その“帽子”は売られるのがわからない
なろうラジオ大賞用小説第十五弾!
「おとしゃーん、私この帽子っぽいのが欲しいー」
娘におねだりをされて、商品が陳列された壁の中を覗く。
そこにあったのは『帽子型』と仮名が付けられた商品だった。
確かにそれは帽子のような形をしていた。
タグに書かれてる、商品の由来などを一応読んでみる。
なるほど。
この『帽子型』は奇跡的にこのような形になった変異種なのか。
しかも、なかなか高品質な商品として育っているみたいだ。
娘が欲しがるのも分かる。
正直に言えば、おとしゃんも物凄く欲しい。
でもってそれ故に、なかなか高額な商品だった。
いったい、我が家族の何を対価にすればこれが入手できるやら。
「お客さん、今がお買い時ですぜ」
するとその時。
商品を売っている店員が話しかけてきた。
「今を逃したら、誰かにすぐに買われちまいますぜ」
むぅ、確かにこの商品。
俺と娘が諦めたら、すぐに別の誰かに取られるくらいの価値がある。
今まで……何度も、同じ種類のモノを送ってきた俺だから分かる。
こいつぁ今買わないと、絶対に後悔する!
「ねぇ、おとしゃん~」
俺の腕を娘が引っ張る。
そしてその目を潤ませて、上目遣いで……くっ、その技をどこで誰に教わったんだい娘よ。まさか、友人と今日食事に行った妻か!?
「……分かった。買おう」
「へへっ。毎度あり♪」
くっ。
商品の対価として、俺の所有物の内の貴重なモノをいくつか支払わなければいけなくなった。
「わぁ~い♪ おとしゃんありがとー♪」
だが娘の笑顔が見れたのだ。
それだけの価値はあったハズだ……と信じたい。
「じゃあ、すぐに私が管理してる宇宙に送るねー」
そして、俺が相応の対価と引き換えに買った帽子型銀河は。
神様たる俺の娘が管理をしている、別の宇宙へとすぐ転移させられて――。
※
神暦XXXX年。
我々が存在する銀河を始めとする、この宇宙に遍く銀河は、別の宇宙を管理する神様が、何を対価にしてでも買い求めんとする商品となっていた。
ついでに言えば、宇宙と宇宙の間にある時空の壁は、ショーウインドウも同然のモノとなっていた。
もはや異世界転生者、そして異世界転移者だけではどうにもできないような危機に陥ってしまった別宇宙が増え始め……そしてそれ故に、三人寄れば文殊の知恵ということわざの銀河規模の知恵を、神様達は欲したのである。
果たして……神様の一柱たる娘が管理する宇宙へ転移させられた銀河系に住まう生命体はどうなるのか。
それは、もはや神様さえも分からない事柄である。