邪なる意志 ~住宅街での邂逅~
警視庁地下に存在する、とある資料保管室……我々『組織』が誇るオモイカネ機関本部は、今日も相変わらず暇である。
「おい、なんかいい話ねぇか?」
国民の血税を投入して配備された備品の革張りソファに寝転がりながら、鬼島警部が大倉刑事に話しかける。
「警部殿……できれば仕事をしてほしいであります」
「そうですよ、鬼島さん。まだ報告書を書き終わってないじゃないですか」
丁寧な口調で鳴海刑事が諭すが、鬼島警部の意志は固い。
「うっせぇな……今やろうと思ってたんだよ」
そのようにブツブツと何事かを話しながらソファから起き上がる鬼島警部の姿は、とても若い女性の仕草とは思えなかった。もっとも、彼女の性格を考慮すれば仕方のないことなのだろうが……。
その時、私の専用タブレットに通知が届く。画面を見てみると『その者』からの通信だった。
『事件だ』
いつも通り、メッセージアプリを模した画面には簡潔なメッセージが届けられていた。私も同じような文体で返信する。
『どこだ?』
そうすると、『その者』から詳しい住所が届く。どうやら、東京郊外にある住宅地のようだ。
『この場所は一軒家になっているが、組織が調査した結果、その家に住む家族がなんらかの怪異によって失踪したようだ』
『確かか?』
『詳しいことは分からない。しかし、怪異が絡んでいる可能性が高いため、君達に声がかかったんだ』
『分かった。捜査を開始する。通信終了』
私はタブレットをいつも通りミリタリー規格のショルダーバッグにしまい、メンバー達に声をかけた。
「よしっ! 行くぞっ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
鬼島警部が勢いよく立ち上がると、私達はつられるようにして本部を後にし、そのまま現場に向かっていく。
※
車を走らせて一時間ちょっとかけてやってきた住宅街には、ひっそりとした空気が立ち込めている。平日ということもあって、人の往来は少ない。
しかし、時折見かける住人の顔からは明らかな困惑の色が浮かび上がっていた。どうやら、この地域の住人達はすでに家族が失踪したことに感づいているらしい。それならば、そのような表情をするのは無理もないことだ。なんの前触れもなく、隣人達が消えてしまうなんてことになれば誰だって驚くに違いない。ましてそれが、一家総出ともなればなおさらのことだろう。
私はバッグから専用タブレットを取り出して、『その者』と交信した。
『今、現場がある住宅街に着いた。見た感じ、住人達の様子がおかしい。住人達は、すでに家族が失踪したことを知っているのか? 地元警察に連絡は?』
しばらくして、返信が届く。
『住人達ならば、まぁ、知っているというよりは何かあったのかと考えるだろううな。地元警察には知らせていない』
『なぜ通報しない?』
『初めに言ったように、これには怪異が絡んでいる可能性が高い。となれば、警察よりかは君達が適任だ。下手に素人に現場を荒らされてはかなわんからな』
『もし住人達が警察に通報した場合はどうする? 素性を隠して合同捜査か?』
『ああ。だが、なるべくそのような事態には陥らないように、こちらでも手を打っておく』
『分かった。引き続き捜査を続ける』
『よろしく頼む』
そのメッセージを見て私はタブレットをしまい、再び住宅街に目を向けるが、私達を乗せた車は住宅街から少し離れた、人気のない場所まで来ていた。
しばらくして車はとある一軒家の前で止まる。見てみると、この家は左隣は林となっており、右側には別の一軒家がある。
「ここのようだぞ、神牙」
大倉刑事が、ナビを見ながら言った。
「よし、それじゃ捜査するか」
鬼島警部がそう言って降りると、私達もつられるようにして車を降りる。大倉刑事だけは、車を付近の駐車場に停めるため、そのまま車で走り去っていった。
「見たところ、普通の一軒家ですね」
「まぁな。でも、家族も普通なのかは分からんぜ?」
「ど、どういう意味ですか?」
うろたえながら鳴海刑事が聞くと、鬼島警部はいたずらっ子のようにニヤッと笑う。
「そりゃあ、お前……代々続く黒魔術師の家系とか陰陽師とか――」
「や、やめてくださいよっ!」
「へへ、冗談だよ、冗談っ!」
……こちらは放っておこう。
それにしても……周囲を見渡してみるが、随分と静かな街だ……ふいに疑問を抱く――まるで、世界に自分達しか存在していないかのような錯覚を覚えるほどだ。
そんな時だった——―突如、目の前の建物が崩れ去る。土煙を上げて倒壊していく様を見た瞬間、全身に鳥肌が立った。そして次の瞬間、土埃の向こう側から何かが現れる。
それは……人のような姿をしていた。しかし、顔に当たる部分には黒い仮面のようなもので覆われており、口元だけが露出している状態だった。その姿を見た途端、私は無意識のうちに身構える。他のメンバーも同様だ。
「な、なんだ、こいつはっ!?」
「神牙さんっ! どうしますかっ!?」
鳴海刑事に叫ばれるが、私はそこで無意識のうちに取り出していた拳銃とナイフを構えながら、その怪物から目を離せないでいた。
今、我々の目の前にいる怪物……それは、かつて私が関わった『カタコンベのシャレコウベ』事件で出会った怪物達とそっくりの外見をしていたからだ。
だが、よく見てみると細部が異なる。その肉体を見ると程よい筋肉がついた女性のようで、頭部からは長い黒髪がなびいている。肌の色は青紫色で、黒い血管のような紋様が全身に現れていた。
「……アァァアアアァァッ!!」
「来るぞっ!」
およそこの世ならざるモノの絶叫と共に、それは私達に向かって突進してきた――私は咄嗟に拳銃を発砲した。
「グゥッ!?」
どうやら物理的攻撃は効くようで、それは頭部と胸部に銃弾をくらって少しよろめいた後、ドサッとアスファルトの道路に倒れ込んだ。
「か、神牙さん……」
「……」
動揺する二人のメンバーに対して、私はこの場からの撤収を指示して二人と共にこの場から走り去った。同時に、専用タブレットと普段使っているスマートフォンを取り出す。
『なんだ?』
『捜査は中止。捜査現場で怪異が出現。対処要請』
私は『その者』からの返信を待つことなく、スマートフォンで大倉刑事に連絡をとった。
「どうした、神牙?」
電話に出た大倉刑事に対して、私は捜査の中止と車でここから離脱することを伝えた。
「何っ!? それはいったい――」
事情を聞こうとする大倉刑事に早くするように叫びながら、私達は住宅街の道路を走り続ける。
途中で数人の仰天した様子の住人達と出会うが、気にすることなく走り続けて住宅街を抜けて大通りに出ると、ほどなく大倉刑事が運転する車が姿を見せた。
私達はその車に飛び乗り、情けないほど一目散にその場を後にした。
※
衝撃と畏怖を受けた一軒家から距離のある、警視庁の地下にある資料保管室……我々は、再びこの静寂と暗澹が支配する空間に逃げ帰ってきた。
「……それで、これからどうするんだ?」
ソファに座って、鬼島警部が力なく問いかける。
私は彼女に対して、あの怪物と失踪した家族はなんらかの関係があるかもしれないとだけ答えた。
それ以外に答えようがなかった。あの見た目……あれは間違いなく、『組織』がかつて極秘施設で開発していた生命体の特徴に酷似している。
だが、なぜだ?……なぜ、あの場所で私達の前に姿を見せた?……そう考えたが、答えはある程度決まっていた。というより、答えを聞くべき人物を私は知っていた。
私は専用タブレットを取り出して、メッセージを送る。
『知っていたのか?』
画面には、私が最後に送信したメッセージしか残されていなかった。私はその下の欄に、そのようにメッセージを送った。しばらくして返信が来る。
『報告は受けている。だが、私は決してあのような存在は知らなかった』
『死体は回収したのか? 倒壊した家の整備と周辺住民へのカバーストーリーの流布は?』
『死体は回収していない。というのも、工作班が現場に到着した時にはすでに死体はなかったそうだ。誰かが回収したのか、まだ生きていて、どこかに消えたのかは分からない。家の整備やカバーストーリーの方は問題ない』
『それで? 私達は今後も捜査を続行すればいいのか?』
『そうだ』
その文言に、私はなぜか怒りを覚えて、液晶画面を叩く指に力が入る。
『分かっているとは思うが、私の部下達を危険な目に遭わせるのはなるべく避けてほしい』
『そのことには、充分に気をつけている。ただ、今回の事件はこれまでと同様に怪異が絡んでいるがゆえに色々とイレギュラーなことが起きやすい。その点は、我々にもどうすることもできないということは理解してほしい』
『それは分かっている』
『では、捜査を続行してくれ。何かあれば、またすぐに知らせてほしい。現在、あの家に関するあらゆる物証を集めている最中だ。準備が出来れば、君達の部署へもっていかせる』
『了解』
そのメッセージだけ打ち込んでタブレットをしまうと、私はメンバー達に目を向ける。当然と言えば当然だが、皆とても疲れているようだ。無理もない。あのような事態は、ここしばらくは経験していなかった……精神的に参っていなければいいのだが……。
私は皆に、今日は自宅に帰ってゆっくり休み、明日から本格的な捜査を開始することを提案した。
「……嫌です」
私の提案に、鳴海刑事がボソッと呟くような声で返答する。
「神牙さん、言ってましたよね? 『行方不明者が出た』って……それって、あの家に住んでいるご家族のことでしょう?
だとすれば、今こうしている時間さえも惜しいです。あんな……奇怪な生物が出てくるような家で暮らしていた家族が、今どうしているのか考えると、居ても立っても居られませんっ!」
……こういう時の鳴海刑事の意志は、タングステンカーバイト並みに固い。
ふと、鬼島警部に目を向けると、彼女はポリポリと頭をかいて口を開く。
「…ま、あんなもん見ちまったらな。正直、アタシは神牙と違って家族はあの怪物に喰われたか殺されたかしたんだと思う。それでも…いや、だからこそ、今回の事件もぜってぇ解決してぇ」
…どうやら、彼女の意志も固いようだ。
「皆さん、ちょっとよろしいでありますか?」
「なんだ?」
いつの間にか書架の海にもぐりこんでいた大倉刑事が、数冊のファイルを片手に戻ってきた。
彼はそのファイルをソファのある場所に置かれた木製の長机の上にドサッと置くと、そのうちの一冊に手を伸ばしてパラパラとめくる。
「警視庁へ帰る途中、皆さんの話を聞いて自分は書架に行って色々と調べてみたでありますが……どうやら、過去に似たような事件があったでありますよ」
「どれどれ……」
そう言って鬼島警部は大倉刑事が持っているのとは別のファイルを手に取ってパラパラとめくっていくが、やがて両目をカッと見開かせた。
「鬼島さん?」
その様子を見て、鳴海刑事が声をかける。
「……見てみろ」
そう言う鬼島警部からファイルを受け取り、鳴海刑事は鬼島警部が見ていたであろうページに目を向けた。
「あっ!」
途端に、鳴海刑事は驚愕の表情を浮かべる。私は彼の横から、ファイルの中身を覗き見た――そこには、今朝我々が遭遇した怪物の姿が映っていた。
怪物はどうやら遠方から撮影されたようで、その画像には様々な文字や数字が書き込まれているが、画像の倍率を示す数字が、いかにその怪物が危険であるかを私達に否応なく教えてくる。どう考えても、市販のカメラやスマートフォンで撮られた画像ではない。
そして、それから数ページはその怪物の事について記されており、鳴海刑事は偶然目にした欄に書かれている文字を読んだ。
「バンシー……」
「バンシー?」
聞き覚えのない言葉に鬼島警部は首を傾げる。
「えぇ。そう書かれています。確か、スコットランドに伝わる女幽霊の一種で、人間の死を叫び声で知らせるのだとか……」
「そうなんでありますか?」
「う~ん……僕もどこで知ったのかは分からないんですが…確か、そうだったと思います」
「ふ~む……」
大倉刑事はうなり声をあげると、『ちょっと待ってほしいであります』と言って自分のデスクに備えられたパソコンに向き合い、キーボードを操作してネットに接続してから数十秒後――彼はこちらを見て再び驚いたような顔をする。どうやら調べものが終わったようだ。
大倉刑事の横からパソコン画面を見ると、そこには『都市伝説・妖怪』と書かれたページが開かれていた。そこには数多くのバンシーに関する書き込みがあり、中には実際にバンシーと思われる女性を見たという情報もあった。
だが、それらのコメントを参考にすると、どうやら目撃されたバンシーの姿形は、私達が遭遇した怪物とは姿形が異なるらしい。
これはどういうことだろう? この部署の書架に収められていた捜査ファイルの中にあるバンシーと呼ばれる怪物と、ネットの中にあるバンシーという怪物……両者は異なる存在ということだろうか?
まぁ、いずれにせよ、今回の事件にはかつてこの部署が捜査した事件で記録されたのと同じ個体か、少なくとも同じ系統の怪異が関わっていることが明らかになった。それだけでも、充分な進展だろう。
私は皆に、そのことを告げた。
「しかし、なぜ急に現れたのでしょうか? まさか、僕達の捜査が関係して――」
「まぁ、ぶっちゃけそうだろうな。行方不明になった家族がバンシーとどんな関係だったかは分からねぇが、あの家からバンシーが現れた以上、まったく無関係ってことはねぇだろ」
私も、鬼島警部の意見に賛成だ。
その時、私の専用タブレットに連絡が入る。『その者』からだ。
『待たせたな。あの家にあったほとんどの物品は、可能な限り地下倉庫の方に移動させた。捜査の参考にしてくれ』
『分かった』
それだけ伝えて、私は皆にあの家にあったものが運ばれてきたからみんなで調べることを提案した。
「え、もうですか?」
鳴海刑事の言葉に、私は頷いて見せた。この程度の事は、『組織』の力をもってすればたやすいことだろう。
「それじゃ、さっそく調べてみようぜ。どこに置いてあるんだ」
私は鬼島警部に、こことは反対方向にある倉庫と伝えた。
「おし、行くかっ!」
そう言って部屋を出ていく鬼島警部に我々もついていき、入り組んだ迷路のようなコンクリート剥き出しの廊下を歩いていく。
やがて、ある部屋の前で私は歩みを止めて見上げる。上の鉄製の看板には、『警視庁 地下物品保管所 三号室』と刻印されていた。『その者』が言うところの地下倉庫とは、たいていはこの場所の事である。
ここは、警視庁の一階からも地下駐車場からも離れており、他に出入り口の類もないため、人目に付きにくいのだ。
「ここか?」
私と同じように看板を見る鬼島警部は、私の返事も待たずに倉庫の扉を開ける。
「おぉ~、ホントにあるなっ!」
ギィッと音を立てて開いた扉の先には、壊れた家財道具と壊れていない物品が左右で分けられていた保管されていた。『組織』の回収班による丁寧な仕事に感謝だ。
私はすでにそれらの証拠品に手を付けている鬼島警部から後ろにいる二人の刑事に目を向け、さっそく取り掛かろうと言った。
「うむっ!」
「はい」
二人とも、やる気に満ちている。どのような怪異でも、物的証拠を前にすれば刑事と言う人種はやる気になるらしい。頼もしい限りだ。
その後、我々はどうにか証拠品の山から有用な物品を手に入れた。古い型のビデオカメラと、数本のテープと家族写真が入ったステンレス製の箱だ。というのも、ほとんどの家財道具や物品は壊れてしまっており、かろうじて手に入ったのはこれだけだった。
「どうやら、まともな証拠品はそれだけのようですね」
鳴海刑事の言葉に私は心底同意すると、一度本部の方に帰るように言った。
その後、私達は再び本部の方に帰ると、三人はさっそくビデオカメラやテープ、写真などを調べ始めた。
私は専用タブレットで『その者』に、『もう調べたので、残りは事件が解決するまでそちらで保管してほしい』とだけ伝えた。もちろん、奴は快諾してくれた。
「幸せそうな家族でありますなぁ」
「そうですね……早く見つけたいです」
写真を見ながら大倉刑事が呟くのに対し、鳴海刑事はビデオカメラをいじりながら答えた。
「あ、まだ電池が残っているみたいですよ」
「よし、見てみようぜ」
そう言って、三人はビデオカメラを中心に輪になるので、私もその輪に加わる。
ビデオカメラの画面はしばらく青一色だったが、それからほどなくして映像が流れた。見たところ、家族の様子を移した記録映像のようだ。
画面の中には二人の子供が映っており、男の子と女の子のようだ。男の子の方が年上なのか、女の子よりも背が高く、黄色の半そでシャツにベージュ色の短パン姿だった。女の子の方は白色のワンピース姿だ。
そのまましばらく、二人が仲良く人形遊びに興じている映像が流れるが、突然画面がザッピングすると、それまでとは打って変わって明かりのついていない部屋の中で照らされる、懐中電灯のものと思われる明かりが画面に映った。
「なんでありましょうか?」
「分からねぇ……」
突然の事に、私も含めてみんな驚きを隠せない。
懐中電灯とビデオカメラを持っている人物はかなり小柄なようで、だいぶ高い位置にあるドアノブを回して部屋を出ると、そのまま廊下を進んでたどたどしく階段を降り、風呂場に向かう。風呂場の扉は半開きになっており、中から光が漏れている。どうやら、明かりが点いているらしい。
そのまま、懐中電灯を持った人物は風呂場まで行って扉を開ける。するとそこは脱衣所のようで、風呂場に続く扉が開いていた。しかし、その隙間から人影が見える。
「え……?」
鳴海刑事から、そのような声が聞こえる。
懐中電灯を持った人物は、脱衣所にあったコンセントの刺さった古い型のドライヤーを手に取ると、そのまま風呂場に入るが、風呂の中にはダクトテープでぐるぐる巻きにされた三人の人間が映っていた。湯気が出ていないことから、彼らは水に浸されていることがわかる。
「ど、どうなっているでありますか?」
「さ、さぁ……」
動揺する二人の刑事をしり目に、懐中電灯を持った人物はビデオカメラを風呂場に設置されていた近くの棚に置いた。ちょうど、三人の姿が良く見える位置だ。
三人は少年と男性と女性のようで少年はさきほど少女と遊んでいた少年とそっくりだった。
三人はそれぞれ何事かを叫んでいるが、口にもガムテープを張られているためにその言葉を理解することは出来ない。
すると、当然画面の左側――脱衣所の方から何かが飛んできて風呂の中に着水した。
その瞬間――三人の身体は激しく痙攣し、ガムテープ越しに絶叫が聞こえてきた。
三人はしばらく叫びながら痙攣するが、やがてこと切れたのか、水と思われる液体で満たされた風呂の中でぐったりとする。そして、映像はそこで途切れてしまった。
「……とんでもねぇな」
「ま、まさか、行方不明になった家族ではっ!?」
「いえ、それは違うと思います。特徴が合致していなかったですから」
「ということは……この映像が失踪した家族の家から見つかったということは、その家族はこの殺人に関与しているということでありましょうか?」
「どうだろうな……」
鬼島警部が、顎に手を添えながら、考えるようにして言った。
私も、今のところは何とも言えない。この映像自体が、なんらかのフェイクである可能性も捨てきれない。私はそのことを皆に告げた。
「まぁ、これがフェイク動画であることを祈るが、それでも捜査はしなきゃならんだろうな」
「もしかして、バンシーが関わっているとか?」
「どうでしょうね……」
そのまま議論を続ける三人から距離を取り、私は『その者』と連絡を取った。
『至急。例の家族の家から持ってきたという物品の中から、ビデオカメラを発見したんだが、そのカメラに収められていたテープには殺人動画が映っていた。本物かどうかは分からない』
返信は、意外にもすぐに来た。
『確かか?』
『今言ったように、その動画が本物かどうかは分からない。そして、それに怪異が関わっているのかも分からない』
『なるほど』
『私は、捜査一課の応援を求める』
『いや、それはダメだ』
……その言葉を自分の中で消化するのに、私は少しばかり手間取ってしまった。
最近の我々と捜査一課の事件捜査における円滑なやり取りは、『その者』にも報告しているし、奴も知っているはずだ。
動画が本物か偽物かは不明だが、可能な限りと人材と資材を投じたいのがこちらの考えなのだが……。
『なぜだ?』
『初めに言ったように、この事件には怪異が絡んでいる可能性が高い。怪異によるものか人為的なものかが分からない段階ならばまだしも、君からの報告が正しければ、この事件は我々だけで解決すべきだ』
『正気か?』
『私はいつだって正気だよ。だから、何かあったらすぐに知らせてほしいと言っているんだ。適切な支援をするためにな』
『お前の言う怪異だが、過去にこの部署の人員が関わったと思われる事件ファイルが見つかったぞ。この本部の書架でだ』
返答に迷っているのか、それから少し経って返信が来た。
『言っておくが、私は何も隠していない。知らないことはあるだろうし、実際これまでもあったわけだが、私は全力で君達を支援してきたじゃないか』
そう言われると、何も言えない……いつもの事務的な文体と違う生々しい人間としての文章を見て『その者』もこの件には少なからずの不信感があるのだろうと推測する。だからといって、私が奴のためにできることはない。
『いずれにせよ、支援体制は盤石にしてほしい』
『もちろんだ。他には?』
『ない』
それだけ送って、私はタブレットをしまって目を閉じた。
どうやら、この事件は一筋縄ではいかないらしい……それはいつものことだが、『組織』が関わっているとなると、他のメンバー達にも危険が及ぶことになる。
「いずれにせよ、動画の解析は誰かに頼むとして、行方不明になった家族を探そうぜ」
「そうですね、僕も賛成です」
ソファの周囲では、いまだにメンバー達が議論していた……彼らを守る自信は、私にはない。それでも、やらなければならない。




