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ふく×ふく2 決闘の舞台はあなたのおそば  作者: こっとんこーぼー(琴音工房)


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23/28

23、奥義?

 高級感と気品のあるレースと花模様、そして黒いリボン飾りがアクセントとなっている白で統一されたスリーインワンのロングビスチェ、ショーツ、ガーターストッキングといった瑠璃の下着姿があらわになる。


「え、なんで服が?」

「サービスというかボーナスというか、勝者へのご褒美という感じですかな」

「違うと思います」

「さすが瑠璃先輩、あれってプリンセスブランドのハイクラスでお高い下着ヤツだよ」

「それはいま関係ないかも」

 女子たちが予想だにしていない結果に反応するなか、琥珀とスズノはどことなく結果を知っていたかのような表情を見せていた。


「きゃ、きゃああああっっ!!!!」

 少し遅れて自分の格好に気付いてけたたましい悲鳴とともに、背を向けてしゃがみ込んだ瑠璃とほぼ同時に、


「きゃ、きゃああああっっ!!!!」

 彼女の下着姿を見た龍星も悲鳴をあげ、慌てて視線を逸らす。

 さらに言うと、龍星のほうが声量がやや大きかった。


 下着姿の瑠璃はしゃがんだ状態で振り返り、背後に立つ龍星を睨みつけながら、

「ちょっとお待ちになりなさい! なんで、はずかしめを受けたワタクシよりも実行犯であるアナタの悲鳴のほうが大きいんですの!? 納得いきませんわ! 不条理ですわ! 理不尽(きわ)まりないですわっ!!」


 龍星は顔を赤らめたまま、視線を合わせることを避けて、

「お、お怒りはごもっとも……いや、まさかフクマがその服に取り憑いているとは思わなくて……そ、それはともかく、ま、まずはこれをどうぞ」


 未散花みさんがから白布を取り出すと、

「服の代わりにはならないけれど、それで覆い隠せるはずなんで……」

 極力、瑠璃のほうを見ないようにして彼女へと差し出す。


 瑠璃は不承不承といった面持ちで、棍を巧みに使って布をひったくるように受け取ると、バスタオルふうに白布を体に巻き付けて、


「これだけでは足りませんわ、もう1、2枚お寄越しなさい!」

「は、はい! ただちに!」

 瑠璃の要求どおりに龍星は白布を取り出し、渡していく。


「っていうか、なんであんなことに?」

 市子の疑問に、

「む、あれはおそらく……」

 和子が思わせぶりに呟く。


「なにかご存じなんですか?」

 泉の問いに、

「武術には詳しくないからマンガ的解釈になるけど、彼がしていた舞い踊るような動きの目的は瑠璃どのに対するかく乱だけじゃなくて、そこを攻撃すれば一撃で相手を戦闘不能に追い込める弱点、この場合はメイド服のかなめを探ること、そしてその一撃に込めるパワーを蓄積するための動きだったんでござるよ、たぶん」


「パワーをためるのはよしとしても、服が脱げちゃうのがよく分からないんですけど……」

「『常在じょうざい戦場せんじょう』」


 和子が口にした言葉の意味が分からず、

(錠剤? 1000錠? 浄財? 洗浄?)

 市子は頭の中で漢字への変換を始めるがどれもピンとこない。


 和子が続ける。

「武術の心構えとして『常に戦いの場にいる』と考えれば、この場においてメイド服はいわば瑠璃どのの戦闘服。それを破壊することはすなわち武装解除をするということ、命を奪うことなく相手をくじく効率的な手段」


「まあたしかに、姫堂先輩は戦えなくなってますけれど……」

「理由は分かりましたけど、仕組みがいまいち分からないですよね? それこそ扇子でちょこっと触っただけですよ?」

 泉が当然の疑問を口にする。


「おそらく蓄積されたパワーを扇子の先端に集中させてたはず。だから見た目にはちょっと触れただけに見えるけど、圧縮されたチカラの一点集中によって瞬間的に真空波を発生させたんだと思う。それもメイド服だけにダメージを与えるような絶妙なコントロールで」


「たしかに姫堂先輩の肌にはキズひとつついてない……」

「いや目の前で起きてることだけどさ、普通の人はそんなことできないでしょ」

「あの人なら……リュウセイさんならできるかもしれない……」


「妖怪退治のための剣術とのことですしな。一般人に不可能なことができたとしても不思議はナシ。しかし、まさにセンスをきわめた奥義おうぎ……!! おうぎ扇子せんすなだけに! 扇で扇子なだけに!!」

 和子が締めくくり、


「おおぉーっ」

 ギャラリーの女子たちがパチパチと拍手を贈る。


 会話の一部始終が聞こえていた龍星だが、

(全然違う! 天久愛流にそんな奥義とかないし、そもそも真空波とかできないから!)

 見当違いの称賛を受けることで気恥ずかしくなっていく。


 龍星は、瑠璃が身につけているメイド服にフクマの気配はもとより妖気をいっさい感じなかった。

 だからこそ炎天がちょっと触れただけで、フクマ憑きの妖着ようきと同様に、彼女の服が消し飛んだのは予想外の異常事態と言ってよかった。


 ただそんな龍星の事情は瑠璃にとっては関係ない事柄なので――、


 瑠璃は憤懣ふんまんやるかたないといった様子で、

「まさかまさか未来の旦那様候補がこんなハレンチ剣士だったなんて……がっかりですわ、幻滅ですわ! しょんぼりしおしおですわっ!!」


 彼女の言葉に、

「旦那様? 誰が誰の?」

 龍星が思わず問いかける。


「当然、鶴来さまがワタクシの――」

 瑠璃は答えかけて、

「い、いまのは無しですわ!」

 ぼぅっと火が出るような勢いで顔を赤くして叫ぶ。


「あ、自分で言っちゃった……」

「まあ隠し通せるかどうかといった感じだったでござるし」

「それでも、いろいろと途中経過を飛ばしすぎな気はしますけど……」

「お互い今日初めて出会った同士だからねえ。ひと目惚れにしても話が急すぎる」

「スピード婚でござるな」


 龍星はスズノへと目を向け、

「……いったい彼女になにを吹き込んだんだ?」

「ボクはただ『琥珀ちゃんを負かした彼と手合わせしてみるのは悪くないと思うけどなあ。それに彼の前で恥をかいたままでいいのかな? 瑠璃ちゃんのデキるところを見せて名誉挽回しておいたほうがいいんじゃない?』って言っただけにゃ」


「それだけで?」

「そ、それだけじゃありませんわ! 主任さまが『あと場合によってはそれこそ惚れたり惚れられたりな間柄あいだがらになっちゃうかもね、なっちゃったりしてね』とかおっしゃるから!」

 より顔を紅潮させて、瑠璃が声を強くする。


「それならしょうがないね」

「しょうがないかな……?」

「主任さんは人をその気にさせるのが上手とはいえ、どうかなあという感じですなあ」

「そこそこカッコイイし、腕もそれなりに立つみたいだし、バイオレンスのやり取りも考えると、瑠璃先輩の気持ちは分からないでもないですけどね」

「もしかして試験の意味合いが主任と姫堂先輩で違ってたってこと?」

「この場合はそうなるでしょうなあ。瑠璃どのは将来を見据えた旦那様適正テストととらえていたのでしょう」

「なるほど」


「ワ、ワタクシの将来はこのさいどうでもよいのです! 肝心なのは今現在、鶴来さまの罪過ざいかの重さですわ! 一撃を入れれば勝ちとは申しましたが、このようなはずかしめまでを許可した覚えはございません! このようなハレンチ剣法、きっちりと断罪させていただきますわっ!!」

 白布をバスタオルやパレオ、マントのようにまとって露出部分の大半をどうにか覆い隠した瑠璃は、これまで以上の剣幕けんまくをもって龍星を睨みつける。


「いや待ってくれ! 天久愛流の看板と師匠と開祖の名誉にかけて、こうなった全責任は俺にある、ひとえに俺が未熟なせいで……」

 白布で隠れているとはいえ、いまだ瑠璃を直視することもできないまま弁解する龍星の言葉を遮って、


「分かっております! みなまでおっしゃらなくても結構ですわ! つまりアナタは『オレが本気で剣を究めていれば、今頃キミはあられもない生まれたままの姿をギャラリーの前にさらしていたんだぜ、オレの腕が未熟なのをありがたく思いなよ、お嬢ちゃん(ベイベー)』とでも言いたいのでしょっ! やっぱりハレンチではありませんかっ!! くぅ~、なんということでしょうか! このような生き恥をさらすことになるとは耐えがたい屈辱ですわっ!! ぷんすかぷんですわ!」


 育ちの良さから罵倒のバリエーションが少ないのにくわえて、怒り心頭のあまりか、語彙がだいぶ子どもじみたものになっているが、それにはかまわず瑠璃がまくし立てる。


「逆だっ、逆ッ! 剣を究めていれば服すら傷つけずに妖着を祓えてるってこと! それにオレが理想とする男子はそんな女の子を馬鹿にするようなことは言わないっ!! ん? 待ってくれ、だからなんでフクマがそのメイド服に取り憑いてたんだ? 妖気は感じなかったのに……」

 結局そこへと戻ってくる。


「こうなるって分かってたから『戦っちゃダメ』って止めたのに……ったく、ダーリンが天久愛流の剣士で炎天も使いこなせるって知ってたら、瑠璃ちゃんをけしかけたりもしなかったんだけどにゃ」

 スズノがどこか笑いをこらえながら、やれやれと言った口調で告げる。


「しかしまあ、ダーリンが天久愛流の使い手だったとはさすがに予想外にゃ……どうりで姫ちゃまが炎天を貸し与えるはずにゃ……ってことは、ダーリンとメガネの彼がフクマを封じていた要石を動かせたのも……」

「それは偶然なんだけどな、ヒメ様が言うには。っていうか、このお嬢さんにフクマを取り憑かせたのはお前か」

「まあまあ正解。70点ってところかな」


「フクマを捕まえるのが神使の役目なんじゃ?」

「まあそうなんだけどね、ちょっとフクマを使って試したいことがあってね」

「そういえば実験って言ってたな。フクマでなにをしてたんだ」


「ダーリンはフクマにもいくつか種類があるのを知ってる?」

「ヒメに聞かされた範囲でなら。寄生・共生・支配の3つでいいんだよな?」

「そう。そこでボクは4つめのタイプを生み出そうと思って」

「4つめ……?」

 と、龍星が訝しげな声をあげたところで、


「ちょっと、先ほどからフクマ、フクマっていったいなんのことですの!? ワタクシの知らない単語を繰り出してけむに巻くおつもりじゃありませんよねっ!!」

 蚊帳かやの外に置かれていた瑠璃がたまらずに口を挟んでくる。


「あ、ごめんね~。待ってて、いま説明してあげるから」

 スズノは瑠璃を筆頭に女子たちへざっとフクマの説明を始めた。


・フクマとは妖気の集合体からなる妖怪で、核の部分は人の欲望があるかぎり不滅のため封印されていた

・フクマは自身の一部、妖気をおもに十代後半の少女の衣服に取り憑かせて、周囲の人々から精気を奪う

・フクマは取り憑いた女子の願いや思いを暴走させるだけでなく、どんな手を使ってでも願望を遂行しようとすることがある

・取り憑かれた人間が神器や神聖なもので触れられることでフクマは祓われ、消え失せる

・ただし祓い手が未熟だと、女の子の着ている服もいっしょに消え失せる


 これらは龍星と陽樹がモエギから聞かされたことと変わらず、目新しいところはなかったが、女子たちにはほぼ未知の情報だったので、彼女たちは静かに聞き入っていた。


 話を聞き終え、

「――つまり、フクマとはワタクシたちと同年代の女子に取り憑く妖怪で、アマツヒサメ流はそれを退治する剣術、ただ使い手が未熟なので妖怪を倒すと同時に着ている服もはじけ飛ぶ。そういう認識でよろしいですわね?」

 瑠璃が女子たちを代表するように問う。

 言葉の途中、『未熟』のあたりからは龍星をジト目で見ながら。


「はい、そのとおりです」

 平身低頭に近い態度で、龍星が答える。


「真空波ではなかったでござるか。まあ現実的ではないでござるし」

「服に取り憑く妖怪とそれを退治する人がいる時点で現実離れしてますけどね」

「だけど、現に目の前で起きてる状況が妖怪のせいだと言われれば納得するしかないとして……そんなフクマとかいう妖怪なんて今まで聞いたことないよね?」

「地元育ちの自分でも、萌木神社にそんな妖怪が封印されていたとは聞いたことないですなあ」

「委員長からも特にそのフクマの説明とかなかったよね」


 戸惑いを隠せない女子たちを横目に、

「まあローカル、地域限定な妖怪っていうのもあるけど、ほかにも理由はあってね……ここでダーリンに質問、こんなふうにフクマが知られてないのはなんでだと思う?」

 スズノは龍星に問いかける。


(ここで俺に振られても……頭を使うのはハルの役割なのに……)

 龍星はそう思いつつも、これまでの経験、知識や記憶を総動員して、どうにかある結論へとたどり着く。

 それは自分なりの答えというよりも新たにわいてきた疑問だった。


「ヒメや神社、天久愛流だけでなく関わった人たちが秘密にしてきたから?」


 萌木神社の境内や要石の周囲には、フクマの名を記したものはなかった。

 多くの妖怪を退治してきたと話すモエギも、要石の話が出るまでフクマの名を出さなかった。

 天久愛流剣舞も妖怪退治の剣術がルーツにありながら、表看板おもてかんばんとしているのは神事・祭事での舞踏。

 龍星や陽樹、空子に聞き覚えがないだけでなく、地元の女子もフクマという名に心当たりを持っていない。


 これらの条件から、フクマの名前は意図的に隠されてきたと考えるのが自然だろう。


 龍星の言葉に対して、スズノは、

「ご明察。ただ断定でなく疑問形で聞いてきたのは理由が分からないからだね。秘密にしてる理由はいくつかあるんだけど、いちばんの理由はね――」

 もったいぶるようにして、そこで言葉を切った。

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