ブルーレイディスク数え幽霊の恋
以前掲載した短編を再編集しております
加奈子はこの家に生まれてきたことを後悔していた。
経済的には中流家庭の下の方だとは思うが、貧乏なことに根を上げたことはなかった。両親がとにかく厳しく、アニメなどはこっそり観るしかないという状況が嫌だった。
ある日、深夜アニメを観ていたら、父親に殴られたことがある。
「高校生なのでそれくらいはいいでしょ」
と彼女が反論すると、さらに拳が飛んできた。
ある日、家に帰ると、大好きだったアニメのブルーレイディスクがなくなっていた。すべて捨てたのではなく、目につくものを掴んで適当に捨てたような感じだ。
「一枚、二枚、ああ、九枚目のディスクがない!」
加奈子は悲痛に叫んだ。
彼女は呆然と家を出て、駅に行き、電車の列に並んでいた。
『線までお下がりください』
アナウンスが聞こえる。
(下がる? どうして……?)
加奈子はふらふらと前に出ていた。
(私の人生、もう引き下がれないよ)
彼女は線路に飛び込んでいた。
* * * * *
目が覚めると、加奈子は井戸の中にいた。
(私、死んだはずじゃ……?)
彼女は死に装束を着ていた。
(そうだ、ブルーレイディスクは……?)
辺りに探しても見当たらないので、井戸の上を行くことにした。どういう仕組みかわからないが、フヨフヨと浮遊して出ることができた。
「で、でたー! お化けー!」
井戸の近くにいた制服を着た女の子が、悲鳴をあげて逃げていった。
(ここはどこかしら)
加奈子は言葉を出そうとするが、うまく喋ることができない。
「まい、一枚」
どうやら、数を数えることしかできないようだ。
(わ、私、幽霊に転生した?)
* * * * *
加奈子は転生してから数日間、辺りを調査した。
ここがカザマ学園という高校だということ。自分の行動範囲は学園から約500m圏内で、それ以上は見えない壁で行けないということがわかった。
男子学生の声が聞こえてきた。
「い、いちまーい」
加奈子はおどろおどろしく井戸から登場した。本人の意思とは関係なく、人を驚かす機能がオートメーションで働くようだった。
「おや、綺麗な子だな」
学生は驚くことなく、彼女に声をかける。
「どう。今度、デートしない?」
気障ったらしく彼は言った。
「に、にまい!!!」
驚かせるはずの加奈子が興奮した。彼は物怖じしないうえにナンパをしてきたのだ。しかも美形だ。
「褒めてくれてありがとう。僕の名前は誠。よろしく」
「!」
イケメンだと言ったのが伝わり、彼女は動揺した。
「それ、どう、デートは?」
誠の誘いに胸が高鳴った。
(この人となら幸せになれるかも)
「ご、ごまい」
と彼女は返答した。
「ありがとう。それじゃあ、またくるね」
彼は颯爽と去っていった。
魔法少女に退治されるまで、加奈子は束の間の幸せを味わっていた。