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ふく×ふく2 決闘の舞台はあなたのおそば  作者: こっとんこーぼー(琴音工房)


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12/28

12、違和感ばいおれんす

「えっと、リュウちゃんからどうぞ」

「たぶん同じ違和感だと思うけど……なんで、あの人――桧之木さんは俺たちや夏祭りのことを覚えてるんだ?」

「やっぱりそこが気になるよね。取り憑かれてた女の子たちはフクマに関する記憶をヒメ様に消されているはずなんだから」


「でも、彼女は疑いようもなく俺らのことを覚えてたぞ、どうなってるんだ?」

 龍星の問いに、陽樹は少し考え込んで、

「仮説はふたつ。ひとつはヒメ様の力がうまく機能しなかった。でもこれはあの祭りに来てた人たちが騒ぎ出してないから違うと思う。桧之木さんは共生タイプだったから例外ってことも考えられるけど……それよりも、もうひとつの仮説のほうがたぶんしっくりくるかな」


「そのもうひとつってのは?」

「……リュウちゃんにとってはちょっと怖い話になるんだけど、彼女はあのときの勝負が楽しかったからリュウちゃんや天久愛流のことを忘れずにいた。ヒメ様いわく『うれしい気分や楽しかったことの記憶は消えない』っていう話だから」

「できれば前者のほうであって欲しいよ……ん? まさかとは思うけど俺に会いたがってた理由って……」

「姫堂さんの想像とは違って、十中八九じっちゅうはっくリュウちゃんとの再戦を望んでるからだろうね」

「これも女難の内に入るのかな……」

「どうだろうね」



 一方、女子たちのほうは――、

 店の2階に向かった琥珀と瑠璃を追うように、カウンターの陰に隠れていた女子たちも成り行きを見届けるために移動していた。

 空子のみ「龍星たちを引き留めておいてほしい」との琥珀の頼みを引き受けて、ひとり1階に残る形になった。


 そうして女子一同が見守る中、休憩室にて向かい合うようにして座る瑠璃に、琥珀は龍星を店に呼んだ理由を説明していく。


 琥珀は、夏祭りの日に龍星と手合わせをし、結果的に負けることにはなったけど楽しかったこと、もういちど勝負をしたくとも名前と流派しか分からなかったところにこの店で彼の手がかりを得られたことと、詳細をぼかした説明を瑠璃に聞かせた。


 琥珀の話を聞き終えた瑠璃は気抜けしたかのように大きく息をすると、

「――つまり琥珀さんはただただ再勝負を申し込むために、彼を呼んだんですの?」

「そういうこと――だから恋とか愛とかが絡む話じゃないんよ」


「……なんか恋バナとは違ったみたいですね」

「バトル展開とは面白い方向ではありますがね」

 と話す泉と和子に向かって、

「……もしかしてルリさんだけでなく、みんなもその……恋愛とか告白とかそっち方面で考えてたん?」

 琥珀が尋ねる。


「瑠璃先輩の言葉じゃないけど……委員長の話に食いついたときの様子を見てれば……」

「乙女チックという言葉が似合うくらいに目をキラキラさせてましたからなあ」

「例の男子と今日会うって聞いた店主ご夫婦も『青春だねえ』って感じでしたし、たぶんですけど……委員長もおんなじ考えだと思います」


「え? じゃあ、その……うちが『リュウセイさんとの再勝負』でワクワクしてたんのを、みんな勘違いしてたの?」

「琥珀先輩には悪いですけど、お相手もそういうふうには考えてなかったと思いますよ」

「え? そうなん?」

「……そうやって驚くほうが、こっちにとって驚きなんですけど」

「だいたい琥珀どの、相手に再戦したい旨を伝えておらんでしょう」

「いやだって……うちのことを覚えてもらえてなかったら再勝負以前の問題だし」

「そこを伝えてないからか、あの人、勝負するような格好してないじゃないですか」

「あ……」


「とりあえず、あの人には事情をきちんと話すべきだと思います」

「お相手のリュウセイどのが琥珀どののことを覚えていたのが救いですなあ」

「琥珀先輩の問題はよしとして……次は瑠璃先輩ですね」

 歯に衣着せぬツッコミを受けて崩れ落ちてる琥珀の横で、同じように崩れ落ちてる瑠璃に皆の視線が向かった。



 2階で女子たちがそんな会話を繰り広げているなか、空子は龍星と陽樹のもとへ行き、

「なんかごめんね……まさかこんなことになるとは思ってなかった」

「クーコさんが謝ることじゃないさ。まあ思ってたイベントと違うのはたしかなんだが」

「そのことでソラちゃんにも聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「ちょっと待って。コーヒー持ってくるから」

 空子がドンブリと皿を片付け、カウンターでホットコーヒーを用意すると、ふたりのもとへ戻ってくる。


 空子はふたりの前にコーヒーを置くと、手近な椅子を引き寄せて、ふたりと同じテーブルについた。

「先に聞いておきたいんだけど、ふたりとも桧之木先輩と知り合いだったの?」

「桧之木さんのことはいちおう知ってはいる」

「夏祭りの日にフクマに取り憑かれてたからね」

 龍星と陽樹は答えながら、コーヒーにミルクと砂糖を入れてかきまわす。


 龍星は砂糖を少なく、ミルクは多めに。

 陽樹は砂糖もミルクも多めに。

 そして、ふたりともカップを手にし、気分を落ち着かせるようにコーヒーを口にした。


「いやらしいわね」

 唐突に空子が放ったひと言に、ふたりはコーヒーを吹き出しかけた。


「このタイミングでなんでその言葉が出てくるの?」

「だってフクマに取り憑かれてたってことは……その……」

 空子は身を少し乗り出すと、より声を細めて、

「服を脱がしたってことでしょ?」

「……まあ結果的にはそうなんだけど、すぐ布をかぶせたから直視や凝視はしてない」

「してたら許さないわよ。あれ? フクマが取り憑いてたってことは……記憶が消えてないとおかしいんじゃないの?」

「リュウちゃんとも話したんだけど、その点が不可解なんだよね」

「いちおう確認のために聞いておくけど、俺に会いたいって言ってたのは桧之木さんで間違いない?」


 龍星の質問に空子が首を縦に振ると、

「やっぱり記憶は消えてないみたいだな……となると、俺が呼ばれた理由は……」

「勝負するためだろうね」

「勝負って? さっき姫堂先輩が言ってた決闘と関係があるの?」

「いや、そうじゃなくて――」


 龍星と陽樹は、夏祭りでのフクマ騒動のさいに琥珀と出会った経緯と、彼女との勝負に龍星が勝利したあとに『また勝負できるといいね』と琥珀が発したことを空子へと話した。


「つまり先輩は鶴さんとの勝負が楽しかったから、記憶がそのまま残ってて、ここに呼んだのはもういちど勝負をするためってことなの?」

「確定ではなく、たぶんっていう仮定の話だけどね」

「鶴さんとしては、勝負を持ちかけられたらどうするつもり?」

「決闘にしろ再戦にしろ受ける理由がないし。というわけで、しっかりと断りを入れるつもりだから、さっきのふたりを呼んできてくれないかな?」

「了解。それじゃ、先輩たちを呼んでくるわね」



 2階では――。

 琥珀からの説明を受けた瑠璃は頭を抱えていた。

「琥珀さんの目的が彼との再戦だったとなると、ワタクシは……」

「思い込みでお客さんに決闘を挑んだってことになりますね」


「どう取り繕いましょう……そ、そうですわ、まずは謝罪のために菓子折かしおりを買ってきませんと」

「そこまでしなくても……」

「ふつうに謝るだけでも大丈夫だと思いますけどね」

「そういうわけにはいきません。ワタクシがしでかした過ちは姫堂家の不名誉、ひいては姫堂グループ全体の不名誉ということになりますわ。そうなると……やはり謝罪会見の形で『このたびは関係者のみなさまに多大なご迷惑をおかけし、大変申し訳ありませんでした』と、誠心誠意をもって頭を下げる以外ありませんわね」

「じゃあ、先輩が頭下げるのと同時にお店の明かりをチカチカさせて『※フラッシュの点滅にご注意ください』ってヤツやりますね」

「それはやらなくてもいいのでは……」

「怒ってない相手まで怒らせることになりそうですなあ」


「なぜだか違う方向で面白いことになっているようですね」

 との楽しそうな声に一同が目をやると、バイトの主任である織富が休憩室の入り口でひょいと顔をのぞかせていた。


「だいたいの事情はそれとなく聞かせていただきました」

 と、織富が部屋へ上がり込んでくる。

「主任様、ワタクシはどのようにすればよろしいのでしょう?」

 すがるように尋ねる瑠璃に、

「会見を開く必要はありませんが、自分のミスについて謝罪するという行為は大事です。今回の場合は――」


 織富はすっと姿勢良く立って頭を深々と下げると、

「このたびは当方の思い違いにより、お客様には大変ご迷惑をおかけいたしました。お詫びの品として、当店がティータイムに提供しているガレットをサービスさせていただきますので、ぜひご賞味くださいませ。よろしければ、ごいっしょにコーヒーのおかわりもいかがでしょうか」

 よどみなく言って、最後ににこやかな笑顔を見せる。

「と、こんな感じではどうでしょう」


「いいんじゃないすかね」

「これなら納得してもらえると思います」

 女子たちが感想を述べるなか、瑠璃は織富の言葉を一言一句もらさず記憶するように小声で反復していたが、

「……も、もしそれでもこじれてしまったらどうすればよいのでしょう?」

 不安そうに織富に尋ねた。


「こじれようがないとは思いますがなあ」

「あのふたりならそんなに事を荒立てない印象がありますけど」

「委員長に仲介に入ってもらうのも手かもしれません」

「うちもついていってあげるんで、そんなに身構えなくてもいいんと違う?」

 女子がそれぞれ意見を述べるのをまとめるように、


「ごたごた言ってくるようなら、こちらにお任せを。『快刀乱麻かいとうらんまつ』との言葉もあるように、こじれたときにはチカラで解決するのが一番。チカラこそパワー、真心や誠意よりも最終的に物を言うのは腕力、暴力、バイオレンスです」


「それはさすがにダメなのでは……」

 一同が言葉を失うなか、

「腕力、暴力、バイオレンス……最終的には腕力、暴力、バイオレンス……」

 瑠璃がぶつぶつと口の中で呟く。

「いや、そっちは復唱しなくていいんから」


「さて謝意を見せるのならば早いほうがよいでしょう。善は急げ、早速お客様のもとへ参りましょうか」

 と、織富に率いられるようにして、女子一同は階下へ移動する。


 1階に下りたところで、瑠璃と琥珀を迎えにいこうとしていた空子と出くわし、

「どれみさん、いいところに。みねおらさんとたびーさんがお客様に謝意を示す運びになりましたので、よろしければ仲介をお願いできますか?」

 織富の頼みに、空子はもとよりその心づもりと伝える。


 そうして女子一同は店内へと移動し、

「では、われわれはカウンターで見守りますので」

「先輩、がんばってくださいね」

「こじれてもバイオレンスで解決できるので大船に乗ったつもりで」

 織富とともに和子、泉、市子はカウンターの陰に身を潜め、みねおら(瑠璃)、たびー(琥珀)、どれみ(空子)の三人は、龍星と陽樹のテーブルへと向かう。


 ふたりのもとへと到着すると早速、

「お客様、このたびは大変申し訳ありませんでした!」

 瑠璃が深々と頭を下げ、

「……こ、このたびはワタクシの早トチリにより、お客様には大変ご迷惑をおかけいたしました。お詫びとして、コーヒーのおかわりをサービスさせていただきますので――」

「……ルリさん、コーヒーはもともとおかわり自由だからサービスにはならんよ。落ち着いて。主任さんの言葉を思いだして」

 瑠璃の横で同じように頭を下げている琥珀が小声でささやく。


 ミスを指摘された瑠璃はあわてふためきながら、

「え? あ……そ、その……よ、よろしければ、当店がティータイムに提供しているバイオレンスもご賞味いかがでしょうか――」

 勢いのまま言ってのけた。


「ちっがーうっ!!!!」

 カウンターの後ろで聞いていた女子たちがいっせいに立ち上がって叫んだ。

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