第八号「混沌ラブコメ」
かなり気合の入ったラブコメです。
嘘なんかじゃありません。
だからこそ、この話をしっかりと目に焼き付けてくださると確信しています。
ついさっき幼馴染みをビンタした女子を、追いついたところでどうするんだと思いながら追いかけている今日この頃。
「どうしてこんなことになった」
「しゃっべっている暇があったら、脚を動かしたまえ」
部長はフードコートから一切動いていないくせに、言いやがる。
ていうか、俺はゴールデンウィーク最終日に何をやっているんだ?
ショッピングモールにいることはまだしも、ほとんど関わりのないクラスメートを昼飯も食わず追いかけているとか。改めて、俺の高校生活は混沌だと思わざるを得ないな。
「っと」
「追いついたかい?」
「あぁ。フードコートから割と離れたところにあるベンチに座っている」
「それじゃあ後は、分かっているね」
「分かってはいるが、俺には荷が重すぎる。十五時までに、フードコートの近くにある広場まで空崎遥を連れて行くなんて。ただでさえ関係が薄いってのに、今の空崎遥は不安定すぎる」
「確かに条件は厳しい。だが、だからこそ私は君に託したいのだよ」
「そんなに頼られても、成果を出せるとは限らないぞ」
「そうかい? 君なら案外成功させる気もするんだが。だって君はここまで一度も、不可能とは言っていないじゃないか」
「はぁ......。分かった。一応チャレンジはしてみる。ただ、成功の保証なんてものはないからな」
「大丈夫だ、君なら出来るさ。何せ君は」
「一旦切るからな」
部長のやつ、ちょいちょいブラックジョークを挟んでくるな。
やはりあの部長は、俺をイライラさせることに特化している。
だが、ひとまずそれは置いといて。
今の俺の相手は空崎遥。
数分前に彼女は幼馴染みをビンタし、心の状態はかなり不安定。
そんな相手を、約一時間で少し距離のあるところまで連れてくる。
まぁ、ここまで来て引き返すのもあれだしな。
「さて、少しだけ頑張ってみるとするか」
「隣、座るぞ」
「は? なんであんたがここにいんのよ。てか、私が答える前に座るな」
「まぁまぁ、そんなこと言わずに。少し話したいことがあってな」
「あんたが動かないなら、私が動く」
「喧嘩したんだろ。幼馴染みの小野と」
「......何で知ってるわけ」
「たまたま見かけてな、フードコートで」
「それで、なにしに来たわけ」
これはかなり面倒臭いな。
前に俺に話しかけてきたときと比べて、かなり態度が悪い。
小野との間でよっぽどのことがあったんだろうが、もうそんなことはどうでもいい。
俺がすべきことは、空崎遥を広場まで連れて行く、それだけだ。
「実は小野に頼まれてな。空崎のことを連れ戻してきてほしいっていう風に」
「あいつは直接来ないってこと?」
「まぁ、そうなるな」
「ふざけてんの? 今、あいつ以外の人間が来ても何の意味もないの。ここで私が、素直にあんたの言うことを聞くとでも思ってるの?」
どうやら、今だな。
俺が空崎遥に踏み込んでいくのは。
「あいつ以外?」
「なに?」
「いや、少しだけ気になってな。デリカシーがないことを承知で言わせてもらうが、小野から離れて行ったのは他でもない空崎自身じゃないのか?」
「っ、わざわざ喧嘩を売りにきたの?」
「そういうんじゃない。ただ、少し気になっただけだ。どうして幼馴染のはずの二人が、あんな風になったのか」
「そんなこと、あんたに言うわけないでしょ。結局、私とあんたは全然関係がないわけだし」
「確かにその通りだな。もう俺からそのことを聞くことは止めよう。その代わり、一個だけ別の質問に答えてもらいたい」
「それに私が答えたとして、私に一体何の得があるの」
「まだ間に合うかもしれない」
「......何が?」
「それは俺が言わなくても分かっているんじゃないか?」
「……分かった。聞くだけ聞くわ。けど、答えるかどうかは質問しだい」
覚悟を決めていても、あまり気は進まないな。
俺が今から聞こうとしていることは、空崎遥にさらなるダメージを与えることになるかもしれないからな。
「小野に好きな相手がいると思うか?」
「は......? それ、どういう意味」
やっぱりそういう反応になるよな。
だが、手っ取り早く空崎遥ときちんとした会話をするには、これが一番の話題だ。
大事なことは、空崎遥の意識を俺に向けさせること。そのためには、俺自身が爆弾を投下するのも一つの方法だ。
「そのままの意味だ。少し気になってな」
「帰る」
「その前に質問に答えてくれないか」
「答えるわけないでしょ! そんな質問に」
「分からない、とは言わないんだな」
「なっ......!」
「分からないとは言わず、加えて答えようとはしない。それはつまり、」
「あいつにはきっといるわよ! 好きな相手が!」
「どうして分かるんだ? 直接小野から聞いたのか?」
「そんなんじゃないわよ。けど間違いなくいるのよ、あいつには。まさか、今日知ることになるとは思わなかったけどね」
「今日? 一体何があったんだ」
「今日初めてあいつが、私を誘った理由を言ったのよ。最初に誘われた時には、少し付き合ってくれって言われただけだったから。それでその理由っていうのが、あいつのお姉さんへの誕生日プレゼントを選ぶのを手伝ってくれ、っていうのだったのよ」
「それは、特に何の問題もないように思うんだが」
「えぇ、そうね。その理由に問題はないわ、もしそれが本当のことだったなら」
「お姉さんの誕生日という理由は嘘だってことか?」
「確かにあいつにはお姉さんがいる。実際、私もよく遊んでもらったし、今でも交流あるし。けど少し気になって、買い物の途中でスマホに登録していたお姉さんの誕生日を見てみたのよ。そしたら、やっぱり違ったのよ。お姉さんの本当の誕生日は十月だった。でも、私が本当のことを知っていることに気づいていないあいつは、私が何となく誘って理由について聞いてもごまかし続けたのよ」
「それなら何で、フードコートで怒ったんだ? 話の内容から察するに、早い段階でその嘘には気づいていたようだが」
「勘違いかもしれない、そんな風に思おうとしてたのよ。けどやっぱり気になるから、フードコートで結構踏み込んだ話をしたのよ。それでもあいつは、変わらずごまかし続けたのよ。そしたら、だんだん腹が立ってきたのよ。私自身もよく分からないけど、自分の怒りの感情が抑えられなくなっていた」
「なるほど。ようやく合点がいった。それにしても、少し意外だな。まさかここまで話してくれるとは」
「喧嘩売ってんの?」
「いや、そういうんじゃない。ただ、答えてもらえる見込みはほとんどなかったからな」
「確かに私も驚いてるわ。あんたのふざけた質問にしっかり答えるとは。たぶん、私はどうでもよくなったんだと思う」
「どうでもよくなった?」
「なんか、時間がたったからか落ち着いてきちゃってね。そしたら、今日これまでのことが全部どうでもよく思えてきちゃって」
「落ち着いてきたら、どうでもよくなった、か」
「意味が分からないわよね。私もそうよ、自分自身のことすらよく分からなくなってきたのよ」
このままにしておけば、火は消えてしまうかもしれない。
なら、今ここですべきことは一つ。
「すまない。俺は一つ嘘をついていた」
「うそ?」
「あぁ。さっき、小野は嘘をついていてそこから小野には好きな相手がいると感じた、そんなことを言っていたな」
「そうね。嘘をついてまで、女子受けするような商品を探してたんだから」
「実はな、俺は、小野が空崎を誘った本当の理由を知っている」
「は? なに言ってんの?」
「もちろん信じてくれとは言わない。だが、もう一度小野に会ってくれないか。そしたら、小野から直接本当の理由を聞けるかもしれない」
「そんなことに私が素直に従うとでも」
「あぁ。俺はさっきこう言った。俺の質問に答えてくれれば間に合うかもしれないと。そして、お前はその話に渋々ながらも乗った。お前はまだ小野との関係を終わらせたくないんだろ、少なくともこんな形では」
「やめて、私はもうどうでもよくなったの」
「まだ間に合うかもしれないんだぞ」
「もういいのよ! ついさっき、あいつを信じて結局だめだったのよ!」
「そうか、それならもうこれ以上は口を出さない。ただ最後に一つだけ聞いていいか?」
「なに」
「小野との関係が終わってもいいんだな」
「いいわけないでしょ! こんな形であいつとの関係が終わるなんて! でもどうすればいいのかわからないのよ! 今、私は自分自身の気持ちもわからないのよ!」
「なら立ち上がれ。そうすれば、俺がお前のことを必ず小野の元へ連れてってやる」
言っていることは無茶苦茶で、明らかにマイナスな感情に支配されている。
そんな状況で勇気を出すことは難しい。ここで心が折れてしまうことも十分あり得る。
だが、空崎遥は大丈夫だろう。
何せ彼女は、
「いいわ。私をあいつのもとに連れて行って。このまま終わるなんて、そんなふざけたことは認めないわ!」
しっかりと立ち上がれるだけの強い想いを持っている。
気合が入っているということは嘘ではなかったと思います。
だからこそ、今回では決着をつけられなかったんですね。
大丈夫です。次回こそは決着をつけます!
それではまた、次回お会いしましょう!




