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ふく×ふく2 決闘の舞台はあなたのおそば  作者: こっとんこーぼー(琴音工房)


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22/28

22、決着

(なっ……!?)

 跳び越す、跳びすさるという選択肢があるのは想定内だったが、胸に膝を抱え込むような態勢で大きく跳ぶとは思ってもいなかった。

 武術としての跳躍ではなく、あきらかに舞踏としての跳躍。


 足を払って倒すための大振りだったことにくわえて、その動作の意図するところが読めず、瑠璃はとっさに次の行動へと移るのが遅れた。


 だが、着地した瞬間の足元を狙ってふたたびなぎ払えばいいだけのこと。

 瑠璃は龍星の着地の隙を見逃すまいと、集中力をこれまで以上に高める。

 タイミングを合わせることだけを考えると、腰を支点として、棍の揺り戻しを仕掛ける。


 神経を研ぎすませているせいか、相手の動きだけでなく自分の動きでさえもゆっくりと感じられる。

 しかしなんの問題もない。目はしっかりと相手をとらえ、体のほうもしっかりとこちらの考えに追随している。

 


 着地した龍星が振り返る――というよりも振り向きながらの着地を見せる。

 跳んだ瞬間から振り向くことが決まっていたようだ。


 その口元に横にした扇子をくわえているのを見て、

(なんで口に? それにもう片方の扇子は……!?)


 行動の理由が分からず理解もできず、わずかながら判断が鈍るが、着地を狙うと決めている棍の動きは鈍らない。


 龍星はもう片方の扇子を平手にした手の親指で拝み箸のように挟み込んでいた。

 十字に受ける形をつくり、棍を受ける気だろうか。

 だとしても、残る一方を口元にくわえている理由が分からない。

 理由はあとで問いただせばいい。いまは棍で打ち抜くのみ。


 だが――。

 着地した瞬間、龍星はもういちど素早く跳んだ。

 それは棍をかわすためというよりも、瑠璃に近づくための跳躍だった。

 

 龍星が瑠璃のほうへと扇子を持つ手を伸ばす。

 一撃を届かせるつもりならばだいぶ距離が足りなかった。

 

 距離をかせぐには足りない2度めの跳躍と伸ばした腕。

 彼のとった行動の真の目的が分かったのは、すぐそのあとだった。


 龍星は片方の空いた手も伸ばし、瑠璃の顔の高さで、柏手のように両手を打ち合わせた。

 清らかながらもどこか乾いた音色が響く。

 相撲にある技のひとつ、猫だましだ。


(こしゃくな真似を……)

 挙動をなにひとつ見逃すまいとしていたのがあだとなり、瑠璃は反射的に目をつむってしまう。

 だが同時に、後ろに素早く飛び退いて、縦に構えた棍で正中線を守る。

 目をつむってしまったものの意識はまだ周囲に向いている。

 気配を察知すればそこに打ち込むのみ。


 ほんの一瞬、文字どおり1回の瞬きがここまで長く感じることはそうそう無かった。

 ここでもし一撃を食らってしまえば、そこで終わってしまう。

 それではあまりにも口惜しいというか面白くなさすぎる。

 なんでこのおよんで、こんな手を――、


 はやる気持ちとともに目を開いて視界を取り戻すと、目の前に構えた棍の向こうに鮮やかな赤と黄色をともなう炎の華模様が広がっているのが見えた。


(!?)

 視野を埋め尽くすそれには見覚えがあった。

 赤、黄色、朱色。渦巻くように描かれた番傘の模様だ。


 瑠璃が目を閉じた一瞬を逃さず、龍星は扇子を番傘に戻し、彼女の眼前に死角をつくったのだ。

 だが瑠璃はそんな二段構えの目くらましにおくすることなく、次にとるべき一手を計算し始める。


 これまでハリセン→木刀→番傘→扇子と形を変えてきたのを見てきた。

 いや番傘から扇子へと移行する前に、いちどハリセンに戻している。

 そのことからも理屈として不可逆ではないというのも分かる。


 ただ武器として変化させられるのならばもっと有利に働く時点があったはず。

 それにもっと有利な武器にも変えられたはず。

 ここから別の武器へと変えてくる?

 そもそも傘を目くらましに使うのならば、猫だましの意味は?

 なぜ猫だましで目を閉じたときに仕掛けてこなかったのか?

 この状態からどう仕掛けてくる?

 このまま傘でくるのか、別の武器へと変わるのか。


 相手がとる行動のひとつひとつが次への思考を妨げるノイズになる。

 それでも集中力はいやというほどに高まり、脳と肉体は相手に反応すべく待機し、両眼はしっかりとこれまで同様に相手の挙動を見逃すまいと力がこもる。 


 瑠璃の目の前に広がる番傘が回転し、燃え上がる車輪のように映った。

 

 傘を回転させるのは前にも見ている。

 ではここからどう出てくるのか。

 そのまま前へと押し出してくるのか。

 その場合、こちらはどう動くべきか。


 見ていると、渦を巻く炎は徐々に花がしぼむようにゆっくりと小さくなっていく。

 相手が回転させたまま、傘を閉じていっているのだ。

 細く鋭い炎の穂先がきりもみながら瑠璃へと迫る。


 回転させたまま傘で突く気とみた瑠璃は反撃を試みる。

 迫ってくる傘は狙わない。

 傘を狙ったところで、すこし前と同じように軸をずらされて終わりだろう。

 ならば狙うは傘ではなくそれを操る本体。

 

 瑠璃は逆袈裟切りに斜め上へと棍を振りあげる。

 これならば跳躍されても相手をとらえられるからだ。

 傘で防御を試みようともそのまま振り切るのみ。


 だが龍星は跳び上がることも傘による防御もせず、瑠璃が振り上げた棍をくぐり抜けるかのように、身を沈めて棍の描いた軌跡の下へと潜り込む。


 瑠璃はすぐさま棍を打ち下ろそうとしたが、龍星がいち早く立ち上がりながら背中で棍を大きく弾いて軌道を反らした。

 勢いがつきすぎた棍を引き戻そうとはせず、瑠璃は棍を手放して素手で龍星を突き放そうとしたが、相手の動きのほうがより速かった。


 棍を持つ瑠璃の手を広げた扇子で押さえ込みながら、龍星はもう片方の扇子の閉じた先端で、瑠璃の首元を飾るリボンタイに触れて軽く押す。

「あっ……」


「そこまで!!」

 琥珀とスズノが同時に声をあげる。


「一撃入れれば、こっちの勝ちでいいんだよな……あとできることなら、再戦したいとか言わないでくれると助かる」

 どこかやりきった表情に疲れをにじませ、息を整えながら、龍星が言う。


 瑠璃が無防備な足元を狙ってくるように誘導していたとはいえ、あまりにも無謀な賭けの連続だった。

 ひとつひとつを挙げてもきりがないし、それ以外に反省すべき点も多々ある。


(あとでハルとヒメに相談して、稽古内容の練り直しだな……)

 龍星は「ふぅ」とひと呼吸すると、瑠璃に向けていた扇子をおろす。


 瑠璃は観念したように、

「約束いたしましたもの……素直に負けを認めましょう。ただ再戦のほうについては確約いたしかねますわ」

 含みをもたせた称賛の笑みを浮かべたのも束の間、ぱしゅんという音とともに彼女の着ていたメイド服が跡形あとかたもなくはじけ飛んだ。

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