四字熟語1年分
俺はある日、福引券が貯まったから抽選会場に行った。何が当たるのかはよくわからなかったが、商店街で買い物をすると券が貰えたので試しに行ってみる。
抽選会場にはガラガラがあり、町の子どもや大人、老人まで回していた。列になっていたので景品が見えずにいた。
そうして回ってきた自分の番。後ろも詰まっていたのですぐにとってに手をかけ、左向きに大きく回した。出てきたのは赤色だった。同時にベルが鳴り、
「おめでとうございます! 特賞の四字熟語一年分でーす。」
担当の者は大きな声でこう言った。
「四字熟語一年分ってなんですか?」
「あーこの名の通り四字熟語一年分です。後ろも詰まってますので....」
「あ、すいません。」
半ば押し出される形で追い出された。
「俺は轗軻不遇だな。」
ん?なんだ今の。俺今なんて言った? かんかふぐうって言ったな。無意識のうちに。
福引会場を後にした俺は八百屋でリンゴを買うことにした。そこには蜜が溜まっていそうな真っ赤な林檎があった。
「おじさん。これください。」
「はいよ。いっこまけとくよ。」
「ありがとう。もう心は有頂天外だよ。」
「なんだかわからねぇが。また頼むよ。」
また無意識に。今日はどうかしてしまっているのだろうか。
家に向かって歩いていると彼女から電話がかかってきた。
「ごめん。好きな人ができたの。別れよ。」
「え。なんで。」
「ほんとごめんね。」
「なんで。なんで。本当に生離死別だよ。」
「うん?なんて?」
「生離死別なの。」
「もう切るよ。」
「ちょま、」
電話はプツリと切れてしまった。本当に形単影隻の思いだ。
人通りの多い交差点に出る。肩摩轂撃とはまさにこのことを指している。人と肩がぶつかる。頭髪上指まではいかないが怒りを感じた。
本当に暖かくなってきて一陽来復だな。
福引から一年が経とうとしている。永永無窮のようだ。俺は以前と同じく長蛇の列に並んだ。そして俺の番がきた。一日千秋の思いだ。とってを持ち左へ回すと金色の玉が出た。
「おめでとうございます!なんと、四字熟語100年分です!」
ああ、なんと。歓天喜地である。