二度目の恋
「1年教棟……か」
中2にしては高い方の身長。
学校中の先生に目をつけられている茶色い長髪。
校則では髪の長さが肩を越えたら、ひとつかふたつに束ねなければならないのだが、めんどくさがる彼女は腰まである長さの髪を部活の時以外結っていない。
無愛想で恋愛にも無気力。協調性もなく、周りの人からは問題児扱いされていた。
杉浦沙彩。クラスに1人はいる問題児。
彼女は今日、日直。仕事として、社会科で使った資料を資料室に戻すことを先生に頼まれた。
資料室は2年教棟とは遠く離れた1年教棟。
沙彩はめんどくさがりながらも、「日直だから仕方ない」といった様子でキログラム単位にもなる資料を持って廊下を歩いていた。
「ヤッベ、約束あんの忘れてた……」
1年教棟からダッシュで玄関へと向かう少年、蒼井大翔。
学年屈指のプレイボーイで、付き合った女は数知れず……
推定10人に告白され、付き合っては別れ、女を泣かせ……の繰り返しで、2学期。
“別れても付き纏ってくるめんどくさい女は嫌だ”これが彼のモットーだ。
そんな大翔は、彼女と一緒に帰る約束をすっぽかして教室で学友と喋っていた……
「ったくコレ何キロあるんだよ……重いなぁ」
「え~っと今何時だ……?」
沙彩は資料に目をむけ、大翔は外にある時計を見る。
2人同時によそ見をしていたとき……
「「うわっ」」
2人同時にそう言い、社会科の資料が床全面に広がった。
「いってぇ……」
後ろに倒れた沙彩は、ゆっくり顔を上げる。
大翔も自分の所為なのに大分痛がっていた。
「……っと、スミマセン!俺の前方不注意で……」
大翔は沙彩の名札を見て、即座に謝った。
大翔の名札は赤。沙彩の名札は青。
赤は1年で青は2年……すなわち、大翔は先輩にぶつかってしまったのだ。
「いや、私も悪いし。前見てなかったし」
そう言いながら、沙彩は資料を拾い集め、まとめる。
自然と大翔もそれを手伝っていた。
「……よし、これで全部」
「あの、ほんとスミマセンでした」
再度謝る、自分より背の小さい大翔。
可愛らしく思え、沙彩は自然と笑みを浮かべた。
「拾うの手伝ってくれてありがとね」
沙彩はそう言うと、まとめた資料を持ち直し、1年教棟へと足を進める。
「……あ、そうだ。危ないから廊下走るのやめよーね」
「あ、はい……」
大翔は気の抜けた返事をすると、1年教棟の奥へと消えていく沙彩をずっと見ていた。
「もう大翔、おっそい!」
「ごめんな美幸。さっき……」
彼女の名前を呼び、大翔は1年教棟を見上げる。
……資料を片付けている、沙彩が見えた。
「あ、杉浦先輩だ」
「……杉浦先輩?」
「うん。杉浦沙彩先輩。2年の先輩でね、超無愛想で有名な……でも超美人だって有名な!」
超無愛想という美幸の言葉と、さっき見た沙彩の笑顔。
……大翔の胸は、自然と高鳴り、息苦しくなる。
俺、もしかして……恋に落ちた?
未知の感情に大翔は戸惑っていた。
だけど……どこか、幸せな気分だった。
それからの大翔は……沙彩を見かける度、胸を高鳴らせて笑みがこぼれ……
けれど、告白してくる女子と付き合っては別れてという繰り返しの生活。
でも大翔は、沙彩しか見えなかった。
―――……
2年後。卒業式の帰り道……交通事故に遭って、そんな生活も沙彩に対する感情も、アスファルトに吸い込まれていくように忘れてしまったのだが。
7月の補習授業……
『この日本文を英文にするのって、どうすればいいですか?』
大翔がそう聞き、こちらを見た美しい少女の顔。
2年の先輩で、長い茶髪。大きい目に白い肌。
大翔は一瞬にして見惚れ……
大翔が恋する相手は、何度記憶をなくそうと……ただ1人の女、杉浦沙彩なのかもしれない。
……二度目の恋に落ちた、瞬間だった。
二度目の恋、いかがでしたか?
ちなみに沙彩は今、もう3年前のことだから忘れているんでしょうか……
それとも、顔を覚えていないとか。
それはそれでいいけれど、もし覚えていたら何か変わったんじゃないかな、と思う作者・coyuki(笑)
本編の「海と想いと君と」も、クライマックスに向かって一直線!って感じです。
どうか本編もよろしくお願いします!