてもらえないと思いますので、ノーコメントでおねがいします……」


「言葉を濁すということは、口にできぬほど数多くのハレンチ行為を……」

 瑠璃の怒りのボルテージが可視化されていなくとも分かるほどに上がっていく。


「……たぶんだけど、40人ちかくは優に脱がしてるにゃ」

 スズノが追い打ちをかけるように言い、琥珀以外の女子が(うわぁ……)という感じの視線を龍星へと向ける。


「デタラメではないでしょうね」

 瑠璃が確認するかのようにスズノに問う。


「夏祭りの日、山には40くらいのフクマ憑きたちの気配があったにゃ。それが全部消えて夏祭りが騒ぎにならず終わったことから考えるに、ダーリンが40人すべてを倒して……倒したというのはちょっと違うから言い直して――下着姿にしているはずにゃ」

 スズノが悪童じみた笑みを浮かべながら言う。


 龍星に同情してみたり追い込んでみたりと趣旨が終始一貫としていないのは、猫の気まぐれさを持つスズノが『展開が面白くなる筋道』を探っているからに他ならない。


「本当ですの!?」

 瑠璃が疑惑とも軽蔑ともとれる(やや軽蔑の割合が強い)視線を龍星へと向けてくる。


「も、申し開きをさせてもらってもよろしいでしょうか……」

「問答無用と言いたいところですが、被告人の言い分を聞くぐらいの度量は持ち合わせていましてよ」


「被告人なんだ」

「まあこの状況ではねえ」

「とりあえず話は最後まで聞いておくのが吉でしょうな」


「ひ、ひとりで成し遂げたわけではないので、40人は少し大げさかと……」

「でしたら、何人ですの?」

「え?」


「アナタが服を脱がした女子の人数を聞いてるのですわ」

「そ、それは……」

「な・ん・に・ん・で・す・の?」

 1字ずつ区切るようにして、瑠璃が問い詰めてくる。


「20人くらいだと思います……」

「20人でも充分多いと存じますが」

「ごもっともです……」

 消え入りそうな声で龍星が答える。


「いやあ、ひと晩で20人の女子のお相手とかダーリンやるね~」

「その言い方はなんか誤解を招くからやめろ……というか、そういう品性に欠けたところはやっぱりちびヒメの神使なんだな」

「くっ……なかなかディスり方がえげつない返しにゃ」

 スズノはしてやられたという表情を見せる。


 ここで、これまでの会話を聞いていた泉が、

「え? ちょっと待って……よくよく考えたら、アタシ、その夏祭りの日にあの神社にいたんだけど……いやアタシだけでなく学校の顔見知りも数人ほど……」

 さーっと青ざめたのち、顔を赤くしていく。


「あれ? たしか委員長も神社にいたって言ってたよね? ん? でも委員長は巫女さんでフクマをやっつける側なんだっけ?」

「その考えで合ってると思うでござるよ。鶴来どののハリセンが取り出せるアクセサリをどれみどのもつけていたのが証明になるかと」

「じゃ、じゃあ委員長もその……服を脱がす側に……?」

 市子が困惑の表情を浮かべる。


「どうでしょうなあ。そういえば、わが漫研部の後輩も神社で巫女のバイトをしていたはずでござるが、フクマや騒ぎについてはなにも聞いてはおりませんなあ」

「脱がされる側、脱がす側、どっちの側でもあまり触れたい話題じゃないからでは……」

「いやこんな面白い題材が目の前にあったら漫研所属として放っておくとは思えないでござるよ」


 瑠璃は少し考え込み、

「その日なら……ワタクシの妹も琥珀さんといっしょに神社のお祭りに出向いていたはず……ということは……ワタクシの妹も……。アナタという人は……どこまで人面獣心じんめんじゅうしん悪辣非道あくらつひどうなんですの……」


 これまで以上の殺気を発しながら、瑠璃はいつでも龍星につかみかかれるような態勢をとる。

 

「あー、そこは少し誤解があるにゃ」

 龍星と女子たちのあいだにできた険悪な雰囲気に、スズノが割って入る。


「と申しますと?」

「まず泉ちゃんはフクマ憑きにこそなってはいたけど、山を抜け出すのに成功したグループのひとりにゃ。だからダーリンには脱がされてはいないにゃ」

「え? それじゃあ、アタシは誰に脱がされたの?」

「言葉が足りなかったにゃ。泉ちゃんは脱がされてはないにゃ。泉ちゃんに憑いてたフクマはカガチが一撃で仕留めたからね」

 

 カガチという名を聞いて、市子が夏祭りの夜のことを思いだす。

「もしかしてあの夜、救護所に運ばれてきた子たちって……」

「みーんなフクマに取り憑かれてた女の子たちにゃ」


「カガチとおっしゃるのは?」

「ボクと同じく萌木神社の巫女で、まあ妖怪退治のプロフェッショナルにゃ」

「その方なら服を脱がさずにフクマを倒せるわけですわね、鶴来さまとは違って」

 トゲのある言い方で瑠璃が言う。


「それはその……腕前の差かと……」

「ヒトの身では到達できない領域ってのはあるからねー。さすがに鬼打姫オニウチヒメのカガチと比べちゃ、星右衛門せいえもんちゃんはともかくダーリンにはすこぶるが悪いでしょ」


「あの人、本当に鬼打姫だったんだ……って鬼打姫って本当にいたんだ……」

 不可解な言い回しになっている市子の言葉に、

「ん? どういうこと?」

 困惑した泉が疑問を呈す。


 市子が街の夏祭り会場でカガチとスズノのふたりと出会ったいきさつをざっと説明する。


「神社でチラシを配ってたアタシがいつのまにか街の広場にいたのはそういうワケか……全然そのフクマってのに取り憑かれていたときの記憶がないんだけど」

「大多数の女の子は取り憑かれていたときの記憶がなくなるからにゃ」


「つまりアタシはフクマに取り憑かれて、鬼打姫に助けられて、富津さんのトコロに運び込まれたと……妖怪はもちろんのこと鬼打姫も実在しますって……レポートの方向性変えたほうがいいのかな」

「でも、そういった事実がレポートに使えるかって考えちゃうと……」

「創作マンガや小説ならまだしも、提出するレポートとなると使えないでしょうなあ」


「あちらの話はともかくとして、『せいえもん』とおっしゃるのは?」

綺羅きら星右衛門。天久愛流の開祖で、大昔にフクマを封印するため、ボクらといっしょに戦ったお侍にゃ」

「その方も服を脱がさずにフクマを倒せるわけですわね。鶴来さまとは違って」

「まあ星右衛門ちゃんも始めっからうまくできたわけじゃないから、ダーリンの腕前は乞うご期待ってトコロにゃ」


 瑠璃は冷たい視線を龍星へと向け、

「つまるところ、鶴来さまがもっと鍛錬を積んでいたならば、ワタクシが下着や肌をさらすこともなかったわけですわよね?」

 

 ちくちくとしたセリフだが、瑠璃にとっての怒りの原点はメイド服をはじき飛ばされた恥辱にあるので話がそこに戻ってきてしまうのは仕方がない。


「いや、それもあるにはございますけど……こ、この妖怪猫が悪だくみをしていなければ……」

「にゃ! ダーリン、その言い方はずるいにゃ! それだとボクが悪人みたいにゃ!」

「実際悪いだろうが! お前がフクマを使った実験なんてしていなければ、このお嬢さんだってハズカシイ目に遭ってないだろ!」

「それはそうなんだけど、最終的に手を下したのはダーリンにゃ! だいたいこんな可愛いボクを盾にしようなんて、姫ちゃまに仕える神司としてハズカシくないのかにゃ!」

「神様の使いのくせにやったことの責任を取らずにいるほうがよっぽどハズカシイだろうが!」

 龍星とスズノがお互いに責任の所在を押しつけようとしていると、


「おふた方ともお黙りあそばせ! 主任さまが原因で鶴来さまが結果というならば……どちらも悪質不善あくしつふぜんなのですわ! 魔手にかかるうら若き乙女をこれ以上生み出さないためにも、邪知暴虐じゃちぼうぎゃく化身けしんたるアナタたちの毒牙を今ここで叩き折ってさしあげますっ!!」 

 悔し涙を目に浮かべつつ、物騒なセリフとともに、構えた棍の先端を龍星とスズノへと突きつける。


「このワタクシが一敗いっぱいまみれるのはよしとしても、他の女子に対してもこのような形で勝利を収めているのは到底よしにはできません……かくなる上はアナタたちの生き血をもって、まずはここら一帯血まみれに、いっぱい血まみれにするしかありませんことよ! そうですとも……おふたりに相応ふさわしいのは自らの血潮で満たされた赤き大海におぼれて沈む末路ですわ……」


 ゆらりゆらりと体を揺らしながら、

「そうと決まれば善は急げ。さっそく血の海の藻屑もくずへと変えてさしあげますっ!!」

 瑠璃は棍を引きずるようにして、ゆっくりとふたりのほうへ近づいていく。


「海の藻屑でも物騒なのに、血の海の藻屑とかなるともの凄い物騒だね」

「マンガのセリフの参考になりますな」

「血の海とか掃除や後始末が大変そうだからやめてほしいかも……」

「さらに物騒なセリフが意外なトコから来た」

「今のも使えそうなセリフですなあ」

 和子がメモを取っていく。


「そ、その血の海の藻屑とかの前に、とりあえずは服を着ていただければ……」

「ワタクシの服をはじき飛ばしたのは、どこのどなただと思っていらっしゃるのっ!!」

「それについては大変申し訳ありません! ですので、この性悪猫をご随意ずいいに!」

 龍星がスズノを盾にするようにして前へと押し出す。


「にゃーっ! 瑠璃ちゃんを脱がしたのはダーリンなんだから、ダーリンが血の海に沈むのが先にゃ!!」

「なに言ってる! 黒幕というかすべての元凶なんだから、すんなりとあきらめて藻屑となれ!!」

 ふたりがみっともない押し付け合いをしていると、


 瑠璃が棍でバシンと勢いよく床を叩き、

「おふた方とも処刑リスト入りしているので、このさい順番はどうでもよいのです」

 ぴしゃりと言い放つ。


「処刑は確定なんだ」

「まあこの状況ではね」


「さようなら、主任さま、鶴来さま。短いあいだのお付き合いでしたので、すぐにでもすっぱり忘れて今夜からぐっすり眠れそうですわ……それでは、もう2度と会うことはないでしょう、アデュー」


「アデューってよく聞くけど意味知らないんだよね」

「フランス語で、永遠とわの別れのあいさつですな」

「お嬢さまとフランス語って絵になりますね」

「ですなあ」

 呑気のんきな会話をしている女子たちとは裏腹に、


「待って待って、落ち着くにゃ! ダーリンの言うとおり、まずはその格好をどうにかするのが先にゃ! 瑠璃ちゃんも冷静に考えるにゃ! ダーリンがフクマを服ごとはじき飛ばしたとして、夏祭りに下着姿の女の子がたくさんいたらフクマとか関係なく大騒ぎになってるはずにゃ! それが騒ぎになっていないということはどういうことか考えるにゃ!!」

 前へと押し出されたスズノが懸命に瑠璃の怒りを静めようとする。


 瑠璃は足を止め、

「どういうことですの?」

「はじき飛ばされた服を戻す方法があるから騒ぎにはならなかったのにゃ! ボクなら瑠璃ちゃんの服を元に戻すことができるにゃ!!」

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