ですわですわですわ
以前掲載した短編を再編集しております
「
「ですわですわですわ」
五月女麗は何度も同じ言葉を繰り返した。黒髪ロングの彼女は、所謂イイトコのお嬢様だ。
「なに? どうしたの!」
明るい声で小日向茜が聞いた。元気印の田舎娘オーディションがあれば優勝しそうな少女だ。
「実は、さきほど読んだ小説が、やたらと改行があって、混乱してしまったのですわ」
麗は頭を振った。
「へー。それってよくないの? 私、本をあまり読まないからわからない」
茜は首を傾げた。
「空白や改行があるのは悪いことではないのだけれど、適切ではない場面で使われているのはシチュエーションが混雑してしまうわ」
「そうなんだ」
「ウェブ小説では、閲覧者が読みやすいように、台詞の前後に空の改行――空行――をよく入れていることがあるのだけれど、私はあまり好きではないわ」
「読みやすいのならいいと思うけど、なんで好きじゃないの?」
茜はさきほどとは逆の方向に首を傾けた。
「読むときは、リズムよく読みたいというのがあるわ。台詞の前後にその空行があると、違和感のほうが勝って、ペースが乱されるわ」
「スマフォならスクロールすればいいんじゃないの? 読みやすいし」
茜は右手人差し指を上下させた。
「そう、それでいいの。流し読みする人の場合はね。でも、私は文章をじっくり読みたいから、やはり空行の違和感があるわ」
麗は眉を顰めた。
「そうなんだ。なるほどー」
茜は相槌を打っているが、本当に理解しているかどうか怪しいなと麗は思った。
「とは言うものの、空行のありなしは読者も作者も本人たちが決めればいいわ。強制するものではなくってよ」
「じゃあ、私たちがもし小説の登場人物だったとしたら、ここまでセリフの前後に空行はないのかな?」
茜は虚空を見つめた。
「そんな想像も議論も無駄ですわ」
「なんで?」
「だって、ここまでのセリフや地の文に見えていたもの全てが、自作自演で、丸ごとセリフですもの」
」