第一話 ひとのきもちはわからない
「なんだ!?」
声が奥から聞こえた。だが、満身創痍のルヴィの耳にはその言葉は届かなかった。人間が近づいてくる。その手には刃物が握られていた。殺されてしまう。生きたい。
その一心でルヴィは声を出した。
「ちか.........づくな........にんげん.......」
だが、満身創痍の体から発された声は人間には届かなかったようだ。このままでは殺されてしまう。そう思い体を左右に揺らしたが、その行動は虚しくも意味を成さなかった。有無を言わさずに人間が近づいてくる。
ルヴィは恐怖に駆られた。また王国に戻されてしまうのではないか。はたまたこの人間に殺されてしまうのではないか。そんなことで頭がいっぱいになった。
———刃物が目の前まで来た。ルヴィは死を悟り、静かに目を閉じた。
「.................?」
何かに支えられた。ほんのりと温かみを感じ、何かが規則的に動きリズムを作っていた。ルヴィは慣れない感触に恐怖を覚え、恐怖のままに暴れた。
「おろせ.........ころさないで.........やめっ........」
そこで視界が遠のいた。ルヴィは限界に達し、深い眠りについた。
ふわふわする感覚。空を飛んでいるようだった。夢心地だった。ずっとこのままでいたい。
だが、その気持ちは長く続かない。脳裏によぎるいやな記憶———
町は破壊され家は燃やされた。父も母も人間族によって殺され、ルヴィは王国へ連れ去られた。
食事は満足に出ない。不満があったら殴る蹴るの暴行。そんないやな記憶が頭を埋め尽くした。見たくない一心で手で目を覆った。だが、頭に直接響く怒声、罵詈雑言。
「やだ.........いやだいやだいやだ.........」
目をぎゅっと閉じ、手で耳をふさいだ。すると遠くから声が聞こえた。
......か ............丈夫か
「大丈夫か、?」
ルヴィは目を開けた。身に覚えのない視界。太陽の光がルヴィを明るく照らす。
なぜ知らない部屋なのか。そんなことを考えていると、人間が質問を問いかけてきた。
「君はいったいどこから来たんだい?名前は言える?すごい酷いケガだった。止血をしなかったら死んでいたぞ。」
「...............」
「......話せるかい、?」
「...............」
ルヴィは怖かった。信用も何もできない人間と対話などする気はなかった。人間はぬいぐるみを持ってきたり、ボードゲームのようなものを持ってきたり、綺麗なお花を持ってきたりしたが、ルヴィは恐怖に支配されて行動はおろか目線すら合わせることができなかった。
「よっし、いっぺんやってみますか。」
そういうと人間はそそくさとドアを開け外に出て行った。少しすると人間は何かを持って戻ってきた。
「........にく!」
「......食うか?」
「................」
「......食わないのか?」
「........たべる」
いくら信用していない人間であっても飢えにはかなわなかった。
すると遠くに行ってしまった。目の前の肉が遠のいていく。すると、奥から何かを切る音が聞こえた。
ルヴィは耳を覆い、また目をつぶった———
少しして音がやんだ。恐る恐る目を開けると、そこにはお肉が山のように積まれていた。ルヴィは目を輝かせ、人間のほうを向いた。
「......ぜんぶるびの?」
「んなわけあるか。一緒に食べるぞ。」
互いに向き合いながらお肉を食べた。いつ振りかもわからないまともな食事。ルヴィは無我夢中に食べていた。
目の前のお肉が骨だけになり、食事が終わった。すると、人間から再度質問が飛んできた。
「......名前は?そして、どこから来たんだ?」
「......るび...........おしろから.........にげてきた.........」
「城って、まさかデリス王国か?そっからひとりで、、ここまで?」
「..............にんげん。なまえ。おしえて」
「僕は夜守楓。 楓って呼んでくれ」
「...............」
まだルヴィは恐怖が取れきれなかった。それと同時に、人間について考えていた。
(........あのにんげん、なんだかへん)
ルヴィはそう思い、楓を目で追っていた。はじめて人間からもらった心配の感情。人間にも例外はいるのだと思った。すると、謎の箱を持ってきた。ルヴィはまた何かをされるのかと恐怖した。しかし、その言葉は思いがけないものだった。
「さあ。えっと、ルヴィ.....だっけな。まあいいや。ケガの治療だ。その傷痛いだろ。ほら、こっちに来て」
「..............え?」




